勉強会
サラサラとノートを滑るシャーペンの音。ペラリと参考書を捲る音。
……を掻き消すゲーム音。
「……今日は勉強会では無かったのか?」
「……そうです」
「では何故五人もいるのに机へ向かっているのは二人だけなのだろう」
「さぁ……」
大型連休で生徒がかなり少なくなっているとはいえ気が抜けなかったここ数日。久し振りの一日休みに葵君、怜司君、東雲君、そして藤澤君の四人が俺の部屋に集まっていた。
机上や床に散らばるノートとプリントは未だ空白が多いのだがそれらの持ち主はテレビ画面に釘付けで歓声を上げている。彼らを呆れた目で見る藤澤君に俺は苦笑を返すしかなかった。
急遽参加する事になった東雲君は美形で文武両道。ついでに風紀に入っている事で結構生徒人気がある。なので仕事抜きに人目のある所へ呼ぶと不興を買うからと俺の部屋でやる事になった勉強会。だったのだけれど、現在は彼の宣言した通りゲーム大会で盛り上がりまくっている。
始めこそ互いに遠慮したり葵君が赤くなって固まったりとぎこちなかったのだが、休憩だとゲームをする内に打ち解けていた。対戦したり協力したり楽しそうで良かったと安心したのだが少し、いやかなり騒がしい。
「あの吉里の友人は風紀仲間だと言っていなかったか?」
「……言いました」
「風紀がこれでいいのか?」
「まぁ、お仕事は休みですし?」
やるのが俺の部屋だと確定すると部屋近いしって事で携帯機も据え置き機も大量に持ち込まれたゲーム。たぶん東雲君も初対面相手だから緊張して必要以上に準備してしまったんだと思う。人気があるのに加えオタク趣味のせいであんまり友達いないとか言っていたし。そこからの張り切りと思うと何も言えずに好きにさせたのだがちょっとは突っ込むべきだったろうか。でかいテレビまで持ってこようとしたのは止めたんだけど。
そんな事を考えて苦笑していたら藤澤君が不機嫌そうに机を爪でコツコツ叩く。
「勉強会と銘打っておきながらここ二時間は机に見向きもしていないぞ」
「あはは……」
俺は割と騒がしいのも平気な為気にならないが藤澤君は完全に集中が切れてしまったらしい。それでも今まで我慢していたのだから凄い。
「……まぁ良い。あの二人は自業自得だ。風紀の方は齷齪勉強せずとも何とかなるのだろう」
「……そうですね」
羨ましい。と心中呟いて手元に視線を戻す。課題は終わって授業の復習。ある程度予習していたから課題の問題は解けたのだが不安な所があって教科書と藤澤君から借りたノートを見比べ中。
東雲君は既に課題を終わらせてしまっている上、記憶力も理解力も高いからそんなに頑張らなくても勉強は大丈夫。葵君達は……まだ一応時間があるからたぶん休み明けには間に合うと思う。藤澤君も課題は終わっているのだが復習ついでだと俺に付き合って難しい所を教えてくれていた。
「……藤澤君もゲームしに行かれていいですよ?」
「いや、良い」
「ですがもうずっと机に向かいっぱなしですし、休憩されては……」
「それは君もだろう?チラチラ見ているし。参加してきたらどうだ?」
「いえ俺は……」
言葉を濁して頬を掻く。
ぶっちゃけもう勉強なんて放り出して遊びたい。でも今その誘惑に負けたらそのまま本当に一日勉強そっちのけになりそうだ。授業に追い付く為の勉強が山となっている現在、そんな時間は無い。予習までいくのは無理でもせめて今やっているところまでは進めておかなければヤバいと必死なのだが多いなマジで。進むの早過ぎだろ授業。
学園内がゴタゴタしていても、それに巻き込まれでもしない限り授業は普通に進む。流石学業に力を入れている学校なだけあって授業の進度は速い。つまり、下手すりゃ俺死亡フラグ。
焦ってはろくに頭に入らないと分かっていても落ち着かず。机に齧りついて悶々とするここ数日。教科書流し読みするだけで理解できるような頭が欲しいと馬鹿みたいな考えまで浮かんで溜め息を吐いた。
「……そうか。だがそろそろ昼だし、休憩しようか」
「……ですね」
情けない顔をしてしまったかもしれない。ジッとこちらを見た藤澤君がパタリと教科書を閉じて立ち上がったのに倣い、俺もシャーペンをノートに転がした。
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