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拒絶するような様子に内心首を傾げるが風紀と偽った新たな制裁者と思われたのかもしれない。腕章付けていても東雲君がいないと風紀だと信じてもらえない、なんて事はままあったので気にせず落ち葉を踏みしめて。


「大丈夫でっ……!?」

「うおっ!?」


転んだ。
ズリッと間抜けな音を立てて見事に顔から突っ込む。あんまりにも酷い転けっぷりに前に座る相手も驚き、戸惑ったような声を掛けてきた。


「はっ?ちょ、……大丈夫、か?」

「っ大、丈夫、です」

「……あ〜、ちょっと擦りむいてんな」


ギリギリ付いた手も滑り、額を軽く地面に擦ってしまった。傷は大した事ないけど露で湿った落ち葉が引っ付いて気持ち悪いやら恰好悪いやら……。
恥ずかしくなりながらも顔を上げ、首を傾げた。


「それより貴方は大丈夫ですか?どこかお怪我はしていらっしゃいませんか?」

「え?あ、……大丈夫、だ」

「良かったです……」


ベシベシとジャージについた葉っぱや土を落として彼へ歩み寄る。掌が微妙にヒリヒリして痛い。げんなりしながらも気を切り替えて、相手に顔を向けた。


「意気揚々と出てきたのに、格好つかなくてすみません」

「いや、それは別に構やしねぇけど……。……あー、えー。……ありがとな。助けてくれて」

「いいえ。ご無事で何よりです」


座る彼の前に膝を付き状態を確認する。木にぶつけていた肩もそんなに痛くないし殴られたりもしていない、と言うから怪我は本当に無いようだ。ほっと安心の溜め息を吐くと、少し警戒の緩んだ顔をした彼が小さく何事か呟いた。


「……助けてくれたのは嬉しいけど、俺に関わらない方が良い」

「はい?」

「デコと手、ちゃんと消毒してもらえよ」


そう言った彼は素早く立ち上がり駆け出そうとした。が、直ぐにガクリと体が傾く。慌てて腕を掴んで支えると左足を庇うようにしながら顔を顰めていた。


「足を挫かれているようですね」

「あ〜……クソッ」


舌打ちをして顔を顰め唸る彼に苦笑しながら掴んだ腕を肩に回す。


「保健室行きましょうか。ご一緒に」

「……あぁ」


救護所はいくつか設置されているけど、ここからなら保健室が近い。観念したようにガックリ頭を垂れて返事をした彼に肩を貸し、天蔵先輩にその旨をメールで送ると建物を目指して二人歩き出した。











外の水道で汚れを落とし、ガラリと戸を開く。すると一人の生徒が棚を整理していた手を止めこちらを見た。


「失礼いたします」

「はいはい、どうしましたか?……あれ?吉里くん?」

「……?」


驚いたように名前呼ばれたけれど知り合いだっただろうか。ジャージの色は三年生のだけど……あ。


「え、と、元委員長の……」

「そうそう。前にきみを勧誘しようとした元保健委員長だよ」


笑いながら椅子を勧められ、取り敢えず先に彼を座らせてから横に腰掛ける。保健室は先輩と、今トイレに行っている先生だけが待機しているらしい。
ヒョイヒョイと消毒液や脱脂綿を取り出した先輩は楽しそうな様子で口を開いた。


「いやー。吉里くんとはまたお話したいなーって思ってたんだよね」

「そうなんですか?」

「うん。いつもあの子がお世話になってるみたいだから」

「あの子?」


どの子だ?と首を傾げるとそうだ、とピンセットを片手に先輩が笑顔でこちらを振り向いた。


「名前言ってなかったよね?改めまして。ぼくは藤澤伊織(ふじさわ いおり)って言います」

「……藤澤、さん?」

「うん。弟の雅己(まさみ)がいつもお世話になってまーす」


ニッと笑った顔は確かに藤澤君とよく似ている。いや、お世話になっているのは俺の方だと言おうとしたらズイッとバインダーを差し出された。


「それにお名前書いてね。あ、ついでに二人にも自己紹介してもらっちゃおっか。ぼくもしたんだし」


え、何でそうなるんですか。
ポカンと藤澤先輩を見上げてから横を見ると彼も同じように不思議そうな顔をしていた。今まで放置されていたからか気を抜いていたらしい。弄っていたケータイを閉じて困ったように頭を掻いている。あぁ、彼を話に入れる為かなこれ。一人蚊帳の外って居心地悪いからな。納得して姿勢を正し、彼を見ながら口を開いた。


「えっと、吉里悠真です。えー……っと、あ、風紀委員に入っています」

「……山本祥守(やまもと しょうま)だ」


仕事中よくよく聞く名前だから知っているけれど顔見知りでもない状態だと呼び難かったからまぁ助かった、かな。互いによろしくと話していると藤澤先輩が急にあ、と声を上げた。


「どうなさいましたか?」

「うん」


なんかニコニコと笑う藤澤先輩がピンと指を立てるのを二人で見上げる。


「ゆうまとしょうまでうまうまコンビだなぁって」

「……ですねぇ」

「……あー」


山本君のどうでもよさそうな声の後、成る程と小さく呟く。うまうまか。へー。……確かにそうだけど、そんな閃いた!みたいに言われる事だろうか。
ちょっと感心しそうになったけど心の中で突っ込む。独特のテンポを持つ人なんだな、藤澤先輩。楽しそうな様子に水を差す気は無いからそのままにしておこう。と考えて頷いていたら山本君が藤澤先輩に向けていたのと同じ、残念なものを見るような目を俺にも向けていた。……え、ちょ、違っ。


「また脱力系な会話してるの?」


突然入ってきた声に顔を向けると保健の先生が呆れた様子で戸口に立っていた。反射で挨拶をすると山本君も同時に軽く頭を下げた。それを見た藤澤先輩は口元に手を当てクスクスと笑う。


「なんとなく二人ともいいコンビになるかもしれないねぇ」

「……ウマが合うってやつか」


先生がボソッと言った瞬間、藤澤先輩がファイルでベシッと頭を叩いた。呆気に取られる俺らを置いて、テキパキとした動きで山本君は藤澤先輩、俺は先生が治療をしていく。先生に聞かれて怪我の経緯を正直に話すと先輩共々笑われ、恥ずかしい思いをしながら消毒の染みに口を結んで耐えた。



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