はじめまして

「そうそう、学校自体笑っちゃうくらいマンガみたいなベタさなんだけど生徒会のメンバーもこれまたベタな王道揃いなんだよね〜」

「はぁ……」

「……」

「これで時期外れの転入生なんてきちゃったら完璧だよ」

「そ、そうなんですか」

「…………」


説明や質疑応答を終えた後。また様々な装飾品が飾られる廊下を天蔵先輩、絹山先輩、そして俺を含めた風紀の一年がぞろぞろと歩く。生徒会との連携が少なくない為新しく入ったメンバーを対面させておくのだそうだ。

それで絹山先輩が生徒会について話ながら歩いているのだが、周りを飾る物の値を想像して頭がグラグラしているのと東雲君がなんか怖いのとで聞く余裕が無い。天蔵先輩や他の人は慣れているようで気にせず話も流し気味でさっさか歩く。他に相槌打つ相手があまりいないからかずっと俺と、逃げようとして捕まった東雲君に話し続ける絹山先輩。


「会長だけちょっと違っててそこだけが残念なんだけどさー」

「へ、へえ……」

「…………」

「それはそれでおもしろいっていうか?」

「はい……」

「………………」


早く着かないかね!











……いや、やっぱり帰る方でお願い出来ないでしょうか。
漸く辿り着いた生徒会室。風紀のそれと同等かそれ以上に厳めしい扉を前にしてそう思ってしまったのは仕方無い事だと言いたい。


開かれた扉の先の引くほど豪華な室内に頬が引き攣り、出迎えた役員のきらびやかさに葵君達の言葉は本当だったと納得して気が遠くなる。調度品とか触りたくないくらい綺麗で、風紀よりレベル高いんじゃないだろうか。そして葵君の語ったように粒揃いな容姿で怜司君が合間に呟いたように癖のありそうな面々。ここに居るだけで今までの自分の中の常識とか日常が吹っ飛びそうでこえぇ……。可能性は零だから良いんだけど、生徒会にだけは絶対入りたくないわと独り言ちた。


先輩方が軽く挨拶をしている間、一所に集中出来ず目が泳ぎまくってしまう。しかしずっとそうもしていられないと意識を前へ戻そうとすると、部屋の奥の扉から誰か出てきた。


音につられて顔を向けるとその人物と目が合い、顔を確認して瞬く。向こうもこちらに気付いたようでやや目が見開かれた。驚きで固まった俺とは対照に相手は直ぐに元の無表情へ戻り、人の輪の中へ足を進める。


「生徒会長の緒方だ」


荘厳な部屋の真ん中に立つのは漆黒の人。この前、部屋に招き入れた先輩が静かに佇んでいた。つい数時間前聞いた葵君達の話が浮かんだ瞬間、鋭い視線が向けられ体が竦む。


「はじめまして」


言葉と共に色の無い、強い眼差しに射ぬかれ悟った。彼は、もうこの前のように話の出来る相手では決して無いという事を。











「吉里?どうかしたか?」

「……え?」


東雲君の声で我に返る。気が付けば元の風紀室で今後の日程が印刷されたプリントを手にボケッと突っ立っていたようで、キョロキョロと周りを見回して混乱した。


「……大丈夫か?」

「……すみません、生徒会室の……物も人も色々凄過ぎたのを思い出して放心していました」


ここも凄いですけどと苦笑するとあー、と納得の声。あれはなぁと息を吐く東雲君の様子に夢では無く現実だったのだと漸く頭に落ちてくる。
あの後名前を名乗って挨拶をし、それぞれ励ましの言葉なんか掛けてもらって風紀室へ戻ってきた。それはちゃんと覚えているし、分かっている。ただ、まだ実感が無い。


「……一般人が踏み込んではならない所へ入ってしまったような気分です」

「そこまで言わなくて良いと思うけどな」


苦笑した東雲君に頑張って慣れろと肩を叩かれる。笑って返しながら帰り支度を始めた彼に倣い自分も鞄へ手を伸ばした。



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