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うっそだー。昨日無警戒に喋らせまくった絹山先輩が言う事じゃないだろう。疑いの顔を隠しもせず見返せば先輩が苦い顔をした。


「たまに僕らの顔に見とれたり、事件と全然違う話しようとしたりすることがあるんだよね。逆にベラベラ吐いてくれたりもするけど」

「あ〜……」

「他の風紀メンバーも無駄に顔整っていたり体育会系的ノリ過ぎだったり考えぶっとんでるやついたりで聞き下手多くって多くって」


成る程。美形は長所にも短所にもなるという事か。目から鱗。
納得していると絹山先輩が手をひらめかせ困った顔のままコロコロ笑った。


「実を言うとね、小町くんを助けに入ったってとこよりもその後に小町くんのこと落ち着かせたり話を促しているところを見てお誘いかけたんだ」


先に言っておけば良かったな、と言う先輩の声を聞いてさっきのやり取りを思い出し、恥ずかしさで顔を伏せた。なんか自意識過剰みたいな感じっぽくて嫌だなぁもう。
熱くなった頬を押さえていると、先輩達が近付いてきた。


「そんな事だから、吉里が入ってくれると助かる」

「ごく普通の君が、必要です」


顔を上げれば真剣な顔が二つ並んでいて。そんな顔でそう言われてしまえば弱い。


「メリットはさっき言ったみたいな特典と秘密の保護。デメリットは……基本的に荒事に出しはしないけどちょっと危ないことと時期によっては忙しいこと。まぁ吉里くんは特待生だから極力勉強に支障が出ない程度に調整はするよ」


さぁどうする?
そう二人に訊ねられ、俯き考える。考えるけど、答えは決まっていた。


「……俺のような者でも役に立つのでしたら」


よろしくお願いいたします、と少し迷いながらもぎこちなく頭を下げた。上手く丸め込まれたような感じだけどそこまで言われたら頑張りたくもなるし、そろそろ対抗するのにも疲れてしまったし。
て言うか、ここに来てしまった時点でこうなることは恐らく決まっていたんだろうと思う。何を考えても言おうとも、結局自分達の都合の良いように転がしてしまっちゃうんじゃないかなぁこの二人。恐いわぁ。

喜ぶ先輩達の顔を見ながらやっぱりちょっと早まっただろうかと意識を飛ばし掛けていると、何かの紙に名前書かされたりちょこちょこ書類の確認とかされた。誓約書?みたいなのもあって、本当にただの委員会と違うんだなあと軽く胃が重くなった気がしたけど何とか耐えた。


「それでは吉里悠真を明日から風紀委員として任命する」

「……はい。よろしくお願いいたします」


これまたなんとも仰々しい。委員会に入るだけでここじゃそんな宣誓みたいな事やるのか。大変だ。たぶん違うけど。
うぅん、と胸中唸っていると、カタリと音が聞こえそちらを向く。


「よし、じゃあその旨を担任に伝えておく。これからよろしくな」

「あ、はい。お世話になります」


今までずっと静観していた先生の声に慌てて頭を下げる。静か過ぎて存在忘れ掛けていました。いや、それよりも前二人の威圧感が半端なくて周り見る余裕無かっただけだろうけど。
ちょっと申し訳無い気持ちで微笑む先生に笑い返していると、急に天蔵先輩が後ろを向いて誰かに話し掛けた。


「と、言う訳です。残念でしたね、伊織(いおり)さん」


何事かと先輩が振り返った先を見るとこれまた意識の外にいた壁際の先輩がガックリ肩を落とし、残念そうな顔でこちらを見ていた。


「あ〜あ〜……」

「……あの?」

「あ、あの人ね、保健委員長さん」

「保健委員長さん?」

「涼(りょう)くん。元、だよ。今はただの保健委員」


溜め息を吐いてそう言う元保健委員長さん。いやいや、なぜ保健委員が風紀室にいるんだ?意地悪そうに笑う天蔵先輩に呆れた顔で文句を言う保健委員さん、それをニヤニヤ見ている絹山先輩。仲は良いみたいだけどそれがここにいる理由にはならないし……。


「保健もお前を狙っていたんだとさ」

「へ?」


首を傾げて先輩達のやり取りを見ていると、先生が可笑しそうにしながらそう言う。どういう事だと疑問を深めていると保健委員さんがまた残念そうな顔になって話し出した。


「保健医の先生から昨日、君の消毒の手際がなかなかよかったと聞かされて、ぜひ保健に。って思ってたんだけど……」

「風紀の方が勧誘優先されるんだよね〜」

「途中口を挟んでやろうと思ってたのに二人とも全然隙見せてくんないし」

「見せる訳無いじゃないですか」

「またそういうこと言う……」


保健委員さんは呆れたように溜め息を吐いた後先輩二人の額をペシリと叩いた。


「後輩くんいじめてたりしたら問答無用で連れてくからね」


微妙な表情の天蔵先輩と舌を出す絹山先輩に腰に手を当てそう言った保健委員さんがクルリと回ってこちらを見る。ビックリした俺に保健委員さんは柔らかな笑みを浮かべた。


「お仕事がキツいと思ったらいつでもこっちに来ていいからね。待ってるよ」


またね。と保健委員さんはほんわりとした笑顔を残して風紀室を出ていく。風のような呆気なさに茫然とし、閉じた扉をパチパチ瞬きながら見ていると天蔵先輩が声を掛けてきた。


「吉里?どうかしたか」

「俺、モテモテだったんですね」


そんなに役に立つようには思えないんだけど。ポツリと呟いたらブッと後ろから吹き出す音が聞こえた。見れば絹山先輩が机に突っ伏して肩を震わせている。何事。
どうしたのかとオロオロしていると天蔵先輩が放っておいて良いと疲れたように言った。そうなのかと暫く見ていたがなかなか笑いが収まらない先輩にそろそろ心配になってきた所で先生から大丈夫だからと大量のお菓子を渡され寮へ帰された。


本当に、何だったんだろう。て言うか昨日からやたら色々あり過ぎてなんかもうよく分かんないんだけど俺、大丈夫なのかなぁ……。


今後の学校生活に連日で色々不安を抱く羽目になった俺は、部屋に着いた瞬間力が抜けたように柔らかいクッションへ勢い付けてダイブした。



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