顔合わせ

葵君達と別れた後。風紀室へ行けば初仕事と顔合わせだという事で委員のメンバーが全員集合していた。葵君の話が熱くなり過ぎて遅れるかとヒヤヒヤしたけれど無事セーフ。委員会が始まり、さてと集まっている人達の顔を見回してフッ、と笑みを溢す。


俺、超浮いてるー。


キラキラしい人達と逞しい人達。
その中に平凡かつひょろい俺一人。
イジメかこら。


「一年の吉里悠真です。外部生の為、知識が薄く至らぬ事が多いと思いますが力を尽くしていきますのでどうかよろしくお願いいたします」


自己紹介と共に頭を下げれば小さな拍手とよろしくという声を掛けられる。この緊張感の中噛まずに言い切れた事に心中ガッツポーズを取りながら後の人達の挨拶を聞いた。
いやしかし、やっぱこの部屋無駄に豪華でいるだけでしんどい。ちゃんとその内慣れられるのだろうか。てか庶民的にこの豪華さ慣れちゃって大丈夫だろうか……。


「吉里は……よし、東雲」

「はい」

「吉里に詳しい仕事の説明を頼んだ」

「分かりました」


ボウッとしている間に挨拶は終わっていて、急に自分の名前が上がった事でハッと天蔵先輩の方へ顔を向ければ一人の生徒がこちらを見ていた。あぁ、うん。また美形か。


「吉里くん、こっち東雲和彦(しののめ かずひこ)くん。同じ一年生だけど中等部の頃からちょいちょいこっち手伝ってたからだいたいのことはわかってる……よね?」

「……はぁ、まぁ一応」


なんか嫌そうな顔の東雲君。そしてそれをスルーして話す絹山先輩。迷惑を掛けていると分かっちゃいるし申し訳ないと思うがちょっと傷付く。


「……よろしく」

「よ、よろしくお願いいたします」


全体の話も終わり二人で改めて自己紹介。キリッと真面目で堅そうな印象を覚える面差し。おふざけなどちょっとでもしたら睨まれそうな雰囲気で。そんな彼の不機嫌そうな様子にヒヤヒヤとして、思わず軽く頭を下げた。


「説明だなんてお手数掛けさせてしまい、申し訳ございません」

「あ。……別に、良いから。そんな固くならないでくれないか?」


さっきの嫌そうな様子から一転して気不味そうな顔。俺を嫌がっているようでは無さそうでほっとして笑えば同じように笑って返された。良かった。良い人そうだ。
緊張が解れたところで話してみれば本当に迷惑とは思われていないようで。安心してちょっと談笑していると、絹山先輩が仲良くなったみたいだね〜と笑顔で近寄ってきた。


「はい。じゃあこの学校でわかんないことあったら東雲くんや僕にどんどん質問してね?」


絹山先輩が笑顔で言う。あれ?何故近くの椅子に座っていらっしゃるのでしょう。見て回ったりとかしているんじゃないのか?


「……あの、ここばかりについていらしてよろしいんですか?」

「ん?あぁ、ほとんど中等部からの子で指導済みなんだ。他の外部生も同じ部活の子や先輩がついてるし。だいじょーぶだいじょーぶ」


見れば他のグループも学年入り乱れで質問会や打ち合わせのような事をしている。ね?とニッコリ笑った先輩に、隣の東雲君が凄く嫌そうに顔を顰めた。あれ、これひょっとして東雲君絹山先輩嫌い的な?だからさっきからピリピリしているのだろうか。
対する絹山先輩は……よく分からない。楽しそうなので負の感情は無さそうだけどそれが余計に東雲君の神経に障っている気がする。まぁつまり、二人に挟み込まれたこの状況は針の筵と言えまして。
うへぇ。天蔵先輩、これ無理ですキツいです。変えられませんか?


「あ、あのう……」


何?とぶっきらぼうな東雲君とニッコリ笑う絹山先輩。無理。逃げたいけど逃げられない。


「えーその、この学校ではリンチとか……ご、強姦……とかあると聞いたのですが警察沙汰になったりはしないんですか?」


雑談で雰囲気を変えるのも難しそうだと判断し、取り敢えず質問をする事にした。適当な物が浮かばず、葵君達から話を聞いて以来ずっと気になっていた事を真っ先に出してしまい更に殺伐となりそうでしまった、と内心頭を抱える。ハラハラしながらも答えを待てば、目の前の二人は何とも言えない顔をした。


「親の力が強いところが多くてほとんど揉み消されてしまうんだよ」

「……んで、訴えたくても下手すりゃ自分んち潰されるから泣き寝入りになっちまう」


絹山先輩の言葉を次いで東雲君も苦々しげに話してくれる。
企業の御曹子やら権力のある家の生徒が集まるこの学校は力の格差が生まれており、それを利用する生徒が少なくない。そんな感じで力の無い人を見下したり家を傘に好き勝手するような生徒がいる為、人に指示を出したり指導する生徒会や風紀委員の殆どは家柄の良い所から選んでいるらしい。それで東雲君みたいに中等部の頃から条件に見合う生徒に声を掛けているとの事。凄まじい世界だなぁ。


「お坊ちゃん校と聞いていましたがなかなか治安はよろしくないんですね……」

「お坊ちゃん校だからこそ……と言えるのかもな」


東雲君が苦渋の滲んだ声を出す。


「権力だか相続争いだかなんだかで窮屈な家から遠く離れる事ができて家柄や地位が自分よりも格下の奴がいる。鬱憤を晴らす良い場だとでも思ってんだろ」

「さっき言ったみたいになんかやっても親が揉み消しちゃうからねえ」

「変な甘やかしや体裁の繕いをする親が少なくないんだ」


はーっと詰めていた息を吐く。色んな家、色んな人がいてその数だけ其々事情を抱えている。一般家庭でもそうなのだから簡単にあれこれ言える問題ではないだろう。だけれど。


「悪しきを叱り、良きを伸ばすのが親としての一番の仕事で愛情でしょうに」


祖父が常々言っていた事を思い出す。同時に悪い事をした後の愛の鞭という名の両親祖父母の厳しい躾も頭に浮かび、少し身震いした。愛情あっても叱られるのは恐ろしい。でもそのお陰で今の自分があるんだよなぁ。
しみじみしている俺を見て絹山先輩が笑う。


「なんか、本当にふつーの家の子って感じでほっとするなあ」

「俺は逆にここでやっていけるか心配になってきたんですが」


東雲君といいこの前の先輩といい、そんなに俺って危なっかしく見えるのだろうか。呆れ顔の東雲君を恨めし気に見る。
……絹山先輩の目が何か光ったのは気のせいだろうか。それを確認する前に東雲君が先輩を思いっきり睨んだ為尋ねるには至らなかった。妙な事考えないでください、とひっくい地を這う声で言った東雲君にちょっとビビる。迫力あるなぁ。しかしまぁ取り敢えず。


「役に立てるよう頑張ります」


その間に挟まれていて平気な程図太くはないので無理矢理話を終わらせた。



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