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これは二人まとめて無理矢理にでも控え室へ押し込んだ方が良いんじゃ、と考え出した俺の肩に、ポンと音が。


「と。まぁそんな訳で。俺委員長探してくっから。それまで頼んだ!」

「え、ちょっと!?」


爽やかな笑顔を最後に人混みへ紛れていく東谷さん。そうして残されたのは俺と酔っ払い二人。面倒押し付けられた……!
マジかよ、と痛む頭を抱える。吉里はまだ大丈夫だけれど陶山さんはどうしろと。そう嘆きに沈む俺へ、心配そうな顔の吉里が話し掛けてきた。


「あずまやせんぱい、どこさんか行かしたと?」

「…………あぁ、そうか。それ方言?」

「え?……でと、……出て、る?」

「たぶん」


愕然とした表情で口を押さえる吉里。何か敬語とタメが混じっているなと思っていたけど酔いで口調が定まっていないらしい。しかも自覚無し、と。
今まで敬語を使い続けていた理由らしい方言。別に良いんじゃね?と思うが頑なに隠していたからには他の人に知られたくないのだろう。そう思って注意すれば吉里は神妙そうに頷いた。


「気をつけにゃんね……」

「……気を付けてくれ」


にゃん……。うん、方言か。方言方言。猫語じゃない。吉里は萌えキャラの真似とかしない。うん。
思わず突っ込みそうになった手を握り、どこかへ駆け出そうとする陶山さんを捕まえふかーく息を吐き出した。


そうしてフラフラどこかへ行きそうな陶山さんを捕まえ吉里に宥めてもらいながら東谷さんを待つ。段々疲れてきたのか本格的に酔いが回ったか、うとうとしだした陶山さんに安心して一息吐いた時。吉里がどこか一点を見詰めているのに気付いた。


「吉里?どうした?」

「あ、……と。いや、その、何でもな、」

「んー?生徒会?……あぁ」

「……あー」


こいつの何でも無いは信用ならない。そう睨み付けてから同じ方へ目を走らせる。するとそこには人混みの中ポカリと空いた一角。沢山の生徒がいる中異様とも言えるその場所に佇むのは、何とも居心地悪そうな生徒会メンバーだった。
騒動で大変だった、に一応含まれると副委員長が呼んだんだが。大変だったのは主に会長で他はぶっちゃけ原因だと思うんだけど。……たぶん、集会で謝罪はしたけどそう簡単に取れない不満やら不信感やらで腫れ物扱いされるメンバーと他委員とのしこり解消がこの会一番の目的なんだろう。ただし、場と機会与えてやるから後は自力で何とかしろ、って感じだけど。
いやしかし。会長は普段の如く涼しい顔でグラス傾けているだけ。他はチラチラ周り見てるけど固まったまま動かない。その周りも気にはしているけど遠巻き。これじゃ意味ねー。


「……まぁ、お互い話し掛け辛いっつーか。今まで別次元扱いでろくに交流しなかった連中と和気藹々って厳しいとしか言えねーよな」

「……うん。ですよ、っじゃなくて。だよ、ね」


落胆した様子で寂しそうに頷いた吉里がまた生徒会の方を見る。色々面倒掛けられて、体壊してぶっ倒れた原因で、最初の頃嫌み言われた事もあるというのにそんな思いやれるとか。吉里スゲェな。
風紀の義務とかでなく本気で心配しているらしい吉里に感心していると、フラッと横で影が動いた。


「おー。吉里もあれ気になるか?気になるよな」

「うえ?」

「よしっ。じゃー行ってみよー」

「え?」

「は、ちょっ……!?」


静かにしていた筈の陶山さんが突然妙なテンションで吉里の腕を掴み駆け出す。正に一瞬の出来事。あっという間に人波をすり抜けていった二人を慌てて追うが行き交う人に阻まれ頭すら見えなくなる。……東谷さんんんっ。


どうしようもない怒りを、置いて逃げた薄情な笑顔にぶつけどうにか前へと突き進む。目的地は分かっている。……できれば途中で違う所に意識持っていかれてほしいけど、たぶん無いなぁ……。
あーもう、と悪態を吐き謝罪を入れつつ隙間へ体を捩じ込む。そうして後少しという所で、間延びしまくった声が耳に届いた。


「とにかくなぁ。はんせーしてんのはみんな分かってんだよ。なー」

「……そうですか」

「せーとかいだってもっと気楽にやりたいだろー?」

「……?」

「だからな。あー……。そう。もっとフレンドリーにいこうぜ!」

「……話が支離滅裂なんですが。まさか貴方、酔っています?」

「よってませんっ」


嘘吐けや。
聞こえてきた会話に脱力してしまいちょっと人並みに押し戻される。漸く見付けた陶山さんは、ほぼ予想通りな感じで生徒会に絡んでいた。仲間外れダメ絶対、みたいなノリだろうかと思っていたらマジでそんな感じ。そうして更に周囲で様子を窺う生徒に声を掛けてはほれ話してみろよ、と無茶振りをかます。なんて面倒な。生徒会への接近と大きめな声に気を引かれギャラリーが増えてきたし。


陶山さんと副会長の口論のようなただの管巻きと巻き込まれの会話は放っておこう。俺まで巻き込まれたらたまらん。それより吉里は、と視線をずらしたら。何か青い顔で口を押さえていた。あ。あれヤバそう。
急に走ったせいだろう。今にも吐きそうな様子で近くのテーブルに腕をつきギュッと目を瞑って俯いている。水か袋か。兎に角避難させなければ。

興味津々で成り行きを見ようと密集している生徒の間を苦心して進む。気は急くけどなかなか進まない。舌打ちを我慢しながら謝罪を口にし通り抜け、漸く圧迫間から逃れて吉里の方へ駆け寄るが、その前に体がグラリと傾ぐのが見える。慌てて手を伸ばしたがまだ遠い。倒れる、と声を上げ掛けた瞬間。スッと誰かがその背中を支えた。


「っう、あ?……あ。すみ、ません、ありがとうございます」

「……いや。気を付けるように」

「あれ?せんぱい?だ」

「…………」


あぁ、良……っくねぇ!それ、お前、いや、ちょぉい!!先輩って何フレンドリーに話し掛けてんだ!?相手分かってんのか!?


倒れそうになった吉里を寸でで助けた親切な人物。感謝と安堵を向けたが顔を確認した途端一気にその思考は吹っ飛んだ。
せ、生徒会長じゃねぇかそれーっ。


顔を引き攣らせる俺の後ろで数人驚きの声を上げたのが聞こえて冷や汗が浮かぶ。ヤベェよ。いやマジでお前。何でそんな、生徒会長って。
あまりにもあんまりな展開に動けず二人の様子をガン見する。吉里の『先輩』という発言にピクリと眉が動いた気がしたが、よくよく見ても生徒会長はいつもの如く何を考えているか分からない無表情。吉里は支えられたまままだ気持ち悪そうにしながらもおー、と抜けた感嘆の声。……何あの状況。

唖然と眺めていると数度深呼吸をして落ち着いたらしい吉里が体勢を整えると会長を見上げ、更にへにゃーっと笑い礼を言い直す。常より尚一層気の抜けた、安心したという笑み。親しい相手に向けるようなそれをもって何でよりによってそんな相手に絡むかなお前ーっ!



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