新入生歓迎会

「っ、は、……はぐれ、た、っは、」


遠く離れた所にいたルール違反の生徒を凄いスピードで追い掛けていった東雲君についていけなかった俺は、完璧置いてけぼりを食らってしまった。いや、てか、休み無しの全力疾走は普通に死ぬ。東雲君、体力有り過ぎ。
上がった息を整える為膝に手を付き深呼吸を繰り返す。顔を流れる汗を拭い、体育服の胸元をパタパタと引っ張って扇ぐが昼時の日差しは強く、暫く熱は引きそうになかった。


空は晴天。風は微風。そんなスポーツ日和のこの良き日。お流れになったと思っていた新入生歓迎会が行われる事になった。入学式からもう一月過ぎていますが。もうしなくても良くない?なんていう結構沢山あった意見は通らなかった。何故。

そんな歓迎会のメインは学園全体を使った鬼ごっこ。元はスタンプラリーだったらしいけど、延期を重ねた上執行部である生徒会がまともに機能していないという事で単純な遊びに変えたそうだ。これなら特に準備物は要らないしね。

ギスギス感が日毎増す学園で少しはガス抜きになるだろうと説明されたけど、てんやわんやの大忙しで関係委員会のメンバーは始まる前から軽くグロッキー状態だ。むしろギスギス増すんじゃないの?
因みに風紀の仕事は主に不正がないかの見回り作業。走り疲れてしんどいからもう帰って寝たいです。


例年は風紀も新入生は歓迎会に参加するようになっていたらしいけれど現在の学園の状況を考慮して全員見回りに回された。分かってはいたし別に構わなかったのだけどそれを伝えた時の葵君達の不満そうな顔が忘れられない。準備の手伝いでお昼休みもあまり話す時間取れなくなっていたからその日くらいは遊べると思っていたようで。申し訳無い。
結局教室にも殆ど行けなくてクラスの人とも喋れなかったな。前回の反省を活かす機会はいつ来るだろうか。




木陰であれこれ考えている内にちょっと呼吸が落ち着いてきた。そろそろ動くかと深く息を吸い込んだその時。



――――ガサッ



離れた茂みから葉が擦れる音がして振り返る。風か動物かと思ったが耳を澄ますと微かに複数の人の声が風に乗ってきた。それらが聞こえる方向は競技の範囲外。
木が生い茂る場所に一度目を走らせて東雲君が走っていった方向を振り返る。無線に応答は無く、ケータイも掛けてみたが出ないしまだ戻ってこなさそうだ。一人での行動は不安だがもしもの事を考えると躊躇する暇は無い。状況を見るだけでも、と雑音しか入らない無線を切りそっとその場へ足を忍ばせ向かった。











「ちょっと聞いてんの!?」

「……はい」

「やぁっとつかまえれたんだからしっかり話聞いてよ!」

「……はあ」


太い木の幹に体を寄せて様子を窺う。小柄なの三人と大柄なのが二人、中くらいの体格の生徒一人を囲んで話している。どう見ても平和的ではない雰囲気。喧嘩だろうかとそれぞれの顔を確認する。そうして囲まれている生徒の顔を見て、瞬いた。
あの人は確か本日要注意人物の一人、絹山先輩曰く『巻き込まれ平凡くん』とやらな転入生の同室者ではないだろうか。

……え、て事はこれまさか所謂制裁現場?人気無い所だけど行事真っ最中に?てか東雲君がいない時に見付けるってどーよ。いや、それより何より何この状況。今日転入生と彼には必ず一組警護がついている筈。なのに何であんな事になっているんだ?担当の人達どこ行った?


初めて遭遇した制裁現場に軽くパニクりながらケータイを取り出す。どうしようかと考えて、取り敢えず天蔵先輩の番号を開いた。
報告だとまだ力ずくのことはされていないらしいけれど大柄なのいるし、よくなさそうな感じだし。でも何か起きても俺じゃ何も出来ない。強張る指を動かして通話ボタンを押してコール音に集中する。プツッと繋がった瞬間一際甲高い声が辺りに響いた。


「だから!軽々しくあの人たちにちかよらないでよ!!」

「……そんなつもり、全っ然ねぇんですけど」

「くちごたえすんの!?」

「言いわけなんかきかないんだから!」

「ちょっとそこの人、こらしめてやってよ!」


囲まれていた彼が少し背の高めの生徒に押されて木に背中をぶつけたのが見える。
早口に状況と場所を伝えると近くにいる人に直ぐ駆けつけるように指示を出す、と言って切られた。耳にした事を頭に浮かべ違う木の後ろへ移動する。方角を確認してからすうっと息を吸って、思いきって飛び出した。


「誰だ!そこで何をしている!」

「っ!?やばい!」

「人きた!」

「にげよ!」


大袈裟に足音を立てながら走り寄るとバタバタと大慌てで逃げていった。なかなか素早い反応だったがそっちは風紀の先輩達がいる方向だ。残念賞ー。……こっち向かってきたりしなくて助かったー。
バクバク鳴る胸を押さえながら逃げる彼らを放って残された生徒へ駆け寄った。座り込んだままだがパッと見怪我はなさそうだ。セーフ、かな。


「……風紀?」

「はい」


近付く俺へ訝し気に訊ねる彼へ頷いて答えると何故か警戒したまま、いや、よりそれが強くなった目で睨まれた。



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