遭遇
休憩での気分転換が効いたのか思ったよりもかなり早く復習が進み、予習もやりたかったところまで終わってほっと息を吐く。もっと進めようかとも思ったがいい加減疲れた。じゃあこれから何をしよう。と顔を上げると叱られていた三人が床に突っ伏して悶絶していた。何かしたのかと藤澤君を見れば呆れた顔をしている。なんだこの状況、と思っていたら足が……、と呻き声。……あぁ、痺れたのか。独特の疼痛を思い出して苦く笑う。
やれやれといった様子で肩を竦めた藤澤君からの許しを得て足を崩した三人。葵君と怜司君は残りの課題。東雲君はその指導。と、テキパキ指示を出す藤澤君。
俺はどうしようかとまた首を捻り、満足気な藤澤君を引っ張ってテレビの前へ座る。やった事がないからと渋る藤澤君に頼んで久し振りのゲームにワクワクとしながら電源を入れた。
「……え、どうしてそんな簡単に連鎖組めるんですか?」
「何となく?ビギナーズラックみたいなもんか?」
「運では無いでしょう……。運で3回も十連鎖組まれたら俺はいったいどうすれば……って、え、あっ待っ。うわ。うわー……。あーあ、負けたー」
「いぇーい」
「……お前らうるせーぞ!」
「君らの時よりよっぽど静かなんだが?」
スパッと冷やかに返されて怜司君がガクリと頭を落とす。さっきの三人よりはかなり大人しくやっているがやはり気が散るらしい。その苦しみとくと味わえ、と笑う藤澤君が悪役めいて見える。
適当に選んだ落ち物ゲームは藤澤君に合っていたらしく、嫌々だった割りに飲み込みが早くてあっという間に腕を上げた。同じようにそのゲーム初心者だった俺はもう勝てる気がしない。後ろを気遣って平坦だが楽しそうに笑う隣に反比例してこちらは段々落ち込んできた。
「……そろそろ違うゲームしませんか?」
「良いぞ。次も勝ちを譲る気はないからな」
「酷いです」
「っよし!おわった!ぼくもやるー!」
「あ!葵ズルい!」
「清崎もとっとと終わらせろ!俺までできねぇだろ!」
それからだいぶ時間が経った後怜司君と東雲君も加わってワイワイとゲームやお喋りに花を咲かせる。そういうのは本当に久し振りな感覚で。満たされた気持ちでコントローラーを握りながら笑った。
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そんなこんなで時間は矢のように過ぎ、気付けば夕方になっていた。まだやりたりないという表情の面々が荷物を抱えて玄関に立つ。それをそのまま見送ろうとしたのだが、何となく寂しくて買い出しのついでだと言い途中まで送る事にした。
それなら俺も、と東雲君も付いてきてゾロゾロとスーパーへの道を進む。東雲君のファンとかに見つかると面倒だという事で念の為に俺と東雲君は風紀の腕章を付けて来たので護衛、または連行でもしているような気分だ。三人は風紀に囲まれるなんて滅多に無い事だと面白そうに話す。俺と東雲君で変な感じだなぁ、と苦笑しながら顔を見合わせていたら後ろから明るい声が掛かった。
「やっほー、なんかいっぱい引き連れてるね〜」
「あ、副委員長」
「……げ」
「ふわっ!こっ、こんにちは!」
小さく手を振って絹山先輩がこちらに歩いてくる。皆が挨拶を返す中、東雲君は一人嫌そうに絹山先輩から距離を取った。
「どうかなさいましたか?」
「あー、ちょっと人探しを、ね」
「人探し、ですか」
「うん。……ん〜、ちょっといい?」
ちょいちょいと手を子招く絹山先輩に訝しみながら東雲君が近寄る。俺は、何となく嫌な予感がして行かなかった。
「お仕事のはなし?」
「えー、まー、……はい。たぶん」
「悠真は行かなくていーのか?」
「たぶん、東雲君だけで良いんで……」
「……本当に仕事の話か?」
笑って誤魔化したが、たぶん、違う。絹山先輩がこっちチラチラ見てはヒソヒソ何か話し、聞かされている東雲君の眉間のシワが増えていく。きっと絹山先輩の言う萌語りとやらだと思う。呼び出す直前、いつもそれをする時と同じ表情をしていたから。……うっわ、東雲君めっちゃこっち睨んでる。
一人難を逃れた俺に恨めし気かつ怒りを多分に含んだ視線が突き刺さる。ごめん。でも絹山先輩の話は聞き流すのもキツいんだよね。頑張って。
薄情な行動を内心謝りながら一応そろそろ助け船を、と考えていたら怜司君があ、と声を上げた。
「あれ生徒会長じゃね?」
「へっ!?」
「あ」
「だな」
小さな中庭を挟んだ向こう側。特別棟へ続く赤煉瓦の道を背筋の伸びた黒髪の人物が数人の生徒を引き従えて歩いていた。どの人も白い物を抱えている事から仕事途中なのが窺える。おー、と言いながら皆でその姿を眺めた。一瞬こちらを見た気がしたが誰も何も言わないから気のせいだろう。
しかし連休中も忙しい人だ。
生徒の多くが帰省中だから会議みたいなのは無いけど書類はいっぱいあるんだよなぁ。手伝いたいけど重要書類とか見ちゃいけないみたいだし。
何て考えながら恐る恐る隣を見る。少し目線を上げた先、怜司君が引き攣った顔でこちらを見ていた。たぶん同じ様に変な顔になっているだろうなと思いつつ、ゆっくり目線を下げた。
予想通り。見下ろした先の、葵君のテンションがヤバかった。なんか真っ赤になってはわわわとか言っている。
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