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「まぁ別に揉み消したりとか力ずくな事しなくても風紀ってだけで抑止力になるし。なっといて損はないよ」

「そう、ですか」


また軽く言われた事に返事をするが何とも言えない気持ちになる。頭を抱えたくなったがどうにか気を取り直し顔を上げた。風紀についてだいたいの事は分かった。でも受けるにしても断るにしてもこれだけは聞いておかなくてはいけない。表情だけで答えを促してくる先輩達を一度乱れた姿勢を正してまっすぐ見返した。


「どうして俺に、そのようなお誘いをされたんですか?」


そう。なんで俺?絹山先輩の話からは仕事が学園内でかなり重要な物であり、葵君たちの話では人気があって憧れられているという風紀委員。そんな大変かつ大切らしい役職にどうして俺のような凡庸な人間を選ぼうとしているのか。


「昨日小町くん助けたときの話聞いてから委員長達と話し合ってね。入ってくれたらいいなって」


昨日の今日ですか。確かに目を付けられるならそこしかないだろう。けれど。


「確かに葵君を助ける為に飛び出しはしましたが実際に暴漢を倒したのは怜司君であって俺ではありません。俺は何もしていませんよ」


その話から選ぶなら普通怜司君の方じゃないか。上級生三人を一人で倒せるほど強いんだし。


「なんか立ち回りしてたって話じゃない?」

「威嚇した程度です。俺は、弱いですよ」


確かに剣道の段はそんなに高くなかったよね〜、と昨日の話を思い出して絹山先輩が言ったのに頷く。するとジッと黙って聞いていた天蔵先輩が口を開いた。


「弱い、と言うなら何故小町を助ける時上級生複数を相手にしようと思った?」

「人を呼びに行っては間に合わないと思ったからです」

「敵わないと分かっていただろう?それなのに何故出ていった」

「隙をついて一緒に逃げるつもりだったので」

「倒そうとは思わなかった、と」

「はい」

「木の棒を跳ね上げて構えていたが本当にケンカした事は無いのか?」

「……昔、従兄弟のチャンバラごっこに付き合っていて鍛えられたんです」

「それと出る時に帽子を被っていたのは?」

「……顔を覚えられて後から仕返しされないようにです」


つらつらと挙げられる質問に答える。その内容に違和感。


「……すみません先輩。……一体いつからご覧になっていたんですか?」

「お前が飛び出す直前辺り。だな」


欠片も悪びれた様子なくサラリと言われて脱力する。それ殆ど始めっからですよね。


「どうして直ぐ出て来てくださらなかったんですか?」

「出ようとしたらお前が先に飛び出していったんだ。止める間も無く、な」


危なくなったら直ぐ出る筈だったと笑顔で言われれば何も言い返せない。笑う先輩を見ていると怒りよりも諦勧の念が浮かんできた。まぁ、もう過ぎた事だし。大丈夫だったし。もう、良いか……。たぶんこの人達にツッコミは無駄だ。何を言おうときっと軽くいなされる。
一人黄昏ムードになる俺を放って、天蔵先輩は話を続けた。


「正義感があって自分の力の程を理解した上での判断力。そしてその後の事や自衛も考えた上で行動をしているという点」

「あと評定やカード以外の特典に対して興味なさそうだったこと。かな」

「はい?」


過大評価としか言えない言葉に恐縮する俺にまた意味の分からない事を言う先輩。首を傾げていると、絹山先輩がピンと人差し指を立てて微笑んだ。


「特別棟って生徒会とか学校の人気者がいるとこなんだよね。だからそんな人に会うためにそこに入ろうとする生徒が少なくないんだ。吉里くん、人気者とか美形な人とか、興味ないでしょ」


はい。全く興味ないですな。
頷けば嬉しそうに笑われた。人気者な人達に邪な考えで近付く可能性が無い、というのも風紀委員の条件らしい。風紀や生徒会が普通に決められないのはそういう理由もあるのか。取り締まる側が何かやっちゃったら意味無いしなぁ。顔が良いっていうのも大変だ。

そう言えばあの寮もそんな感じで変な気起こした人間が入らないように分けられているって昨日お説教の途中先輩が言っていた……気がする。途中ぼーっとしたりして所々聞き流していたから微妙だけど。


「で?どうかな?」


変な気ねぇ、よく分からんわ。等とまた思考が他所に向かい掛けていたのを絹山先輩に引き戻される。一瞬忘れていたけどこれ勧誘だった。


「えっと……そう、言っていただけるのは嬉しいのですが、……俺は風紀委員には向いていないと思います」

「何故だ?」


即返された疑問の声にちょっと怯みそうになるが理由を続ける。


「先程から申し上げているように力も強くありませんし、強くなくても相手を抑えられるような威圧感的なものも巧みな話術も持っておりません。……生徒を取り締まれるような能力は俺にはありません。ただの、普通の能力しかない俺に勤まるとは思えません」


ごく普通の委員会ならば問題無いが、学校を動かす重要な役職に過剰な期待寄せられて入るとか俺の胃がヤバい。物凄く過大評価されている気がして緊張するし、重大なヘマやらかして迷惑とか掛けたくないし。
そんな気持ちで見上げたのだが、絹山先輩はクスリと笑って口を開いた。


「ねぇ。吉里くんはさ、もし体が大きくて強い人に暴力振るわれたりとか怖い思いをさせられた後、事情徴収される時にその取り調べをする相手がこいつだったらどう思う?」


指差す絹山先輩につられ天蔵先輩を見る。
背は高くてがっちりした体型。格好良いけれどちょっぴり強面で強そうな感じの先輩。話せば優しい人だけど、それを知らないで怖い思いをした後直ぐに顔を合わせるのはちょっと……怖いかもしれない。葵君みたいな背の小さな人は特に萎縮してしまうかもなぁ。
考えが顔に出てしまったのか先輩達が苦笑した。……すみません、天蔵先輩。


「風紀の仕事は取り締まるだけでなく、関係者から話を聞き出して状況を素早く正しく判断しなければならない」

「早く話を聞くためには話しやすい人がいた方がスムーズにいくよね?取り締まりっていうより聞き出し担当として入ってもらいたいんだ」


それなら俺でも出来なくもないかもしれないがまだ釈然としない。聞き出す為の話術とか知らないし出来ないし。


「俺なんかより、先輩方の方が上手に聞き出せるのでは?」

「僕達はあまり話を聞くのに向かないんだよね」



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