カミナリと罰
ピリピリと張り詰めた空気が風紀室内に立ち込めている。その空気を醸し出しているのは天蔵先輩。醸し出させているのは天蔵先輩の前に立つ二人。……俺と東雲君である。
他の委員の人達がチラチラとこちらを見ているけれど助けは望めない。視線には同情と、それよりも何とかしろよ、という気持ちが込められている事をひしひしと感じるのだから仕方無い。
「……さて。何か言いたい事は?」
「っ、いえ」
「……あの、」
「ん?」
「「すみませんでした……!」」
東雲君と声を合わせてガバッと頭を下げる。下げた頭に突き刺さる視線と深い溜め息。それにビクリと肩が震えたが逃げたいのをグッと堪えて立つ足に力を込めた。
何でこんな事態になっているのかというと、この前俺一人で生徒会室に書類を持って行ったのが天蔵先輩にバレた。そんな簡単で、最悪な理由。
いつもの他愛ない無駄口でこの前東雲君が見損ね掛けたテレビの感想を話していた時。よく見れたね、と当番の事を教えてくれた先輩が話に加わり。それに二人してうっかり動揺した事で不審に思われ。丁度居合わせた天蔵先輩に問い詰められてしまった。……という顛末。
天蔵先輩は元からルールに厳しい上、今は特に気を張りまくっててキレやすいから下手な真似しないよう気を付けろ、と先輩達から口を酸っぱくして言われていたのに……。迂闊だった。
頭を下げた体勢のまま、二人揃って息を詰める。反省もしているし罰もちゃんと受けるから、兎に角怒りを鎮めてください。心の中でそんな祈りをしていると、斜め前から暢気そうな軽い声が聞こえてきた。
「まぁまぁ、そこまで怯えさせなくてもいいでしょ?」
「あ?」
絹山先輩が宥めるように笑いながら手を上下に振るのを見て更に天蔵先輩の眉間に線が増える。ごめんなさい。怖いです。
表情に怯えが出てしまったようでジロッと目がこちらを見た。すみません。マジ怖いです。
え、てか何俺ロックオンされてない?天蔵先輩何か見定めるように目細めて見てくるんですけど。ですよね。これ俺が勝手に行動したやつですもんね。弱っちいくせに馬鹿な事してマジすみません。
視線に硬直していると、天蔵先輩は目を伏せまた溜め息を吐いた。
「……全く。何の為にパートナー制を作ったのやら」
「っ、すみません。俺が見たいテレビがあるからと吉里に押し付けました」
「え。……ちっ、違います!俺が平気だからと……っ」
「良いから……!……ですので、ペナルティは俺だけに、」
「いえ、俺も、」
「……ぐっ、ふぶっ!」
何か言い掛けた絹山先輩の頭を天蔵先輩の持っていたファイルが直撃した。俺はギョッと固まったのに隣の東雲君はあーあ、と絹山先輩を呆れた目で見ている。もの凄い音したのに何その余裕。こんな事しょっちゅうで心配するのは今更だから置いておいても、次やられるの俺等かもしんないのに。
唖然としたまま東雲君を見ていたら前方から溜め息が聞こえ、慌てて姿勢を正す。すると若干気が削がれた様子の天蔵先輩がファイルを肩に当てもう一度深く息を吐いた。
「……次は無いからな?」
「「っはい!!」」
ごめんなさい。マジごめんなさい。怖いですごめんなさい。
ひっくい声で、見おろすというより見くだすような鋭い眼光で言われ考えるより先に口が動いた。深々と腰を折った後、罰として一週間生徒会室への書類運び全てやるよう命じられて席に戻る。意外に軽い罰にほっとしながら椅子に座り、今日終わった分の仕事を纏めつつ小さな声で東雲君に話し掛けた。
「すみません……」
「謝るの俺だし……。マジ、ごめん」
「いえ、言い出したのは俺ですし……」
「いや、でも……」
「……っちょ、もうちょい!もうちょっとだけ!」
「とっとと行ってこい」
紙の束を抱えた絹山先輩が出口の扉にしがみ付いているのを天蔵先輩が蹴り出した。何だろう。突っ込むか笑うかすべきなのか。……怖いから無理です。
口元が引き攣るのを感じながら殴られたりしなくて良かった、とこっそり胸を撫で下ろして隣を見た。
「……じゃあ取り敢えず、持ってくか」
「……はい」
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