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先輩について話している時のテンションもあれだけど、実際に本人見ちゃった時のテンションは更にヤバい。普段同じ親衛隊のメンバーと見て楽しんでいる時は怖い程歓声を上げて喋りまくっているし。しかし今回は不意打ちだったせいか興奮し過ぎて声出てないしオロオロしてるし。過呼吸起こしそうで慌てて宥めに掛かった。

怜司君が頭を押さえたので俺は手を握って上下に揺らす。よく親衛隊の小さい人達が人気者を見た時にやる仕草のゆっくりバージョンみたいな感じで呼吸に合わせて動かすと少し落ち着いてきた。頭を押さえていた怜司君も撫でる動きに変わる。藤澤君が頃合いを見て話し掛けると吃りながらも大丈夫だと返事が返ってきた。それに良かったと胸を撫で下ろす。


……と、そんな感じで落ち着かせていたら何故か後ろのテンションがヒートアップ。


「何あれ何あれ!超可愛い!」

「ちょ、副委員長!」

「うわはー!」


東雲君の制止も空しく絹山先輩が喋る喋る。最近、ストレス溜まりまくっているって愚痴られていましたもんね……。しかし絹山先輩、声デカいです。風紀室内はもう素で話すけど外では優しいお兄さんのイメージ壊さないようにするんだ……!とか言っていた気がするんですけど。フォローにも限界がありますよ。

天蔵先輩に止めてもらうしかないくらいにテンション上がりまくりな絹山先輩。葵君と怜司君はただポカンとしているけど藤澤君の何だあれ、みたいな目が痛い。向けられているの俺じゃないのに胸が痛い。


「いい加減五月蝿いですよ!」

「なにをう!たまにはDKの絡み見て癒されたっていいじゃない!」

「発言のレベルがおっさんじゃねぇかアンタ!」



「……DK?」


言い合う二人の間へ強引に入る勇気が無く、会話の隙を探していると聞こえたアルファベット。なんだそれ。略?


「○ンキーコング?」

「ダイニングキッチン?」

「デンマーク?」


直前までやっていたゲームに出てくるゴリラのキャラクター名を呟くと、葵君と藤澤君も同じように何なのか考えていたらしい台詞が聞こえた。顔を見合せ首を傾げる。文脈的にどの意見も正解ではないと思う。うん、と一度三人で頷いて怜司君を見上げた。


「え」


こちらは何も考えていなかったようだ。なら今考えて何か言ってほしいと期待を込めて見る。


「え……何」

「…………」

「えー……と。……ダ、○イワハウス?」

「DHじゃん!」


葵君がベシリと叩いて突っ込んだ。ぷりぷり怒る葵君と呆れた顔をする藤澤君に怜司君が落ち込む。まぁ、取り敢えず葵君が完全にいつもの状態に戻ったようで良かったよ。


「吉里……」

「え?うわ……、すみません」


おどろおどろしい声に振り向くと石畳に絹山先輩が転がっていた。……何をしたんだろう。聞きたいけど……やっぱ良いや。


「ちょっと副委員長片付けてくる」

「は、はい。お願いします」


ズリズリと引き摺られていく絹山先輩。威厳も何もあったもんじゃなかった。他の生徒に見られなきゃ良いけれど……。
引き攣った笑顔で見送る俺に三人が戸惑った様子で話し掛けてきた。


「東雲くんと絹山先輩、どうしたの?」

「さ、さぁ」

「さっきの奇声はいったい何だったんだ?」

「……さぁ」


説明しようも無く曖昧に笑って誤魔化す。風紀内ではいつもの事です。と言うべきか。いや、駄目だろたぶん。


「あー……、あ、それより、葵君は会長さん見る事が出来て良かったですね」

「うん!ほんと今日はすっごくいい日だよ!」


先輩の話を出した途端即答でニッコリ笑い頬を染める葵君。よし、葵君の会長語りもなかなかキツいものがあるけどあれの説明させられるよりマシだよね。怜司君が送る余計な事を、という視線を流してうんうんと頷けば嬉々として葵君が話を進める。


「会長さま、さいきん顔色がよくなられたってみんなよろこんでるの」

「そうなんですか」


以前からずっと見守っている親衛隊の人達がそう言うならきっと大丈夫なのだろう。一時は倒れるんじゃないかと気に病んでいた彼等が喜んでいるのなら思いきって行動して良かった。何より人目に分かる程元気になったというのが単純に嬉しい、等と考えていると葵君が不思議そうに見上げてきた。


「?どうかなさいましたか?」

「ん〜、なんでゆーまがほっとした顔してるのかなって?」

「え?」


思わぬ指摘に驚いて瞬く。そんな指摘されるほど顔に出ていたのか?
困惑して頬を擦りながら訊ね返す。


「そんな顔していましたか?」

「うん」


まぁちゃんと元気なんだと実感できて安心したのは事実なんだけれど。でも、今まで特に興味を示さず聞き流すよう振る舞っていた俺がほっとした顔をして会長の話を聞くだなんて確かに可笑しい。絹山先輩から話そらす為だったとはいえまさか墓穴掘る羽目になるとは。



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