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「えっと……」

「小町が散々話していたから吉里も情が湧いたのだろう」

「、あ、そうかもしれません」


藤澤君がシレッとした調子で言った事に同意する。言い訳が思い付かず、内心かなり焦っていた為助かった。
話に乗っかり葵君を見下ろして苦笑する。


「お話を聞く内に葵君の心配が移っていたみたいですね」

「そっか〜」

「なんだ悠真まで会長ファンになったかと思ったわ」


怜司君の台詞にあはは、と乾いた笑いを返す。風に吹かれた背中がヒヤリと冷えた。危ない危ない。藤澤君、フォローありがとう。でも……本当に何も知らないよね?
先程考えていた疑惑が蘇り、別の冷や汗が浮かび掛けた所で東雲君達が行ったのと逆の方から弾んだ声が聞こえてきた。


「こまちー!」

「さっきの見たーっ?」


パタパタと音を立てて二人の生徒が駆け寄ってくる。葵君と似た雰囲気を持つ二人はよく見るとクラスメイトだった。葵君と同じくらいな人と俺とそう変わらない背丈の二人はそのまま葵君と会長について喋りだす。二人とも葵君と同じく会長親衛隊に入っているらしい。教室でもたまに固まってキャアキャアと喋っていたなと思い出していると不意に顔を上げた一人と目が合った。一瞬強張った顔に慌てて笑みを浮かべて会釈を返す。


「あ……」

「えーと……」


クラスにいた、よね?
名前なんだっけ?
そんなこそこそ話が聞こえる。じわりと胸に何か滲む感触を抑え込んでへらっと笑った。


「こ、んにちは」

「あ、うん……」

「こんにちは……」

「…………」

「…………」


何となく気不味い空気が漂う。クラスメイトも葵君達も戸惑っている様子に内心オロオロしながらどうしようかと考えるが上手く口が動かない。見兼ねた様子で藤澤君が何か言おうとした瞬間、ポケットから着信音が響いた。


「あ、すみません。ちょっと失礼します」


ケータイを手に取りそう言えば、あからさまにほっとした顔をされて胸がズキッと痛んだ。それを悟られぬよう笑ってその場を離れる。葵君達にも先に帰るよう言い、また今度、と駆け出した。











近くの林に飛び込んで大きめの木に凭れかかる。少し上がった息を整え、音の止まったケータイを掴んだまま手をだらりと下げて立ち尽くした。


「今のは、いかんよね……」
(「今のは、駄目だよね……」)


空いた手でクシャッと髪を掴んで溜め息一つ。しゃがみながらあーあ、と呟いてクラスメイトの戸惑う顔を思い出して項垂れた。


ただでさえ印象薄い顔をしているのに滅多に教室にいなければ話す機会も無い。グループ学習もいつ授業を休むか分からないから別枠を作られ参加できない。何より敬語という微妙な壁を作っている。そんな相手とどう話せば良いかなんて、そりゃ困るよね。俺だって困るわ。だから仲良くなりたいなら俺が積極的に接していかなきゃなんないんだろうけど。


「……友達ってどう作るっけ」


同じクラスになってもう一月経つ。普通は何となく馴染んだり馴染めなかったりする頃だろう。でも、滅多にそこにいない場合はその何となく、が分からない。時間が経てば経つ程入り込むのが難しくなっている。
既に友人関係な人達とは少しずつ自然体で接せるようになってきたし、仕事中はそれこそ全く関わりの無い人と話している。なのになんで相手がクラスメイトになるとこんなに萎縮してしまうんだろう。仲良く、とまでいかなくても普通にクラスメイトとして認識されたい。何というか、どう接すれば良いんだろう、という空気が辛い。


「……うーん」


さっきのはクラスメイトにもだけど葵君達にも嫌な思いさせたよなー。あー……。




「……よしっ」


反動をつけて立ち上がりパシンと頬を両手で叩く。悩むのは取り敢えず終わり。考えてもやってしまった事はどうしようもない。次頑張ろう。変に緊張するから相手も困るんだ。いつも通りいつも通り。

反省点を考えながらぼーっとしていた頭を振り、ケータイを開いて不在着信欄を出す。電話は実家からだったようだ。また何かあったのだろうか。それか野菜とかの仕送り連絡?
はて、と頭を傾げて通話ボタンを押す。数コールの呼び鈴が切れてガチャリと相手が出た音を耳に口を開いた。


「はいもしも……、」

「やぁっと出たーー!!(プツッ

「あ」


喋り掛けた電話から聞こえたほぼ絶叫な怒声。思わず電源ボタンを押してしまったのは悪くないと思う。……相手が何と言うかは知らないけど。
突然食らった近距離からの騒音攻撃にワンワン鳴る耳を撫でながら考える。掛け直すかいっそ電源を落とすか。しかし結論が出る前にまた呼び出しにケータイが震えだした。


「……。もしもし、千代(ちよ)?」

『ちょっと!なんでいきなり切っとね!』
(『ちょっと!なんでいきなり切るのよ!』)

「……ごめん、つい」


耳から離した状態で通話ボタンを押せばさっき以上に甲高くなった怒鳴り声が鼓膜に突き刺さる。衝撃によろりと体が傾き近くの木へ手をついた。まだ怒られるかとヒヤヒヤしたが、どうやら叫んだ事でスッキリしたようで謝ると直ぐにいつものトーンに戻る。


『あたしの電話には出らんくせして家んとにはずっし』
(『あたしの電話には出ないくせに家のには出るし』)

「……いやー、うん、ごめんなさい」

『もー……。よかばってんたーい』
(『もー…。いいけどさー』)


普段そんなに大声を上げないこの従妹が電話口でここまで声を荒げるとは。よっぽど怒っていたんだな、と申し訳無く思う。が、それでも電話には出たくなかったんだよなぁ。眼前の色鮮やかな木々を遠くに感じながら話を促した。



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