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「風紀は仲が良いんですね」

「そうだ。うらやましいだろー。はっはー」

「……そうですね」


嫌味かと睨むがそこには予想外な事に、マジで羨ましそうな顔をした生徒会メンバーが。どの辺りが羨ましいんですかね……。
先輩方から振るわれる理不尽さを今一番感じているのに、とやさぐれていると、クッ、と何か噴き出す音が上から落ちてきた。


「羨むのも無理はないさ。特にこれは『ウチの』『自慢の』『可愛い』後輩だからな」

「……っ?」


何だ今。メッチャ寒気したんだけど。寒気って言うか、殺気感じたんですけどっ。
何だと視線を巡らすが一瞬だった為出所がさっぱり分からない。感覚的にここに来てからずっと同じ人物が投げてきているのではと思ったけれど。何なんだこれ。
クツクツと凄く楽しそうに笑う委員長は、何だかとても悪そうな顔をしていて。……取り敢えず、ヤバい案件ではないのかな。それよりこの委員長の方が問題ありそうな気がする。
戦線恐々。聞きたい事はあるけれど黙って大人しく生け捕りのまま時が過ぎるのを待つ事に。そうして天井を仰ぎ見ていると、会長が一つ溜め息を吐いた。


「宛が外れたからといってこちらに当たるのは止めてもらいたい」

「…………」


委員長の表情は全く変わらない。なのに、周りの温度がガクッと落ちた気がする。そして直で感じる刺すような空気。
取り敢えず分かった。理由は分からないけど出所は分かった。この二人だ。何だ。何した。……何でも良い。帰りたい。帰って昨日のアニメの録画見直したり今日ある話についてネットで予想したりしたい。今やっているゲームはイベントいつからだったっけ。
遠くの景色を眺めながら現実逃避。どうにでもなれチクショウ、となげやりになっていた時。不意におい、と声を掛けられた。


「そろそろ休ませてやったらどうだ」

「え?……あ」


会長の言葉に何だと横を見れば、グデンと頭を垂れた吉里が。
うわっ、と焦って支え直し控え室へ行くと委員長に告げる。そうすれば頼んだ、とアッサリ拘束が解かれた。そのまま肩を抱え出口まで向かう。


「吉里、大丈夫かっ」

「っ、う……だい、じょ、ぶ。どぎゃんでんなか、よぅっぶ」


また方言っぽい言葉な気がして思わず口を塞ぐ。吐きそうになったのだと周囲は思ったようで引いたりたまに心配そうな視線を感じたり。何にせよ道を開けてくれるのは有り難いと前へ進む。途中他の風紀メンバーからも声を掛けてもらったりしながらどうにか会場を出て扉を閉めた時。今日って何の集まりだったっけと疲れた肩を落とした。











その後更に『何で僕その場にいなかったんだろう』と嘆き悲しむ副委員長をあしらったり、直ぐに復活して『酔った子って可愛いよね』と絡む副委員長をどついたりと無駄に疲れた日の次の朝。朝の当番は何の巡り合わせか昨日の二人と一緒だった。


「ボケのお陰で散々だったが、それを切っ掛けに生徒会側が自分で接触図ろうとし始めたのは万々歳だったな」

「あー、そうなんですか」

「他の生徒も普通に話そうとしてはいたらしいぜ」

「して『は』いた?」

「そんな直ぐに変われてたら誰も苦労しないって事」


確かに。しかしその心掛けを続けていればいつかは生徒会と一般生徒の厚い壁が無くなるだろう。後は時間の問題だ。……結局、あの集まりは本当に仕事の一貫だった訳だ。予想以上の成果だと笑う東谷さんを見て溜め息を飲み込む。
そんな俺の隣では、大きな大きな溜め息が吐かれた。


「穴があったら埋まりたい……」

「……まぁ、ドンマイ」

「安心しろ。周りには先輩の無茶振りを健気に実行した命知らずの一年、みたいに言われてたから」

「……命知らずって」


控え室で少し休んだ後そのまま帰らせてもらった時はまだほやほやしていた吉里も、朝になればやらかした事実に頭を抱えたらしい。憶えてないな、と乾いた笑いを立て巡回班について逃げた陶山さんとは違い後悔の渦に落ち込んでいる。
ケータイを抱え唸る吉里に、東谷さんは結果オーライ。寧ろよくやったな、と慰めと労いを言うが明らかに適当に流しているだけだ。そうして益々項垂れる吉里を放ると、東谷さんはそれより、と視線を斜めに投げた。


「生徒会長と風紀委員長の不仲説出てんだけど」

「……どうなんでしょうかねぇ」


今は空席の委員長の机を見ながら腕を組む東谷さんへ肩を竦める。一応、俺達も知らないところで騒動解決に向け協力していたというから敵対まではしていないと思うけど。あんだけピリピリしてりゃなぁ。
昨日の寒気を思い出し腕を擦る。仲が悪いとしたら、風紀だからと同じ様に警戒か威嚇かされていたという事だろうか。あの会長から。それであの寒気と殺気。成る程。……スゲェ胃が痛くなるなそれ。
上のいさかいを下にまで持ってこないで欲しい、と嘆いていると、まぁ良いか、とさっぱり話を打ち切った東谷さんが伸びをして時計を見る。そして、いい加減陶山さんの帰りが遅いなと眉を顰めて席を立った。出ていく背中を見送り一息吐く。すると机に伏せていた吉里がモゾモゾと動いてこちらを向いてきた。


「あの。東雲君には、本当に迷惑掛けて。すみません、でした」

「……別に良いけどな。驚いたぞ。いきなり会長に気安く話し掛けるんだもんな。知り合いとでも勘違いしたのか?」

「う、あの……や、うん。そうかも、うん」


あんまり憶えていないけど、と言い腕の中口を埋める吉里を横目で観察する。視線をさ迷わせながら、というのは怪しいがまさかマジで会長と知り合いな訳無いしなぁ。
他にあんな行動に出る理由はあるかと考える俺の隣で、吉里はフルフルと頭を振って顔を上げた。


「もう。変な事しないよう、ワインだけは絶対口にしないから」

「そうだな。大変だったんだぞ色々。大人しいけどやっぱり口調はごちゃごちゃで」

「う……マジで?」

「方言使いそうになっては口塞いでやってたんだから、……な?」


口を塞いだと言えば。会長、何で吉里の口塞いだんだろう。あの時は確か吉里が何か言おうとしていて……何だったか。


「ほ、方言も気を付けるからっ」

「ん?あぁ。でもそこまで張り切らなくても良いんじゃね?小町とかなら喜びそうだし」

「え?何で」


不思議そうに首を傾げる吉里を見ながらまぁ良いかと溜め息を吐く。所詮酔っ払いのやった事だ。陶山さんの行動みたいにノリだけで理由なんてあってないものだろう。
そう思考を打ち切って答えを待つ吉里を見やる。取り敢えず。密かに気になっていた『にゃん』とは何かについて聞こうかと口を開いた。



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