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「コイツを助けてくれて本当にありがとう!もう、どうしようかと思った!」

「あ、あぁ、いや、結局は貴方が皆倒してくださいましたし、俺は本当に何も……」

さっきの鬼気迫る勢いはどこへやら。眉を下げて喋る様子は若干幼く、確かに同級生なのだと思わせる。しかし、お礼、言い過ぎなんですけど。抱き付かれている方も苦笑しているし。
何度も言われるお礼の言葉にどうしたものかとオロオロしていると、離れた所から不意に枝の踏み折られる音が聞こえてきた。

「すまない、ちょっと良いか?」

急に聞こえた声に驚いて振り向けば、倒された男達の向こうに困ったように笑う男が立っている。それがこれまたなんかえらいガタイの良いお兄さんで。ネクタイを見ると転がっている人達と同じ色のため今度こそ上級生……ってヤバい?仲間来ちゃった?
慌てて未だ座り込んでいる二人の前へ立ち塞がる。どんな相手かよく分からないけれど体もこの同級生より高いし、たぶん強いと思う。
枝は小さい同級生の方に近付く時に捨ててしまった為手ぶらだ。さっき戦ってくれた人も体力をかなり消費しているだろうし、どうしようかと焦りながら睨み上げる。すると、後ろから驚いたような呟きが聞こえてきた。

「……風紀委員長、さま?」

へ?と振り返ると小柄な方の同級生にアワアワとした様子で大丈夫だと言われる。隣の大きな同級生もうんうんと頷いていてちょっと安心し掛け、でも本当に?と混乱していると落ち着いた低い声が掛けられた。

「驚かせてすまない。新入生が二年生に連れて行かれていたという報告を受け探しに来たのだが、駆け付けるのが遅くなってしまったようでな」

申し訳なさそうに謝ってくる先輩の様子に漸くほっと構えを解く。そうして落ち着いて先輩の姿を見てみればその腕には臙脂色の腕章が有り、黄色で『風紀』と刺繍がされていた。

「えっと、すみません。警戒なんてして……」

「いや、突然声を掛けたこちらが悪い。それに彼を助けてくれたようだな。事件を防いでくれてありがとう」

「いえ、助けたのは彼で……」

何かさっきからやたらとお礼を言われるなと戸惑う。俺は結局ただ飛び出しただけなのに。ちょっとカッコつけた感じで。……一応時間稼ぎくらいはできていたとは思いたいけど。
事情を訊ねてきた風紀委員長さんに簡単に状況を説明すると、先ずは怪我した同級生を保健室へ連れて行き、放課後また詳しく話す為に風紀室へ行く、という事になった。

「君は今から保健室に行くとして、そっちの二人は……」

「コイツに付き添います」

風紀委員長さんの問いに背の高い同級生が直ぐに答えたのでじゃあ自分はどうしようかと考える。そんなゾロゾロ行っても邪魔だろうだから戻るかな。
そう口に出そうとすると袖を引っ張られ、上げていた視線を下に向ける。見ると小さな方の同級生が俺の右手を掴んで開いて見せきた。

「きみも行こう?手、ケガしてるよ。……ごめんね」

木の枝を掴んだ時にでも引っ掻けたのだろう。小さな切り傷が出来ていた。ほっとけば治る程度なのでこれくらいなら大丈夫と言ったのだけど、泣きそうに顔を歪められぎょっとする。え、何?何で?俺泣かせた?

「ごめ、ん。どっちかっていうと、ぼくが、付いてきてほしい、ってだけ、なんだけど……」

迷惑だよね、と顔を伏せられ益々慌てる。先程の様子から触れても大丈夫なのだろうかと少し迷いつつ、そっと背中に手を置き撫でた。

「初対面の俺が付いて行く方が嫌かと思ったので。すみません、俺も行きます」

ポンポンと背中を叩いていると暫くしてありがとうという言葉と共にほうっと息を吐く音が聞こえた。漸く落ち着いた所でそれまで黙って見ていた風紀委員長さんが口を開く。

「では、三人は入学式欠席という事で担任に連絡をしておこう」

委員長さんが言った言葉に三人そろってあ、と声を上げる。すっかり忘れていたが式はもうとっくに始まっていた。

「入学式、さんかできなくてごめん」

内心あちゃーっと思っていると、同級生が落ち込んだ様子で謝ってくる。こちらはさっきから謝ってばかりだなと思わず苦笑した。背の高い同級生も困った顔をしている。眉を下げたまま、もう一度その小さな背中をポンと叩いた。

「俺、長い話を聞くのは苦手なんです」

いきなり何を言い出すんだと言わんばかりに眉を寄せ首を傾げる目の前の同級生にふっと笑い掛ける。

「堂々とサボれてラッキー、って、思っちゃいました」

一瞬目を見開いた後、小さな方だけでなく背の高い同級生までもが同時に笑い出した。

「っ、あははっ!お前真面目そうな見た目してんのに!」

「そうでもないですよ?」

「えー、そうなの?」

ケラケラと声を立てる様子を見て今までのジメジメした空気がやっと晴れたとほっとする。笑いながら話し出した二人を安心して見て、ふと顔を横に向けると風紀委員長さんがニヤニヤしながらこちらを見ていた。

「風紀委員の目の前でサボりを喜ぶとはな」

「あ……」

しまったと固まっていると、笑いながらバシバシと背中を叩かれ息を詰める。ちょ、痛いです。

「まぁ良い。さあ、保健室へ行くぞ」

どうやら見逃してもらえるらしい。ジンジンと痛む背中を擦りながら本日何度目か分からない溜め息を吐く。どうにも迂闊だなぁ、俺。
しっかりしなければと反省一つ。そうして、委員長さんが呼んだらしい他の風紀の人達が倒れている上級生を連れていくのを見送ってから四人で話しつつゾロゾロと保健室へ向かった。



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