05-夜の交わり


uta05











































カチャ、という食器のぶつかる音がリオの部屋に小さく響いた



彼女は今リビングで食事をしている

自分で材料を確保し、調理したソレを食べることは最高の娯楽だった



「…うん、おいしい」



スープ皿には赤く色づいた液体の中に白くて四角い何かが浮かんでいる

ガリッ、とした音を立てて白い何かはリオに噛み砕かれた



「骨はもうちょっとスライスしたほうがいいかな」



ひとりごとを呟きながら食事を進め、メインディッシュに手を付ける

丸皿の上に肌色の皮が何かを包んでいる物体が置かれ、切りそろえられた黒く細い糸状のものが添えられていた



包みにナイフを差し込んで切り込みを入れると赤い液体が中から溢れてくる



「ジューシィー!包み焼きは普通に焼くよりも香りがいい!」



満足いく出来だったのか、顔をほころばせて包み焼きとやらを頬張った



リオの趣味の1つに「料理」がある

焼く、煮る、蒸す、炒める数々の調理法を駆使して食材を調理し、よりおいしく食べることに余念がない



「…ウタにも食べさせたいなぁ…」



リオは最近仲の良いお向かいさんを思い浮かべた



「まーでも、まだ早いかな」



包み焼きの肉(?)汁に黒い糸状のものを浸して口に放り込む









しばらくして食事を終えた彼女は食器を片してから着替えを始めた



赤いスウェットは黒いTシャツへ

黒いハーフパンツは赤いホットパンツへ

蜘蛛の巣模様のパーカーを羽織りフードをかぶる



黒いガーゼマスクには三日月が白く描かれていた



パーカーのポケットに折りたたまれたトートバッグを押し込む



ヒールの低い編み上げブーツのヒモをきつく縛り夜の街へ



遠くで喧騒が聞こえそうな4区の夜はどこか不気味な雰囲気だがリオはそれが嫌いではなかった



歩きながらイヤホンを取り出して耳に差し込む



プレーヤーに端子を差し込めばお気に入りの音楽が脳に届いた



「♪」



先日散歩した駅前へ足を運び辺りを視線で見渡す

軽くスーツを着崩した若い男性が目についた



「……もうちょっと引き締まってるほうがいいんだよなぁ…」



若干膨よかさを感じるシルエットにリオは男性から視線を外す



次に目に止まったのはテニスラケットを持った女性

夜間のテニススクールの帰りかラフな服装で軽快に歩いていた



「(運動する人は血が美味しいんだよね…サラッとしてて)」



今日の獲物を決めたリオは彼女の後を追う

彼女は家へ向かっているのか大通りから一本外れた道に入った



辺りに人の気配がないことを確認して物陰から彼女の背後へ回り込む



音もなく近づいてうなじに手刀を喰らわせると女性の体は力をなくし地面に倒れた



リオは彼女の体を横抱きにし、路地裏へと移動する



ラケットは近くに放り、彼女の来ていたパーカー、Tシャツ、ジャージや下着を全て脱がせた



「スタイルいいのね。彼氏には悪いけど、私がいただきます」



ピキキ、と小さく音を立ててリオの右手が黒く変色していく

手首まで色が染まるとその手で彼女の体を迷うことなく捌き始めた



まるで人間が魚や牛などを捌くのと同じように人間の体を捌いていく



手を差し込んだところから赤い血液が止めどなく溢れだすことも気に留めずただ静かに手を動かした



「……………」



黙々と肉を捌き、ものの5分程度で捌き終えたリオはポケットから折りたたまれたトートバッグを取り出す



ジップロックに肉片を詰めてトートバックの中へ入れればそこには女性の衣服だけが残された



血に濡れて少し重みを増した衣服を器用に畳む



「………こんばんは」

「───っ!?」



畳んだ衣服から手を離した瞬間、視界に2本の足が飛び込んできた

そして頭上から他でもない自分へ投げかけられた挨拶は、どこかで聞いたことがある



しかし見上げた足の持ち主の顔には白いフルフェイスマスクが着けられていて素顔を見ることは叶わなかった



「…こんばんは」

「君、最近白鳩に”服屋”って呼ばれてる喰種だよね」

「…そんな呼ばれ方、したことない」

「だろうね。だって君は白鳩は食べてないから」



突然現れたその人…おそらく喰種であろうその男は自分に危害を加えようとする素振りもなく、ただ目の前に立っている

マスクは目元も隠しているため視線を探ることもできない



「……ここは、あなたの狩場?だとしたらごめんなさい。これはあなたにあげる」

「僕、目が好きなんだ。目だけちょうだい?」

「目…どこやったかな…あぁ、あった」



バッグの中を探って2つの眼球が入ったジップロックを取り出す

あわよくばこれで見逃して貰えたら楽なんだけど…そんな意味も込めて差し出した



「ありがとう。…ねぇ、僕だよ?そろそろ気づいてほしいなぁ」



眼球ジップロックを受け取ったマスクの

人はちらりとマスクをずらして自分の素顔をリオに示した



「いやまぁそんな髪型の人そうそういないから気づいてるんだけどさ」



緊張のオーラを取り払って肩をすくめる

いくら素顔をマスクで隠していようと彼の特徴的な髪型は見間違うことはない



「わざと気づいていないフリするなんてひどいよ」

「人の後尾行して知らないフリするなんてひどいよ」

「あれ、バレてた?」

「割と早い段階で」

「早く気づいてほしかったから」

「で、何のよう?こんな時間にこんな場所で」



よいしょ、と足元のバッグを肩にかけてリオは首を傾げた



「リオさんが喰種だっていう確証がほしかったのと、”服屋”についての調査ってとこかな」

「もうちょっと隠そうと思ってたんだけどなぁ」

「どっちつかずの言葉遊びも楽しいけど、リオさんの家からいつもいい匂いがするから我慢できなかったよ」

「じゃあ今から食べに来る?」

「そうさせてもらえると嬉しいな」



ウタはマスクを外してサングラスを装着する

リオは血まみれになった服をそのままに近場の外階段に足をかけた



「あれ、上からいくの?」

「この格好で街中歩けないでしょ」

「その姿も素敵なのに」

「私を白鳩の餌にするつもり?」

「大物が釣れそう」

「断固拒否」



かけた足に力を入れて踏み込む

反対側のビルの壁と交互に渡って屋上に登った



屋上から見下ろす4区の街は暗く深い沼のようだ



「ソレ、重くない?」

「一人分の肉だからね」

「そっか」



屋上から屋上へと飛び移り自宅を目指す

地面を歩いて帰るよりよっぽど早く家には着いた



「30分したら来て。シャワー浴びたりしてから作るから」

「僕も運動したから汗かいちゃった」

「じゃあまた「一緒に入r─寝言は寝て言いなさい」

「…残念」



お互いが自宅兼店舗へ帰り扉を閉める





扉を後ろ手に閉めたリオの顔には笑みが浮かんでいた















─────────

(何作ろうかな…)









Back
- ナノ -