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「……え、何、友達に方言で喋り掛けてしもたて?」
(「……え、何、友達に方言で喋り掛けてしまったって?」)

『うん……。一人だけばってんが……。ごめん……』
(『うん……。一人だけだけど……。ごめん……』)


泣きそうな妹、優奈からの電話は何ともタイムリーな話。昼の荷物の件だと思っていたから尚更驚く。困った事があったら連絡するよう言ってはいたがいきなりそれがくるとは思わなかった。
中等部ではケータイの所持が禁止されている為寮の電話を使う妹の声は小さく潜められている上、半泣きなので少し聞き取り難い。ケータイをギュッと耳に押し付け後ろに擦り下がり壁に寄り掛かって話に集中する。

しかし、兄妹どちらも早々に秘密がバレてしまうとは……。妹がうっかり方言で喋ってしまったのは昨日で、今までどうしようとかなり狼狽えた末に電話してきたらしい。心配し掛けたけれどその友人も秘密を守ると言ってくれ、落ち込む妹を大丈夫だと励ましてくれるような良い人だったという報告に安心する。更には抜けている妹のフォローまでしてくれているとの事で。年下だが頭が下がる思いだ。……ぶっちゃけた話。何となく妹は直ぐにポロっとやってしまいそうな気がしていたのでそういう人に出会えて本当に良かったと思う。
ほっと息を吐いている間にも口早にあった事を捲し立てて何度も謝ってくる妹を宥めるが、なかなか落ち着いてくれない。


「なん、大丈夫だったんだけんそぎゃん謝るこつじゃなかろもん」
(「なに、大丈夫だったんだからそんなに謝るような事じゃないだろ」)

『ばってん、一緒にがんばろうねて約束したとに……』
(『でも、一緒にがんばろうねって約束したのに……』)


気落ちした声に、妙な所で真面目だからなぁと苦笑する。


「なら、俺も謝らにゃんたいね」
(「じゃあ、俺も謝らなきゃいけないな」)

『なんで?』

「おっもバレてしもたったい」
(「俺もバレてしまったんだよ」)

『……え!?』


明るくおどけた調子で言うと、今まで泣きそうだったのを忘れたように驚き慌てて話に食い付いてきた。


「先輩で、そうそう会うような人じゃなかごたっばってんね」
(「先輩で、そうそう会うような人じゃないみたいだけどね」)

『大丈夫と……?』
(『大丈夫なの…?』)

「うん。優奈の友達と同じ。良か人だったよ」
(「うん。優奈の友達と同じ。良い人だったよ」)


恐る恐るといった様子で心配してくる妹に秘密にしてもらえる事、一緒に食事した事等を話せばほうっという溜め息と共に良かったと溢された。クッションを背にゴロゴロ転がりながらやっと落ち着いた妹と近況を話し合う。


『そっか〜。……あ、ねえ、そん先輩のお名前はなんていいなはると?』
(『そっか〜。……あ、ねえ、その先輩のお名前はなんていうの?』)

「……あ」


あちゃー。また名前聞きそびれていた。なまじ『先輩』とか便利な呼称あると忘れるな。


『聞いとらんと?』
(『聞いてないの?』)

「ん〜……、忘れとった」
(「ん〜…、忘れてた」)

『……ふふっ。珍しゅう抜けとるね』
(『…ふふっ。珍しく抜けてるね』)

「うぅ〜ん……」


妹にだけは抜けているだとか言われたくなかった。けど真実だから仕方ない。ふうっと苦笑を漏らし口を開く。


「まぁ、縁があればまた会ゆっど」
(「まぁ、縁があればまた会えるだろ」)

『そうね。そん時はまたお話聞かせてね』

「優奈もな。何かあったらまた電話せにゃんばい」
(「優奈もな。何かあったらまた電話しなきゃいけないよ」)


『うん』


掛かってきた時と真逆の明るい声で電話を切った妹にほっと一息つく。自分も今日はハプニング続きで参っていたが妹の方も大変のようだ。従兄弟達によく似た者兄妹と言われているがこんな所は似なくて良いんだけどなぁ、と頭を掻く。
まぁでも、お互い良い人に出会え、楽しい学校生活を送れそうなのだから良しとしよう。……面倒事も多そうだけど。そういや妹の方の学校では変な習慣あったりするのか?あいつぼうっとしてんだけど大丈夫か?……いやいや、プラス思考でいこう。

潰れたクッションをバフリと叩いて綿を戻し立ち上がる。あんまり考え過ぎると心配しかしなさそうだ。今日はもう疲れたし、風呂に入ってから勉強は教科書読むだけにして寝てしまおう。大きな伸びと共に欠伸をし、今日一日の疲れを取る為浴室へ向かった。


「……もう、おかしかこつの起こらんとよかっばってんなあ…」
(「……もう、おかしな事が起きないと良いんだけどなあ…」)


タオルを出しながら思った事を呟いてみたが、たぶんまだ何かありそうだという予感に肩を落として項垂れた。



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