不穏な気配

放課後の委員会活動。現在下っ端の雑用中。
入り立ての頃はたまに数枚任す程度だと言われていた書類が、ここ最近毎日処理するようになり厚みも増していっている。内容は校内で起こった傷害事件や器物損壊、生徒の意見書等々。事件、起こり過ぎ。物、壊れ過ぎ。意見書の方は出来る事ならあまり読みたくない。不平不満といった負の感情がギッチリしたためられていて呪われそうで触れるのも恐い。そんなそれら全てが件の転入生に関わるものだというからまた恐ろしい。


時期外れの転入生が来ると初めに聞いた時は天蔵先輩は手続きが大変だなと苦笑。絹山先輩は何か聞き取れない叫びを上げガッツポーズを取り天蔵先輩に笑顔で殴られた。天蔵先輩、怖い。じゃ、なかった。絹山先輩どうした。
早口で捲し立てられた中に『王道』とか『総受け』とか聞こえた気がする。なんか田舎の従妹が似たようなセリフを言ってた気がするけど、絹山先輩、……まさかねぇ。……ねぇ。
浮かんだ発想を打ち消し、何も知らないフリをする。実家に居た時のように分からない話を延々と聞かされるようになっては堪らない。知識があったのか運悪く度々捕まっている東雲君を見捨てる事になるけど。……ごめん!

兎に角、来る前は絹山先輩は大喜び。天蔵先輩も仕事が増えると言いつつそれなりに歓迎ムードだった風紀室。しかし今では憎悪の感情が渦巻いています。



「まさか、アンチの方がくるなんて……」


時期外れの転入生。絹山先輩曰く王道転入生君とやらは転入して来てからたった数日で校内の人気者の多くを惹き付け虜にしてしまったらしい。転入早々在校生と仲良くなるのは良い事なのだが如何せん相手が悪過ぎた。人気者には親衛隊がいる。そしてその対象に軽々しく近付く者には嫉妬と嫌悪を向けてくる。彼等から見て接触の度が過ぎれば制裁という名の集団による苛めが起きてしまう。
一人二人の親衛隊ならまだ何とか抑えられるだろうが、王道君は対象が多過ぎる為一度に動かれれば手が回らない。しかも親衛隊を持つ人気者達が彼らを抑える気が無い。と言うより親衛隊達と接触をしたがらなかったり、寧ろ怒りを煽るような態度を取っているらしいから尚の事ヤバい。今はまだ小さな小競り合いや八つ当たりのように物が壊されるだけで済んでいるが、このままでは確実に激化すると天蔵先輩が苦々しく溢していた。


転入生君を中心に、ジワジワと大きな嵐が吹き荒れようとしている。


「う〜ぁ〜……」

「大丈夫ですか?副委員長」

「吉里く〜ん……癒しておくれ〜」


ぐてりと机に突っ伏した絹山先輩がのろのろとこっちに手を伸ばす。癒してって言われても。どうすれば良いのかと困って苦笑していると、伸ばされた手が紙の束でベシリとはたき落とされた。


「ハイハイ、嘆いてないでこれ確認お願いします」

「え〜話くらい聞いてよ東雲く〜ん……。話の内容理解できるのここじゃ君だけなんだよ〜」

「分かるだけで興味ないんで嫌です」


顔を伏せてシクシク言い出した絹山先輩にザッパリと素気無い台詞を放つ東雲君。あまりのすげなさに絹山先輩は顔を上げて口を尖らせた。


「ケチ……」

「俺はそっちの知識、無くはないですが好きではありませんから」

「聞くだけでもいーからさぁ〜」

「んな暇あったらとっとと終わらせて嫁に会いに帰ります」


交流する内に知ったのだが東雲君はオタクなんだそうだ。部屋には沢山のアニメグッズがあると言っていた。それが絹山先輩の趣味と似通っているらしく絹山先輩としては一緒に話したいらしい。
確かに何かの拍子に語られた時には一時の絹山先輩と同じ勢いがあって驚いたものだ。葵君の会長語りもあんな感じだったなぁ。後は故郷の従妹も……どれもあまり思い出したくないものだ。
しかし、東雲君としては全然別物だという事で、というか寧ろ嫌だという事で全力で拒否しまくっている。それでも尚食い下がる絹山先輩。……そろそろ東雲君がキレそうだ。


「……副委員長、東雲君もお忙しいのですからその辺にしてあげてください」

「そうそう」

「え〜……」

「お茶、お注ぎしますね」


お茶菓子と共に温くなったお茶を取り替えればコロリとそちらに意識を向ける絹山先輩。その様子に呆れた視線を送りながらも機嫌が良くなった事にほっとしている東雲君にもお茶を出し、座るよう促した。



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