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静かな廊下に俺と東雲君の足音が響く。まだ明るいが夕方特有の雰囲気に包まれた校舎は少し不気味だ。東雲君は平気そうだが俺はちょっと落ち着かず、出来るだけ会話が途切れないよう努めた。
「書類、また増えましたね」
「嫌になるよな」
重そうな籠を覗き込んで言えば持ち上げる東雲君が顔を顰めて嘆きを溢す。そこから今日は喧嘩に遭遇しなかったから報告書は少なくて助かったなとか。代わりに俺は長時間電話で愚痴を聞かされただとか。そんな風に続く他愛ない話の途中。東雲君が悩むように天井を見上げながらポツリと呟いた。
「……なぁ。会長、いると思うか?」
「どうでしょう?何か話し合い等ありましたっけ」
「今日は無かったと思うけど……」
目的地である生徒会室は元来、何となく入り辛い場所なものである。しかも会長一人しかいない部屋に入るのってちょっと緊張する。会長って言っても先輩な訳だけども。
東雲君はどうやら生徒会長の事が少し苦手らしく、気が進まないようでだらだらと歩く。それを宥めすかして進む事で漸くその扉の前に着いた。両手が塞がる東雲君に代わってノックをすると直ぐに返事が返る。風紀だと告げると入るよう言われ鍵を開けて扉を開いた。
「こんにちは、失礼いたします。書類をお届けに参りました」
「……あぁ」
正面の机に掛けた先輩がチラリとこちらを見てまた書類に顔を戻す。それに肩を竦めた東雲君について部屋の中へ進み、空いていた椅子に荷物を置いて持ってきた書類の分類に取り掛かった。
「あ、東雲君。それはこちらです」
「分かった」
一瞬視線を感じた気がして振り返る。しかしその先にいる先輩は机上の書類しか見ていない。気のせいかと頭を掻いてまたせかせかと手を動かした。
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「何か……無駄に緊張した」
「あはは……」
大量にあった書類は丁寧に付箋で別けられていた為二人でやればあっという間に捌き終わった。一息吐く暇も無く無言で帰りを急かす東雲君に引っ張られるように生徒会室を出る。そして扉が閉まった瞬間溜め息を吐いて項垂れる東雲君に苦笑を返した。
「吉里は平気そうだったよな」
「そう……ですかね?」
一応それなりに緊張していたんだけど。しかしそれは東雲君のような『会長』という存在に対して、というより極力彼に意識を向け過ぎないようにと考えていた所からきているのだから別問題なのかもしれない。東雲君いるから知り合いっぽい素振りとか出来ないし。
「……会長って何か怖くないか?」
「そうですか?」
「怖くない?」
「う〜ん……」
生徒会長として人前にいるのだけを見ると厳しいイメージが先行して怖いと思ってしまうかもしれない。でも、それよりも優しい人だという事を俺は知っている。だから。
「どちらかというと尊敬の気持ちが強いからですかね。あまりそう感じないのは」
「尊敬かー……」
確かにしはするけどなぁ、と言って鞄を肩に掛け直した東雲君が鞄からお菓子を出して食べ出したのに倣い俺もポケットに入れていた飴を口にする。里美先生が風紀用にと大量に買い込んでくれている為甘味には事欠かない。しかし殆どが高級品のため美味しいけどちょっとくどい。なんてこっそり贅沢な感想を持ちながら舐めていると東雲君がそうだ、とこちらを見た。
「早く終わったけどどうする?言ってたゲームでも貸そうか?」
「あー、すみません。夜に人と会う約束をしていて、その前に課題終わらせたいのでやる時間なさそうです」
「そうか」
もう一度謝ると気にするなと言われる。せっかく言ってくれたのに申し訳無いと思いつつ、それで思い出した事に声を上げた。
「そう言えば。東雲君はお休みのご予定は決まっていますか?」
「ん?うーん。溜まってるアニメ見るかゲームやるつもりだけど特には」
連休中残る生徒が少なくない為用が無く残る風紀は見回りの仕事が振られている。見回りが無い時間ももしもの時の為に待機していなければならない。それでも一人丸一日分は休みを貰えていた。
「クラスの友人と勉強会をするのですが東雲君もいらっしゃいませんか?」
「……俺が行っても良いのか?」
「一人ゲームを好きな人がいまして、風紀にも得意な方がいると話した時に会いたがっていたんですよ」
「……勉強会がゲーム大会になるかもしれないぞ」
「それはそれで楽しそうですね」
勉強も重要だが何より息抜きにって事で集まるし。今日のお詫びとなるか分からないが東雲君もこれが息抜きになりそうなら来てほしい。それに以前ゲーム仲間がほしいと言っていたから同じゲーム好きな怜司君と仲良くなれたら良いんだけど。そんな事を考えながら返事を待つとそっちの友達が良いのなら、と言われたので各々に確認のメールを送る。返信は直ぐに来た。
「良いみたいです」
「そっか。じゃあ何持っていこうかな……。場所は誰かの部屋?自習室?据え置きは難しいか……」
「……既にゲーム大会にする気満々じゃないですか」
「……はっはっは」
乾いた笑いを立てて目をそらす東雲君に呆れた溜め息を吐きながらも、自分が気になっていたゲームを持ってくるように頼んで別れた。
「……連休か」
そう言えば先輩はどうするんだろう。
スーパーで買い物中魚を片手にふと考える。学園に残るのだろうか。でも葵君情報だと長期休暇は家の事を手伝っていると聞いたし。
うーんと頭を捻って考えて、本人に聞けば良いかと小さくなった飴を噛み砕いて飲み込んだ。
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