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今日の分の仕事を片付け終え帰り支度をする。今日は珍しく大きな事件が無かった為他の人達も殆ど早目に帰ってしまっていた。またどっさり書類の入った籠を東雲君が抱え、俺は二人分の荷物を持って出口へ向かう。出る前にチラッと天蔵先輩を見れば積み重なる山から抜いた書類を手にして眉を寄せていた。


あんなに怯えまくっておいてなんだけど、天蔵先輩自体はそんなに怖くない。殴られるかもとハラハラさせられる凄みはあるが実際に手を上げる事もそうそう無いし怒る事も殆ど無い。……絹山先輩にはちょっと過激なスキンシップという事にしておく。
天蔵先輩が怖くなるのは規則を破る事に対してぐらいだ。そしてあんなに怖いのは一重に俺達の事を心配しての事だっていうのも委員会の誰もが知っている。
生徒を守る為の規則は、それを生徒が守らなければ風紀も生徒を守れない。その心配を踏みにじるような事をしたのだと申し訳無い気持ちが沸き上がり、扉を潜る前にもう一度と頭を下げた。
顔を上げて隣を見ると東雲君もきっちりとした姿勢のお辞儀を崩していた所で目が合う。お互い困ったように小さく笑って風紀室を出た。





―――――





残っていた生徒も仕事を終えて帰り、しんと静まり返った風紀室。その中で一人机に向かっていた風紀委員長は引き出しから一枚書類を取り出すとサラサラと何事か書き加える。最後にペンを変えて印を付け掛け、ピタリとその手を止めた。


「ただいまー。ってあー、みんなもう帰っちゃったか」


舌打ちをして違うペンを取ろうとした所で外に出ていた副委員長が戻ってくる。手にした紙の束を委員長の机に出そうとした彼は机上に書類が広げられているのを見て首を傾げた。


「まだ仕事残ってたの?」

「……あぁ」

「あれ?それ吉里くんのじゃ……え?なんでマークついて……ってえぇ!?マジでっ……ぃっだ!!」

「喧しい」


目に入った名前と内容に思わず声を上げた副委員長の頭に委員長の鋭い手刀が落ちる。そのまま呻きを上げた副委員長は机に崩れ落ちたが直ぐに復活して叫んだ。


「今日だけでどんだけ頭打つのさ!バカになったらどーすんの!」

「大丈夫だ。もう手遅れだから」

「失礼!ってそれはいいや!ね、それ誰なの相手!」


机に身を乗り出して問う副委員長に唾でも飛んだのかファイルを顔の前へ翳した委員長は鬱陶しそうに顔を顰めた。


「五月蝿いぞ」

「だって赤だよ赤!赤丸!そりゃテンション上がるに……」

「……青だ」

「へ?」

「間違えて赤で書き掛けただけだ」

「……鬼の風紀委員長がミスるなんて天変地異の前ぶへっ」


翳していたファイルをそのまま振り下ろして顔に叩き付ける。副委員長はその痛みと文句を訴えながら、しかしほっと息を吐いた。


「あーでもだよね。外部入学で一月も経ってないのに恋人とか流石に無いよねぇ。しかも親衛隊持ちとかー。しっかし友達にしても今の学園の状況でよくなれたね〜」

「そうだな」

「でも、友達にしても今はマジでやばいよね……」

「……あぁ」


書類に青い丸が付け直される。この学園内で人気のある生徒と関わりが出来た生徒の書類へ付けられる印。それと写真を心配そうに交互に見た副委員長は気を付けてあげなくちゃと意気込んだ。


「……でもアレだよね。今だからこそなんか怪しい感じするよね。東雲くんとイイ感じなのかなとか思ってたけどまさか僕の知らないとこでそんなフラグ立ててただなんて吉里くんったらもう……っ」

「…………」


ブツブツと妄想を膨らませ始めた副委員長を放置し委員長は書類を元の位置に戻して鍵を掛けた。そして出入口の鍵を副委員長の前に置くとさっさと出口へ足を進める。扉を開いても気付かず語り続ける背中に最後に呆れた目を寄越すと、何も言わずに閉めた。
我に返った副委員長が相手の名前聞きそびれたと叫ぶのは、それからだいぶ時間が経ってからである。











吉里の友人、と言うかはよく分からないが関わる事になったという相手から連絡がきた時は心底驚いたものだ。
学園の現状を考えるとなんとも危険で面倒だが、同時に相手の周囲の状況を思えばそれなりに安堵を覚える。あのまま孤立したように仕事ばかりする状態でいれば流石のあれもその内潰れていた事だろう。トップに潰れられる訳にはいかないし、何より潰れたらあの人が悲しむ。気を許せる相手と接する事で憂さを晴らせるというなら多少の面倒くらい目を瞑ろう。
本日何度目かの深い溜め息を吐くと強張った肩を回した。


しかし書類に間違えて付けた恋人という意味を持つ赤いマーク。高確率で面倒事になるそれを付けたり確認したりするのは毎度煩わしいものであったが相手があの男の物ならば。


「面白いんだがな」


自分が引き入れた委員の後輩の顔を思い浮かべた風紀委員長はククッと笑った。



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