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そう時間も経たず辿り着いた場所でコンコンと硬い木を叩く音が静かな廊下に木霊する。返事が無いのを確認して風紀仕様の鍵で解錠した。入って直ぐ様照明を付ける。パッと明るくなった部屋を見て漸く詰めていた息をほっと吐き出した。ここも広く、人がいないのが恐くはあるが闇の中へずっと続いていそうな廊下に突っ立っているよりずっとマシだ。安心した所でグルリと部屋を見回す。


誰もいない、ガランとした生徒会室。
以前来た時輝いて見えた室内はどこか暗くくすんで見える。それぞれの豪奢な机の上に分厚く積まれた紙の束だけがただ存在を主張していて、何か重苦しい。そう考え出すと明るくしている筈の蛍光灯が冷えた光で一層影を強くしているように思えてくる。見れば見るほどホラー映画の洋館みたいな様相に感じてきてブルリと体が震えた。
さっさと終わらせてとっとと帰ろう。そうしよう。見えない何かへ威嚇するよう大袈裟な音を立てて箱を机に下ろし、仕分け作業を開始した。


指定された籠に箱の中の紙の束を振り分ける。その量や書かれる字数は前回より多くなっている気がする。一日一日増えてっているんだろうか。……この机は本来書記と庶務が仕事をする為に設置されている筈なのに、もう置き場が無い程籠と紙で占領されている。これじゃあ戻ってきても直ぐに仕事出来るかどうか。
早く済ませようと印字に目を滑らせながら、ほんの数回だけ関わった生徒会について意識が傾いていった。



正直生徒会のメンバーに良い思い出はない。会う度に庶民かと小さな嫌みを言われたり仕事中なのにだらしない姿晒している人もいたり。教室などで聞く評判よりもぶっちゃけ結構性格悪いと思う。遠くから見るのと近くで見るのでは全然違う。富士山みたいなもんか。そうは言っても何だかんだ仕事はできるのでまぁ良いだろうと思っていたのだけれども。
過去と現状、どちらにも腹が立ってきて机を紙の束でバシッと叩く。……空しさが増しただけだった。皺になってないか確認して籠に放り込む。そうしてまたサカサカと作業に戻った。


ぼうっと単純作業を熟していれば思考はまた逸れていく。今度浮かんできたのはさっきの人達と一線を引いた場所にいた、真っ黒な後ろ姿。今日はもう遅いからたぶん帰っている筈。
働く生徒会長の顔や声はあの時出会った先輩そのもので、突き放した態度から考えても本人に間違いないと思う。でもその後校内で見かけた時の雰囲気があの会った時とあまりにも違い過ぎて、一時は双子か何かで実は別人だったんじゃないかと考えもした。しかし勿論そんな事はなく。ならば生徒会長として人の前に立つ姿があれなんだろうと結論付けた。
公私の区別がはっきり付いた人なんだと納得し、ならば尚更恐らく素の姿を見てしまった自分と関わるのは気不味かろうと極力接触しないよう心掛けた。まぁ、元よりあの人がこちらを見る事など無かったのだけれど。

そうして数日経ったある日、廊下で各委員長と話し合っている姿を発見した。こちらを振り返る事の無い背中を見たのは一瞬。その時はあぁいるな。というぐらいで他に何も思わなかった。でも。


「……なんか最近あん人んこつばっか考えよるなぁ」
(「……何か最近あの人の事ばっかり考えているなぁ」)


普段仕事や勉強に忙殺されて他の事を考える余裕も無く一日が過ぎていくのだが、ここの所気を抜いた時にふと頭に浮かぶのは出会ったあの日の食事と会話した光景。過ぎ去った時間はその時感じていたよりもかなり居心地の良いものだった。

もう無いと分かっていても。無いからこそもう一度、と思ってしまう。自分よりも忙しい人に癒しを求めてどうするとその度に考えを振り払うが消える事は無く。……なんか疲れてるからか女々しいなぁ。
いつの間にか止まっていた手を動かして最後の一部を籠へと納めた。


「うっし。こっで終わりっと」
(「うっし。これで終わりっと」)


書類の分類がやっと終了し肩を鳴らす。そうしてさぁ帰るか、と荷物を手にした所でそういえばこの箱自室まで持って帰んなきゃいけないのかと面倒くさがった瞬間、急にガチャリという音がした。


「ひ……っ!?」


髪が逆立つように鳥肌が立ち悲鳴が喉の奥へ引っ込む。本気でビビった時は声出ないんだな、と暢気な思考が過り、あ、ちょっと自分意外に余裕?とか怖さを誤魔化す為変な事を考えながら軋む首をゆっくり動かし音のした方向へ目を向ける。


「先、輩……?」

「?……っ」


今の今まで思考の中心にいた人物が扉に手を掛けたまま立っていた。



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