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「ね、二人とも。これからどうするの?」


治療が終わり他の救護所から呼び出しを受けた先生が出て行った後。藤澤先輩が首を傾げて聞いてきた。言われて時計を見れば競技終了までまだだいぶ時間がある。東雲君はどうしているだろう。一応メール送ったけど寧ろ俺いない方があっちは動きやすいかもしれない。役立たずだなぁ、とちょっと切なくなりながら山本君の様子を見た。


「……ありがとう。俺、まだ頑張れそうだから」


怪我してんの足なのにまだ鬼ごっこ頑張るのか。偉いなあ。……いやいや、痛いだろ。
止めようと思って見返した表情はしかしどこか晴々としていて。言い掛けた言葉を飲み込み、笑い返した。


「……そうですか。あまり無理はしないでくださいね」

「ん、サンキュ」


ふ、と山本君が初めて笑った。ちょっとは気を許してもらえたのだろうかと嬉しく感じる。そして、そう言えばまだ状況調査していなかった事を思い出して慌ててメモ帳を出そうとした瞬間。


「祥守ー!!」


パーンと音を立てて戸が開かれた。驚いて見た先にはゼエゼエと肩を上下させる一人の生徒。


「ショウっ!大丈夫!?何もなかった!?って怪我ぁ!?……ダっ。……っいっ、てぇー……っ」

「喧しい」


保健室に飛び込んできた生徒は一直線に山本君の前へ走り寄ってバタバタと手を動かす。おろおろと無事を確認するため動く頭を、山本君は力強くはたいた。それに呻きながらも睨んだ彼は口を尖らせてブツブツと文句を言い始めた。


「危ないから一人になるなって言ったじゃん」

「仕方ねぇだろ。気付いたらアイツとはぐれてたんだよ」

「だっから俺と行動しようって言ったんじゃん!」

「お前がアイツといるの嫌がって、んで部活の召集行ったんだろーが」

「話すぐ終わったし!てかイベント事で王道にくっついてるとか嫌に決まってんじゃん!」

「……じゃんじゃんうるっせぇ」


遠慮の無い応酬に友達かー、と眺める。手持ち無沙汰に足をぶらつかせていたら大袈裟に頭を振った友達さんの目が俺を捉えた。


「ん?……誰?」


今まで山本君に掛かり切りだった目が俺に警戒を向ける。ジーッと見詰めるキツい視線にたじろいでいると横からポンと肩に手を置かれた。


「この子は風紀の子だよ」


手の先を辿ると藤澤先輩がニコニコと笑っている。自己紹介しようかと促されるまま睨んでくる相手に名前を伝えた。それにうんうんと満足そうに頷いた藤澤先輩は今度は友達さんに掌を向ける。


「はい。じゃあ、次はきみね」

「…………」


むっすりと口を引き結んで見てくる彼の目線は俺の腕、腕章に固定されている。何だろうと戸惑っていると、落ち着いた声が保健室に響いた。


「ハル」

「…………」

「そいつは、……大丈夫だと思う」


ハルと呼ばれた人は山本君の言葉に眉を寄せ余計に顔を顰める。しかし見返す山本君の視線に負けたように渋々とした様子で口を開いた。


「……幾島春都(いくしま はると)」

「よろしくお願いいたします」


なんかすんごく警戒されっぱなしだけどどうにか笑って返す。たぶんぎこちないけど無表情で言うよりはマシな筈。
敵意なんて無いですよー、と頑張って表情を作っていると、ジッと見てきた幾島君がポツリと呟いた。


「……まあ、害は無さそうかな」

「……な」


……良い意味だと思っておく事にする。二人の表情的に失礼な事考えられてそうな気がするけど、気にしないでおこう。うん。落ち込んで堪るか。
兎に角、山本君も友達来た事で緊張解けたみたいだし、いい加減仕事仕事。


「えっと、すみません。帰られる前にお怪我の程度と先程の状況について詳しくお伺いしてよろしいですか?」

「……あー、うん」


頭を掻いた山本君が悩むように天井を見上げた後頷いて俺を見る。ちゃんと話してくれそうな雰囲気にほっとしながらペンを強く握った。
状況としては。鬼ごっこの途中で一緒にいた人と逸れてしまい、探していた所を小柄な人達に捕まってさっきの所まで連れていかれた。んで急にキレた相手側に殴られ掛けたところへ俺が来た、と。
質問しながらサラサラとメモを取る。今までも呼び出しとかはあったけど、今日みたいな大柄なのがいたのは初めてだった、という話になった時には幾島君が心配そうな顔で何か言いたそうにしていた。気にはなったけれど聞いても話してくれなさそうな雰囲気だった為一先ず気にせず藤澤先輩に怪我の程度を訊ねる。


「そんな酷くはないからあんまり無理しなきゃすぐ治るよ」

「分かりました」

「そうですか。良かったです」


来るまでの道のりでかなり痛そうな顔をしていたから実は酷いんじゃないかとハラハラしていたけど。幾島君がプラプラと足を振る山本君の頭に手刀を落とす。それに仕返しとばかりに怪我と逆の足で蹴りを入れる山本君。そのまま小突き合いが始まった。仲良いんだなぁ、と笑うと幾島君が目を瞬かせて俺を見る。


「……なんかふわっふわした感じだな。…………って、痛っ!ちょ、いきなり何!?」

「また属性だとかなんだとか考えてただろ」

「なぜバレたし!」


漫才のようにポンポンと会話をする二人が可笑しくて益々笑いが込み上げる。何にせよ、元気なようで一安心。

今までの呼び出しについてとか転入生の事とか。聞きたい事は山程あったけど、さっきの様子から考えるに詳しい事はそう易々とは話してくれなさそうだ。また何度か会ってもう少し信用してもらえば聞けるだろうか。できればさっさと聞いてしまいたいけど、ここでまた警戒されると長引きそうだし。慎重にいこう。
そろそろうるさいよー、と手を叩く藤澤先輩に窘められる二人を見ながらひりひりと痒む掌を小さく掻いた。



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