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「ここね?自主性向上とか会社動かすのの予行演習だとか言って学校の運営とか行事とかっていうのほとんど生徒がやるようになってるんだよね」


突然の言葉に意味が分からず戸惑う俺に絹山先輩がゆっくりと説明し始める。


「運営の中心となる委員会はできるだけいい人材が欲しい。だから中等部や新入生からいい子を見付けたら早めに勧誘できるようになっているんだ」


特に生徒会と風紀委員は別格!と絹山先輩が人差し指を立てて強調する。変にテンションの高い様子に押されポカンとしていると、天蔵先輩が腕を組みながら口を開いた。


「生徒会と風紀は学校を動かす頭みたいなもんでな。適当なメンバーには出来ないという事で選挙や指名という形だけで決められる」

「各クラスから何人〜とかじゃないんだよね」

「そうなんですか」

「そんなわけで僕らは君に目を付けたってわけ」


そんな訳ってどういう訳なんでしょう……。そんな大変そうで責任重そうな委員会入りたくないんですけど。一応俺特待生だから勉強しなきゃだし。て言うかぶっちゃけ面倒臭そうだし。
どうにかやんわり断ろうと頭を巡らそうとしたのだが、その思考を遮るように話が続けられる。


「風紀は他の委員会と比べて危なかったり忙しかったりするから入ると特典とかあるよ」

「はぁ……特典、ですか?」

「うん」


ただの委員会活動に特典?何だそりゃ。余計に面倒そうな予感すげぇんですけど。笑顔な絹山先輩には悪いがどことなく胡散臭いから嫌な予感がアップしています。
断ろうという気持ちに完全にシフトして、結構だと告げようと口を開く。が、それより早く天蔵先輩が話を継いだ。


「先ず、特待の吉里には関係無いが寮は特別棟で一人部屋。この特別棟にも出入りが自由になる。あぁ、後仕事等で出られない時の為授業免除というのもある。きちんと補講や特製のテスト対策用プリントも貰えるから安心しろ」

「あと内申点も上がるよ。そしてこれが目玉!食堂や売店に自販機にその他お買い物が10%オフなカードが贈呈されます!」

「……っ!」


天蔵先輩の話のどこに旨味があるのだろうと適当に流していたが絹山先輩の話はちょっとグラッとするものがあった。食べ盛りなのに倹約中という身にはとてつもなく魅力的だ。思わず膝の上で握り拳を作ってしまったが何とか踏み止まる。上手い話には裏がある。通販番組的なノリに乗ってはいけない。


「っいや、あの、でも俺っ」

「あとねぇ〜」


何とか断ろうとした言葉に被さるようまた絹山先輩が言葉を重ねてくる。それに怯んで口をつぐむと、絹山先輩は勿体振った様子で目を細めた。


「吉里くんはさ、」

「……はい」


ずっとニコニコ笑っているけれど、今までと違って何か含みのある笑みを浮かべた絹山先輩。背筋を伝う嫌な汗につられるように背筋を伸ばした。来た時の不安で固まっていたのよりも緊張で体が強張る。ゴクリと唾を飲んだところで、絹山先輩が口を動かした。


「何か秘密にしておきたいこと、な〜い?」

「……無くはないですね」


微妙な動揺はたぶんバレているけれど出来得る限り普通に返す。別に、俺の個人の事でなく一般論として話しているのかもしれないし。秘密の無い人間なんていないのだから。


「実は風紀ってさ、問題起こすような子だったりしないか調査したり、実際に問題起きて取り締まる時のために生徒の個人情報細かく管理してんだよね」


見られるのは顧問と委員長、副委員長だけだけど。と言う絹山先輩のちょっと困ったような顔に、俺が何を隠したいかはバレバレという事を悟る。


「……それは、脅し、でしょうか」

「いや、そんな事はしない」


絹山先輩ばかりに集中していたので天蔵先輩がすかさず即答してきたのに肩が跳ねる。驚きにパチパチ瞬きを繰り返しながら天蔵先輩を見上げると、真剣な顔が向けられていた。


「生徒を脅して行動を強要するだとか、そういった事を取り締まる風紀がやってしまっては示しがつかないだろう?」


天蔵先輩の言葉に絹山先輩もうんうんと頷く。まぁ、確かになぁ。緊張はそのままに頷いて見せれば真剣な顔で話を続けられる。


「それに、嫌々引き入れて仕事をさせるような真似は絶対にしない」


一拍置いてから天蔵先輩がふと表情を和らげた。


「信頼関係を作った上で動いてもらいたいからな」


ニッと笑った先輩に漸く詰まっていた息が出る。嘘は無さそうだ。……たぶん裏はあるだろうけど。
そう考えて気は抜かないまま、ふっと力だけ抜いて天蔵先輩を見た。


「でしたら何故そのような話を?」

「この学校には新聞部というのがある」

「そこがこの学校のだいたいの情報を集めまくってんだよね」

「はぁ」

「んで、やっぱゴシップとか人の秘密とか調べんの大好きでさぁ」


生徒一人一人全部。とはいかなくても弱味は殆ど掴んでいて流したり隠したり売ったり色々やっているらしい。つまり、情報や噂を操るエキスパートみたいなもの。それで何をおっしゃりたいかというと。


「どこの部活もそうなんだけど部費の額を決めるのやら活動の申請に必要な印鑑なんかは生徒会とうちのが必要なんだよね」

「ついでに相手方の情報は俺等も握っている」


そんな訳で。


「都合が悪いのは出さないようにしたりできるぞ」

「揉み消すのも楽勝!」


爽やかに言う先輩達を呆然と見ながら、メディアリテラシーという言葉を思い出していた。学校は社会の縮図と言うけれど、この学校はたぶん特に強烈なんじゃなかろうか。



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