電話

パタンと閉じたドアを暫し見詰める。途端に静かになった部屋を振り返り思わず寂しいなぁ、と呟いた。ここへ来てから殆ど一人だったのに今日は一日誰かと一緒だったから尚の事この静けさが身に染みる。何となくそうしてポツンと一人突っ立っていたが、いい加減寒くなって奥に引っ込んだ。


片付け終わったテーブルの前に置いていた大きめのクッションに座ってからもふりと抱き付く。柔らかな感触に漸く人心地ついた所でふとポケットに入れていたケータイの存在を思い出した。取り出して電話帳から父の名前を探し通話ボタンを押す。数コールの後、久し振りに聞く声にほっと息を吐いた。体調を気遣う声色にじんわり暖かくなる。

入寮日以来の電話に母が拗ねているぞと言われクッションの飾り紐をクルクルと回しながら笑ってしまう。まず、両親共に仕事があった為に入学式へ参列出来なかった事を謝られた。後日ある中学入学な妹の方には絶対行ってほしくて有給はそっちに使うよう言ったのはこちらだから気にしないでほしい。それに何より今回の入学式は俺自身が参加していないので寧ろ来ていなくて助かった。……そんな事は言えないけれど。

拗ねているという母とも代わってもらい寮暮らしに慣れてきた事、友人が出来た事、良い先輩に出会えた事等を話す。何だかとても嬉しそうに喜ばれてしまい面映ゆくなった。妙に照れくさくて引き寄せたメモ紙に意味なくグルグルと線を引く。もう高校生なのだけれどそう喜ばれると嬉しいような恥ずかしいような微妙な気分だった。
しかし学校生活はどうかと聞かれ、ちょっと言葉に詰まる。どう言おうか考えたのは一瞬で、まだ慣れないけれど楽しいし頑張るよ、と適当に誤魔化した。その後暫く会話をしてまた電話をするようにと何度も念を押す母を宥めて電源ボタンを押す。そして大きく息を吸った。


「……は〜」


深く溜め息を吐いてボスリとクッションに倒れこみゴロリと横になる。無事……ではないけど入学式が終わった報告をするだけのつもりだったのにまた結構喋った。両親には普段もうちょいツンケンとした態度をとっていた気がするのだけれど電話越しだからかはたまたよっぽど寂しかったのか微妙に素直な応答をしていた自分がちょっときもいと身震い。
まぁ何にせよ寂しさは紛れた。……けど、母との会話で今日一日あった事を思い返し、げんなりと脱力する。


母に話したように確かに良い出会いがあったり楽しい事も沢山あった。しかしそれと同じくらい大変な思いをした。

朝から暴行現場を発見。立ち回りは無かったもののその後学園の説明で精神的ダメージ。風紀室で妙に気疲れした後止めにうっかり方言がバレた。


「……疲れた」


一日で何なのこの濃さは。て言うか学校生活初日からバレるだなんて。良い人だったから良かったものの……しっかりしなきゃ。
寂しさでちょっとブルーだったのに、追い討ちをかますような自分の迂闊さに落ち込む。グリグリとクッションに頭を埋めているとテーブル上に置いていたケータイから軽やかな電子音。

両親かそれともまた祖母かと思いながらディスプレイを確認すると予想外の文字。驚きながらも慌てて通話ボタンを押し耳に当てた。


「もしもし?」

「……にいちゃん」


数瞬の沈黙の後、弱々しい声が聞こえてきた。



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