生徒会について

「あ〜悠真、帰りながらちょっと注意ー」

「はい」


既に帰る準備が終わっていた藤澤君に別れを告げ、遅れて俺達も荷物を纏め教室を出る。そんな時に怜司君が思い出したように声を掛けてきた。


「あのね、ゆーま」

「はい。なんでしょう」


廊下を歩きながらどう言おうかな〜、と頬を掻く葵君の頭に手を乗せた怜司君が話し出す。


「美形な奴らヤツらには近付かないように、って話したのは覚えてるか?」

「はい」

「んっと、知ってるかもだけど風紀ってね、かっこいい人多いんだよ」


それはまぁ、人気あるって言っていたし、絹山先輩の話からも薄々そんな気はしていた。
頷いて続きを促すと、二人してうーん、と唸りながら口を開いた。


「そんなもんで仕事以外で風紀に近付くヤツ敵視する輩もいるんだよなぁ」

「あとあと、生徒会の方たちといっしょにお仕事したりとかもけっこうあるんだよね……」

「流れ的にわかっただろうけど生徒会も美形が多い。っていうか言ったと思うけど生徒会って全員人気者の集団なんだよな」


葵君からこの前散々絶賛された会長のいる生徒会も美形揃いなんですか。それは何とも……。


「風紀はな、まだ大丈夫なんだけど生徒会はちょっと。風紀自体も人気が高いんだけどそれより生徒会に近付けるって特典で羨まれてたりもするし」

「うちのクラスはあんまり気にする人いないみたいだけど……」

「とにかく生徒会にだけは気を付けたほうがいいっつーか……」


言い淀む二人を見てあぁそうか、と納得する。だから俺が風紀って分かった時驚いた後心配そうな顔していたのか。


「分かりました。仕事以外で近付く事が無いよう気を付けます」


頷き笑って答えればほっとした様子の二人。


「うん、ほんと気をつけてね?」

「ありがとうございます」


まだ少し心配気な怜司君の背中を叩き、止まっていた足をまた前へ向ける。書類関係とかで会う機会はよくあるだろうけど大抵特別棟で済む筈。だったら周りの目を然程気にする必要は無いし、外で会っても私用なんかで近付く気はない。だから何とかなるだろう。
そんな楽観的な考えを持ちながら静かな廊下を歩いた。


俺達のクラスの授業は早めに終わった筈だが話し込んでいた事もあり廊下にいる生徒の数は疎らだ。まだ明るい廊下を歩きながら他愛ないお喋りをする途中、ふと思い付いた疑問を口にしてみた。


「そう言えば、生徒会にいらっしゃるのはどんな方達なんです……、か」


ちょくちょく話題にはなるけれど個人についてはちゃんと聞いた事無かったな、と尋ね掛け、言い終わる前に後悔した。
葵君の瞳がすっごくキラキラ光っていて怜司君がげんなりしている。あ、これ地雷?もしかしなくても地雷?
しまった、と止める前に、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりに俺の腕をがっしりと掴んだ葵君が輝く笑顔で話し出した。


「そういえばなんだかんだお一人お一人のお話はできてなかったね!」

「あ、いえ、やっぱり……」

「それじゃあまずは!われらが会長さまから!」


良いです。という言葉は言わせてもらえなかった。怜司君は明後日の方向を見て聞く気も止める気も無いと態度で伝えてくる。酷い。


「会長さまはねぇ、あでやかな黒髪とすずしげな目元がとってもみりょくてきで、お家柄もいいことから立ちふるまいも毅然となさっている文武両道で非の打ち所のないかんぺきな方なの!でね、」


スラスラ語り始められた内容は滑らかに速過ぎて頭に入らない。取り敢えず格好良くて超人的な人なのね。と適当に纏めてみたがまだ葵君の口は止まらない。どうしよう。


「……っ、あ、葵君はひょっとして得意教科は国語だったりされます?」

「それで……え?うん、そうだけど、急になあに?」

「会長を説明される言葉遣いがとても流暢だったのでなんとなく」

「え?そう?」

「はいっ。それで葵君は他に……」

「じゃあ!この調子でどんどん話しちゃうね!」


話を逸らす作戦失敗。正に立て板に水。強い。強いよ葵君。寧ろ褒めた事でヒートアップ?よく呂律回るね。


「それでさあ、そりゃあもう学校でいっちばん人気すごいんだけど、親衛隊のたいちょーとおつきあいしてるんだ〜……。ざんねんだけどたいちょーもすっごくかわいくて人気ある方だからお似合いってかんじでね〜」

「へ、へえ……」

「たいちょーもスゴい方で親衛隊まとめる手際とかもね……あ、ごめん。ぼくばっかしゃべっちゃって……」

「へっ?い、いえ、俺から聞いたんですから……」


ハッとした顔で語りを止めた葵君が申し訳無さそうに眉を下げて俺を見上げる。シュンとした姿は可哀想だが、止まってくれた事にとてもほっとした。このまま別の話にでも変えようか。


「あっ!そーだ!何かしつもんはある?何でもこたえるからどんどん聞いてっ?」

「えっ?あ、あ〜……お名前は?」


止まるかと思ったのに……。止まるかと思ったのに…!フェイントか!
ガックリしつつも勢いに気圧されて尋ねれば、あ、という顔をする葵君。うん、忘れてたよね。俺聞きたかったの名前とだいたいの人柄くらいだったんだよ。


「いっけないいけない。会長さまのおなまえは緒方貴之(おがた たかゆき)さま、だよ」


緒方会長。ね。はい。分かりました。分かりましたからもうストップしてください……。
若干泣きの入った願いは届かずマシンガントークを続ける葵君に、怜司君がこれだからマニアは……と耳を塞いで呟いた。葵君見てるのこっちだけだもんね。見てないなら何でも出来るね。くそう、俺もちょっと耳塞ぎたい。


会長だけでも長過ぎて途中から相槌を打つだけになる。副会長や他のメンバーも話してくれているようだが今日の分はもう容量オーバーです。止める隙が無い話の大部分を聞き流しながらぐったりと廊下を進んだ。


ギリギリまで語り倒した葵君に、聞かなきゃ良かったとふらふらになりながら二人と別れる。葵君に生徒会、特に会長の話は鬼門だとがっつり理解させられた一件だった。



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