3

口から出たがる突っ込みの言葉を飲み込みどうにか気を取り直す。
兎に角ヤバい。何にしてもヤバい。緊急事態だったのだとしても相手は校内一人気の高い生徒会長。絡むのはいくら風紀委員とはいえお世辞にも美形とは言えない容姿の吉里。周りの目が恐いし会長自身も恐い。っ早く回収しないと、


「?せんぱい、どぎゃんかし、っんぐ」


っ黙らされたー!!
肩を掴めるまであと少し、という所まで手を伸ばしたが間に合わず。更なる接触が、まさかの会長から行われる。喋ろうとした吉里の口を掌で塞ぐって、何の粗相をしましたかねうちの子はーっ。
叫びを食い縛り、今度こそ肩を掴んでグイッと自分の方へ引き寄せた。


「、……あー。すみません。相方が失礼しまし、た」

「………。いや」


……気のせいか。気のせいか?何か一瞬酷く寒気を感じた気がしたけど……気のせい、か?
動揺マックスだがキリッと毅然とした態度を取り繕い会長に対する。俺、頑張った。でもその途中襲ってきた言い様の無い感覚に危機感を覚える。何だ、今の。会長に近付いた吉里に対する周囲の嫉妬か?いや、今のは俺に向いていた気がする。何故?……兎に角ここは離れた方が良さそうだ。
吉里を支えつつ会釈をして片足を引く。それにチラリと視線を寄越してきた会長が一瞬ハッとした顔で俺の後ろを見て、しかし直ぐ元の無表情に戻った。……後ろ?


「こんな所にいたのか」

「あ」

「あまくらせんぱいー」


振り返ると割れた人混みの間から委員長がゆっくりとこちらへ歩み寄ってきた。その後ろには呆れ顔の東谷さん。天の助けかとホッとする、が。委員長?何か、メッチャ人の悪そうな顔してんすけど。……何すか。

余計に不安が競り上がる中、近寄ってきた委員長が件のゼリーについて会長へ話す。そのせいで酔った生徒がいる事も、吉里と陶山さんを見ながら語れば周囲の生徒達も納得した声を溢した。


「どうも。『ウチの』後輩が世話になって」

「…………」


俺と吉里の肩に後ろから抱え込むよう腕を乗せた委員長がニヤリと笑う。言っている事は何のへんてつも無いものな筈なのに、何か含みがあるような……。て言うか何か、今凄くピリッと空気が張り詰めた。謎な状況に顔を引き攣らせる俺の隣で、吉里はうとうとと舟を漕ぎ出す。良いな、酔っ払いって奴はよう……っ。

とっとと逃げたいのに何故か委員長がガッチリと肩を掴んでいて動けない。あの、離してくれませ……駄目っすか。
言おうとしたが腕の力が強まった事で離す気が無いという事を知る。強引に抜けようかとも思ったがその後が恐い。何の意図があるのか分からないが我慢するしかないと抜けそうな魂を引き留めていると、ニュッと誰かが顔を出してきた。


「わっ。す、陶山さん?」

「吉里!えらいぞー。ちゃんとオレの話きーてさっそくふれんどりーに話しかけたんだな。いいぞいいぞーっ」

「?…………はい」


あ。ヘラーッと笑いやがったが分かってないぞこいつ。
誤魔化した吉里を半目で見やりつつ、でもラッキーだと心中ガッツポーズを取る。ただの酔っ払いの奇行が、先輩委員の指示に従ったから、と印象を変えられたら。ちょっとは周りの目もマシになるのでは。良いぞ、陶山さん。頑張ってください!


「そうだなー。かいちょーだろうがいいんちょーだろうがせんぱいだもんな」

「う、ん。は、い」

「よう、せんぱい」

「……貴方は同じ年でしょう」


……でもやっぱりそろそろ陶山さん回収してはもらえないだろうか。段々見ていて恥ずかしくなってきた。普段もおちゃらけた人だけどあそこまではない。陶山さん自身のイメージはさておいて風紀の威厳的にも何とかしてくださいよ。と、東谷さんの方を横目で見たが我関せずといった態度で他所を向かれた。あんたの相方でしょうがよーっ。
ギリギリと視線での訴えを無視される前で、呑気な会話はまだ続く。


「なー。こうして、言えば話しかけるやつだっているんだぜ?だったら、そっちが話していけば、もっと話してくれるやつだっているさ」

「……そうですかね」

「おー。やらかして気まずいのは分かっけど、それでぎゃくにひがいしゃみたいな態度になってたらだれもちかよれねぇわ」

「…………」

「まぁ話しかけよーにも今まで恐れおおいとかつって引きまくってた連中もわるいけどなぁ。そりゃ親しげに話してくれるやつになびきもするってー」


うぉお。酔っ払いの癖にと言うかだからか。結構キツく突っ込んだな。生徒会も周囲の生徒達もグッと口籠ったのが見える。
ノリと勢いだけでごちゃごちゃなお膳立てだけしかしないかと思っていたけど、意外に色々考えていたのか。うーん。でもこっからどう動かせるのか。


「その点吉里はえらいぞー」

「う、あ」

「東雲もー。はなしかけてたよなー」

「ち、ちょっと、」


考えてない。この人何にも考えてないぞこれ。
抱き掛けた感心が遠くへ消える。これ、本人は説教したとも思っていない。ただ言いたい事を言っただけだ。酔っ払いは酔っ払いでしかなかったわ。捕まった二人揃って頭をグリグリ遠慮無く掻き混ぜられる。あぁ、もう。痛いし鬱陶しいし。何よりまた背中がゾワゾワと寒気して落ち着かないし。委員長いい加減離してくださいっ。



[] []





あんたがたどこさ
一章 二章 三章 番外 番外2
top




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -