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今日の歓迎会のお昼は立食パーティーだった。パーティーという事で無料。豪華な料理の数々全部タダ。こんな事は滅多に無いと喜び勇んでいくつか食べてみたのだけれど。慣れないというか味が複雑過ぎるというか。まぁ、あれだ。あんまり美味くなかった。贅沢な話である。
そう話すと一応納得した先輩に今度は俺が首を傾げて質問した。


「先輩は俺が作ったもの、ちゃんと口に合っていらっ、……いますか?」

「ん?いつも美味いぞ」

「……先輩それしか言わないじゃないですか」


今までも何となく気になっていた事。俺の舌に高級な物がくどく感じるように庶民の、というか俺の質素な料理が合わなかったりしないのだろうか。基本食材は一般的な物しか使わないし出汁はインスタント。たまに冷食もあるし。更に言えば地域柄による味付けの違いもあるだろう。
高級料理とか知らないし作れないし食べられない。でももし先輩がそっちの方がいいと言うならちょっと考えなきゃいけないと思うんだけれど。


「本当に美味いと思ってるし、あまり俺にそう気を使わなくて良いって言ってるだろ」

「でも……」

「それに、……楽しく食べる事に意味があるんだろう?」

「……あー」


そう言えばそんな感じの事初めに言ったな俺。しかし俺が言った台詞ではあるんだけどこの人が言うとキザっぽく聞こえるのは気のせいか。イケメンだからだろうか。そうか。


「なんだその顔は」

「いやぁ……。先輩は先輩だなぁ、と」

「……どういう意味だ」


睨む視線を流して誤魔化す。グニッと頬を抓られたがそんなに強くなくて笑った。楽しんでもらえているなら嬉しいし、良かった。





「……アンタ、想像以上にデッレデレだったのな」


声に振り返れば呆れた顔でしみじみと言う隊長さん。何が?と瞬きしていると気にしないでと手を振られた。そして先輩にその場を退くように言い、代わりにそこへ座る。何で。てか先輩への対応ぞんざいだな。
意味が分からず対面のソファへ座った先輩を目で追おうとしたのだが隊長さんが袖を引いてきたのでそちらへ顔を向けた。


「ね。料理くる前にアド交換しとこー」

「え、」


早く早くと急かされて戸惑うままケータイを取り出す。まごつく俺の手元を見ながらキビキビ指示する声に釣られて登録してしまったが、これ、色々大丈夫なのか?誰かに見られたりしたら……名前変えておけば大丈夫か。


「……えーっと」


画面の名前欄を見て何と変えるか考える。蓮見万里先輩……。はすみ、ばんり。万里……。




『長城』


「ぶ、」


横から吹き出す声がしてハッと顔を上げると隊長さんが肩を震わせていた。しまった。つい連想ゲーム的ノリで打ってしまったけどこれは駄目だ。怒らせたか傷付けたか。アワアワと様子を窺うと、隊長さんは腹を抱えて笑っていた。


「いいねっ……!うけるっ……はははっ」

「は、はぁ……」


ケラケラ笑い転げる隊長さん。取り敢えず構わないらしいと胸を撫で下ろす。すると隊長さんは笑いを引き摺りながら手元を覗き込んできた。


「あーおもしろい。ね、タカはなんて名前で入れてんの?」

「え?」

「え?……ってもしかして、入って、ないの?」


首を傾げる隊長さんに困った顔を返す。どこから会っている事がばれるか分からない、と態と聞いていなかったのだ。先輩も何も言わないからそれで正解なんだと思っていたんだけれど。途端顔を顰めた隊長さんが先輩にクッションを投げ付けた。しかし先輩が軽くそれを避けたので隊長さんは益々ムッとした表情になる。


「もー、こんだけ一緒にいといて連絡手段聞いてないとかなんなの?やる気あんの?」

「お前……。はぁ……。無くてもなんとかなってたからな」

「そんなんダメダメー。よーし、んじゃ教えたげる〜。んでな・ま・えはー」


隊長さんが楽しそうに俺のケータイをヒョイと取りカチカチと操作する。隊長さんのも入れちゃったし、先輩のも一緒かと取り返す事なくぼーっとそれを眺める。暫くしてどう?と向けられた画面を見ると。




『タッキー』


「ふぶっ……!」

「……おい、何やった」


訝しげに眉を顰める先輩にぶんぶんと頭を振る。先輩にタッキーって。『たかゆき』だからか。良いのか、これ良いのか。
口を押さえて笑いを耐える俺の反応に気を良くした隊長さんはさっさと登録ボタンを押してしまった。


「っ、い、良いんでしょうか……っ」

「え?ダメ?なら頭に『ケン』ってつける?」

「……ふ、くっ。……それは、ちょっと……っ」

「ならいーじゃん。んー、でー。吉里くんはーっと」


機嫌よく今度は自分のと奪い取った先輩のを操作し始める隊長さん。あぁそうか。俺の名前も変えなきゃ意味無いよね。
よしざとゆーうーまー、とフルネームを連呼する隊長さんは暫くペシペシと画面端を叩き唸る。そして唐突に閃いたという顔をした後何かを打ち込んだ。何と付けられたのか気になって覗き込むと。




『まゆちゃん』


「……よし」

「え」

「うん。オッケーオッケー。これでいこうっ」

「は、ちょ、えっ?」


なんで『ちゃん』を付けた。いやそこじゃない。どっからそんな……あ、『ゆうま』から?いやいや、女の子っぽくて確かに俺とは分かんないけども!


「はいよ、タカ。これが吉里くんのアドね」

「は?…………ふ、」

「……おっ?うけてる?」


色々つっこみたかったが二人に変な名前付けたまんまな俺は文句を言えず、画面を見て笑いを耐える先輩を恨みがましく睨んだ所で料理が届いた。

二人が取りに行っている間にテーブルを片付けながら、そう言えば俺ここいて良いのだろうか、と今更な疑問を持つ。しかし戻ってきた二人の両手に抱えられた料理の量を見て色々吹っ飛んだ。何この量。
明らかに三人で食べきれないような数の皿。その殆どを平らげる隊長さんに呆然としながら育ち盛りはもっと食えとお裾分けをいただいたり喋ったりしている内に打ち解けていつの間にか緊張無く食事を終えた。











「降りるとこまで一緒に行くよー」

「すみません、お願いいたします」

「んーん。当然とうぜ〜ん」


先に出て廊下周りに人がいないか確かめに行った隊長さんを待つ。隣に立つ先輩を見上げると、生徒会室で会ったよりかなりスッキリしているように見えてほっとした。


「……あ、良いみたいです」

「そうか。じゃあ気を付けて帰れよ」

「はい。お邪魔しました」


ケータイを閉じ本日二回目のおやすみなさいを言う俺の頭を撫でた先輩に笑い返しこっそりと部屋を出る。エレベーターの前で手招く隊長さんに駆け寄って着いた箱の中へ乗り込んだ。


「ありがとね」

「え?」

「あんな風に楽しそうなアイツ見んの、すっごい久し振り」

「……そうなんですか?」


エレベーター内で隊長さんが嬉しそうに話しかけてきた。そうなのか。まぁ学園で見掛ける普段の先輩はだいたい無表情だけど……。よく分からん。


「だからアイツのこと、これからもよろしくね。あ、もちろん僕もね!」

「……はいっ」


小さくハイタッチをした後ニコッと優しく笑って手を振る隊長さんに一礼して別れを告げる。閉じたエレベーターが機械音を立てて動くのを見てから自室へ戻った。

扉に鍵を通しながら考える。また、と言われたという事はこれからも先輩に会って良い、という事だよな。あと隊長さんとも仲良くしてもらえるみたいだし。


部屋の明かりを付け増えた電話帳を開いてニヘラっとだらしなく笑った俺は、手近のクッションに飛び付いた。



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