学級委員長

…………

………

……





「そんなことがあったの……」

「はい……」

「知らん間に大変だったんだなぁ」


授業と合わせてホームルームも終わり、先生が出て行った教室で葵君と怜司君に挟まれ事情を聞き出される。葵君には特に鬼気迫るといった様子で突進して来られてちょっと恐かった。根掘り葉掘り聞き出そうという意気込みっぷりは寧ろ俺より風紀に合うんじゃなかろうか。

話終わってぐったりとすれば葵君は心配そうな顔をし、怜司君は労うように肩を叩いてきた。それにお礼を言ってグルリと凝った首を回す。漸く一息吐いた教室は殆どの生徒が帰っており、残っているのは俺達の他に後一人、担任に言われ板書をした生徒だけだった。確かこの人は……。


「あれ?いーんちょう?」


あぁ、そうだ学級委員長さんだ。確かこの人も最初から委員が決まっている組だったっけ。クラスと担任推薦だったか。……それ凄くない?どんだけ信頼されてんの。
凄いなぁ、とその背中を見ていれば、読んでいた本から顔を上げた委員長が立ち上がり近付いてきた。


「初めまして。学級委員長をやっている藤澤(ふじさわ)だ」

「あ、初めまして。吉里です」


俺達が座っていた机の傍まで来た藤澤君と挨拶を交わす。そう言えば葵君達以外のクラスメイトと話すの初めてな気がする。


「あれ?オレらにはあいさつしないのー?」

「中等部から持ち上がりで、見た目がそれっぽいからと人に散々学級委員を押し付けてくる奴等にする挨拶など無いな」


腕を組んで憮然とした顔で目を細める藤澤君に身を縮ませ目を泳がせる二人。それは酷い。でも見た感じ確かに学級委員って風だなあ。さっぱりと清潔感ある佇まいに真面目そうな様子。そして眼鏡。うん。委員長だ。他の人達と比べると顔立ちは普通でちょっと地味っぽく感じるけど堂々としているしピッタリピッタリ。


「あ〜……う、うん。で?どしたのいーんちょー」

「あぁ、風紀は忙しいからな。吉里に、もし授業に出られなくてノートなど必要になった時は遠慮無く頼ってくれと言いに来たんだ」


ボケッと三人のやり取りを眺めていたらこちらに話を振られて驚きパチパチと瞬きをする。クラスメイトとはいえ知らない相手になんて親切な。流石委員長。
感動していると、葵君が納得したような声を上げて手を叩いた。


「あー、確かにノートはぼくらよりいーんちょーのがいいかも」

「お前のやたらカラフルで逆にわかりにくいもんな」

「む。そー言うさとしはじゅぎょーほぼ寝てばっかじゃん」


ははは、と怜司君が乾いた笑いを上げた。あぁ、うん。これは期待出来なさそうだ。


「えっと、じゃあ、よろしくお願いいたします」

「あぁ」


頭を下げれば満足そうに頷く藤澤君。ん?今ふと笑った顔が誰かに似ていたような……。
誰にだろうと記憶を辿ろうとしたがなかなか出てこない。そうしている内に藤澤君はスッキリした様子で片手を上げた。


「言いたかったのはそれだけだ」

「うん?それだけのために残ってたのか?」

「ちょっとでも口を挟めるような雰囲気では無かったからな」


チラリと視線を横に向けながらからかう口調で言う藤澤君に、見られた葵君がプクリと頬を膨らませた。不機嫌だけど申し訳ないという複雑な表情で不貞腐れた様子に吹き出せば他の二人も笑い出す。笑われた事に更に剥れた葵君がポカポカと殴り小さな小突き合いが始まったが、暫くすると一緒に笑っていた。



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