お昼休み

俺、何しでかしちゃってんの……。


ここ数週間の悩みが解消し、溜まりっぱなしだったストレスも発散され健やかに睡眠をがっつり取れた次の日のお昼。別棟と校舎の間にある中庭でベンチの背凭れに身を預けゆったり流れる空を仰ぐ。木立から差す日差しも緩く吹く風も眠気を誘うようほんのり明るく暖かいが、俺の頭上には絶賛暗雲が垂れ込めていた。
頭に靄が掛かったような苛つきも今の天気のようにすっきり爽やかに晴れた頭で、昨日の奇行とも言える自分の言動を思い出しガクッとこうべを垂れる。


ストレス溜め過ぎ、ダメ絶対。
忙し過ぎてずっとイライラしても遊びに行ったり出来なかったから溜め込む一方だったそれ。発散出来ていなかったのは仕方ないが人にぶつけたらいかん。東雲君に今度ゲームでも借りよっかなぁ。……でもやる時間ないんだよちくしょう。


「おーい……って悠真?」

「どうかしたの?」

「……あ、葵君、怜司君」


自己嫌悪にうだうだ沈んでいた俺の頭に訝し気な声が掛かる。のろのろと顔を上げれば目の前にパンやおにぎりを持った二人が立っていた。何でもないと返しベンチの端に詰め、葵君を真ん中に三人で並び弁当を広げる。最近は仕事が立て込んで特待生だからと授業はある程度出してもらえているが休み時間は直ぐ見回りとか行っていてあまり二人と話が出来ていない。だからせめてお昼くらいは、と言ってくれた二人とこうして中庭で一緒に昼食を取るようになった。


「どうしたんだよ。仕事で失敗でもしたのか?」

「あ、ひょっとしてまたイタズラ電話でもあったとか?」

「あぁ、いえ。昨日は大丈夫でした」

「そか。よかった。……しっかしお前も任されたからってひたすら愚痴聞かなきゃなんねぇなんてキッツいな」

「あはは……」


デスクワークをしながら東雲君とこそこそ世間話をしていたある日の事。愚痴をただ聞くだけのバイトがあるらしいですね〜、と前見たテレビについて話していたらいつの間にか後ろに天蔵先輩が立っていた。無駄口怒られる!?と身を強張らせたら何故か先輩はにっこり笑ってどこかへ行って。そしてその日の内に愚痴聞き窓口なんてものが設けられ。発案者だからと俺が担当責任者になりそうになり掛けて。新入りの話もしっかり取り入れお仕事を任せる委員長さん。マジぱねぇです。
流石にそれは可哀想だと責任者は絹山先輩がなってくれたけど担当にはさせられ電話番をする毎日。色々、辛い。


「今こんなんじゃ仕方ないかもしんないけど、外部の新入りに色々させすぎだよなぁ」

「でもさぁ、そーいうの忙しくてももっとなれた人にさせるものじゃない?」

「あー……。人気のある方には話すのを目的にして掛けられそうですし、ただ聞くだけというのが苦痛という方もいますし……」

「あー」


無駄に電話が殺到したり喧嘩になったりしたら意味が無い。なので美形の人や血の気の多い人にはさせられないのだ。そんな訳でそれらに該当しない人達とシフト制で受け付けているのだが。親衛隊、各種委員会、部活主将、後先生とかからよく掛かってくるその電話は殆ど間を置かずに鳴らされる。今はお試し期間で、やるかどうかはまだ保留中なのだがこの様子だと採用になりそうだ。
それで少しでも学園のピリピリした空気が軽減するなら良いけれど、聞き手のストレスがマジで半端ないのでぶっちゃけ没になってほしい。一応問題になりそうなところをチェックするだけで大半聞き流しているけど、それでもかなりしんどい。多少危険でも外回りの方がマシだ。


「なんか愚痴りたいなら聞くぞ〜」

「ありがとうございます……」


二人の心遣いが心に染みる。けれど今はそれが胸に痛くて堪らない。
二人からそっと目を外して俯く。こんなに心配して色々言ってくれる二人の忠告マルッと無視して昨日人気者に近付いてしまった、なんて。しかも相手は葵君が憧れている生徒会長で。その彼に近付いて話して飯まで食ってって……。あぁ……、顔合わせ辛い……。



「……ていっ」

「うぉっ」


ぐるぐる考えながらぼうっと箸先を見ていたら急に葵君が抱き付いてきた。


「えっ、葵君?どうかしましたか?」

「ねぇ、なんかさ、ひょっとしてさ、なんか悩んでるの……ぼくにかんけーしてる?」

「へっ!?」


声が裏返り、しまった!と体が強張る。その不審さに気付かれたようで、やっぱり、と呟いて悲しそうに眉間を寄せられてしまった。


「来たときから、あんまりこっち見ないし。なのになんか気にしてるみたいにチラチラ見ようとはしてるし……」

「え、えぇっと……その、」

「……風紀だとしゃべれないことばっかだろうし、よくわかんないけどさ」


誤魔化そうとする言葉は服をギュッと握られた事で遮られる。どうしようと慌てていると、体を離した葵君がジッと見上げてきた。


「ぼくはゆーまが元気ならそれでいいよ?」


だから悩まないでいいよ、と抱き付き直しながら言われた言葉にじわっと目頭が熱くなった。うわやべ、なんか泣きそう。悩みの内容は十中八九勘違いされているけど、それでもその言葉にちょっとだけ救われる。
酷いだろう顔を伏せ、葵君の背中に腕を回した。するとギュウギュウと力が増して思わずぐぇっと呻く。可愛い顔してるけど男だもんなぁ。力もそれなりに強いわ。
負けてられるかとこちらも腕に力を込めると楽しそうな笑い声。それにほっと体の力を抜いていると、反対側からつまらなそうな声が聞こえてきた。


「いーなー。オレ一人さみしー」

「……あ、怜司君もやります?」

「さとしはダメ」

「即答だなんてそんなひどいわっ」

「……ふっ、ふふ」


よよよ、と顔を覆って泣き真似をする怜司君に吹き出す。若干鼻声のまま笑っていると、二人が凄く嬉しそうにこっちを見てきた。ニコニコと顔を合わせる二人にだいぶ心配を掛けていたのだと気付き、申し訳無さと嬉しさを感じてむず痒くなる。気恥ずかしくなって顔を隠した影でこっそり小さく息を吐いた。



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