再会

放課後。いつも通りの巡回が終わり、重い足取りで漸く着いた風紀室のノブに取り付くよう手を掛け扉を押し開いた。数人が作業をする部屋の中をふらふらと進み、空いた席に着けば座った瞬間押し出されるように深い溜め息が吐き出される。背凭れにぐたっと体重を掛けていると他の席からもちらほら聞こえる疲労の陰。


今日は喧嘩の仲裁をした。ただ言い争っているだけだったので注意だけに止まったが、転校生や人気者、親衛隊に関わりが無い人達もピリピリして落ち着かない。……やだなぁもう。
身体よりも精神的な疲れがキツくて目頭が熱くなり、慌てて頭を振って思考を振り払う。気持ちが暗くなったらそのまま潰れてしまいそうだ。また漏れ出た溜め息を聞かなかった事にして、気を切り替えるように引き出しから報告書を取り出した。











「もう直ぐ始まるし……!」

「テレビですか?」

「あぁ……!」


やっと書き終わったとペンを置けば隣から舌打ち。見れば同じように書類を書き終えた東雲君が大慌てで帰り支度をしている。そう言えば今日は何かアニメの特集みたいのがあるって言ってたっけ。いつもより説得に時間が掛かった上、他の仕事も重なってずっと二人で頑張っていたのだが時計はかなり遅い時刻を示している。もう風紀室には俺達の他に同じ様に提出期限に追われていた二年の先輩しか残っていない。


「何で今日に限って録画忘れてたんだよ……っ」

「あー……」


それは焦る。急ぐ東雲君に合わせ俺も手早く帰り支度をしていると、やっと終わったと背伸びをしていた先輩があ、と声を上げた。


「東雲くん吉里くん。あれ。当番忘れてるよ」

「え?」

「はぁっ!?」


先輩が委員長の机上にある書類が入った箱を指差す。一日一度、それをここから離れた所にある生徒会室へ届けるのは一年の仕事になっている。


「もう閉まってるかもだけど一応今日提出分だからね」

「あ〜……っ!まじでー……っ」


東雲君が縋るような目線をじとりと向けるのを先輩は苦笑で返す。


「代わってやりたいのは山々だけど俺も約束があってすぐ帰らなきゃいけないから……」


ごめん、と手を合わせ申し訳無さそうに言う先輩を見てがっくりと肩を落とした背中に暗雲が漂う。今彼の心中は豪雨に見舞われている事だろう。


「っあーもー。しくった……」


凄く行きたくなさそうな顔をしているが、押し付けようとしたり人に文句を言ったりしない東雲君は偉い。そんな友人に何かしてやりたいと思うのは人情というもの。
それ出したら真っ直ぐ帰って良いから、と戸締まりをしながら言われた言葉を有り難く受け取り、箱を抱えて急かす東雲君の後に続いて風紀室を後にした。そして角を曲がり、風紀室が見えなくなった所で東雲君が持つ箱を取り上げ提案する。


「後は俺に任せてください」

「は?何……」

「もうこれを出すだけで終わりですし、この棟なら事件など起こらないでしょうし。一人だけでも大丈夫ですよ」


風紀は基本二人以上で活動するように決められている。たまに各自の都合で替わる事もあるが大抵は最初に天蔵先輩が決めた人とペアで動く。で、俺はそれが東雲君という訳だ。最近は物騒だから特に一年は絶対に一人にならないよう言われているのだが、こんな時間、特別棟にいる人間は他にいないだろう。


「……良いのか?……でも、」

「大丈夫ですって。俺ももし何かあったらその時お願いします」

「……分かった。サンキュ!」

「いえいえ」


目を合わせてはっきり言うと暫く迷っていたがガバッと頭を下げられた。急ぎ足で帰りながらも何度も振り返ってこちらを気にする様子に笑いながら手を振る。


「……さて、と」


姿が見えなくなってから生徒会室へ続く廊下へ目を向ける。とっぷりと更けた夜の誰も通らない校舎は不気味でちょっと顔が引き攣った。横目に見た外はもう真っ暗。蛍光灯を反射する窓ガラスには自分と壁が映るばかりで今一人しかいないのだという事を如実に伝えてくる。高校生にもなって情けないけどやっぱり付いて来てもらえば良かったかもしれない……。後悔してももう遅いけど。


ごくりと唾を飲み込んで床に貼り付こうとする足を無理矢理引っぺがし、目的地へと恐る恐る足を踏み出した。



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