先輩からの忠告

そんな訳でやって来ました晩飯タイム。

なんとか夕食の準備を終わらせ簡単に掃除をする。元々そんなに物は無いがまだ転がりっぱなしだった段ボールを潰して隠したりすればそれなりに時間を取られた。そろそろ時間か。そう思って時計を眺めていた時丁度鳴った呼鈴に返事をして玄関に向かった。


「いらっしゃいませ」

「あぁ、邪魔するよ」


スルリとドアから入ってきた先輩を快く招き入れる。来てくれた事を密かに喜んでいると、先輩はドアの前に立ったまま困ったように眉を下げた。


「好奇心に負けて来てしまったが迷惑じゃなかったか?」

「いいえ、本当に。一人分を作るのはここに来てからが初めてなんで毎回作り過ぎてしまうんです。寧ろ来ていただいて助かります」


実家では母は働いているし、祖母は足が悪いしという事で俺と妹が一緒に、または交代で家事をしていた。いつも最低6人分必要な我が家では少人数分の料理を作る機会が無く、気を付けていても作り過ぎてしまう。だからといって誰かにお裾分けしようにも他の寮生の部屋はちょっと離れている為尻込みしてしまっていて。

集団生活送るには御近所付き合いもしっかりするように、と祖父に言い聞かせられてきたが俺等特待枠の寮は一般生徒の物と違い住人数が少なく廊下でも滅多に会わない。荷物解きや手続きに時間を取られた事もあり友人らしい友人は本当に今日初めて出来たのだ。
他の寮棟からも同棟の生徒からも隔絶されたような場所。それぞれの勉強や仕事に集中する為なのだから仕方ないとはいえちょっと寂しかった。なので。


「何よりお部屋に誰かをご招待出来たのが嬉しくてワクワクしています」


つい緩んでしまう頬を軽く叩いてリビングへ足取り軽く進む。後ろからクスクス笑う気配を感じながら満たされた気分を味わった。

そうして、準備していたテーブルに味噌汁や副菜のお浸し、祖母手製の漬物、そして親子丼を並べる。親子丼だけのつもりだったがお客さんもいるからと少し増やした。時間が少ない中自分では結構頑張った方なのだがこれで大丈夫だろうか。しょぼくなかろうか。

ハラハラしながら反応を待てば先輩は少し驚いた後こんなに作れるなんて凄いな、なんて言う。それにほっとして、また緩んでしまった頬をそのままに席に着くよう促した。


「お疲れ様でした」

「ん?」

「大仕事があって、今日まで大変でいらしたんでしょう?」

「あ、あぁ……」


向い合わせで座りいただきます、と言う前にそう言葉を掛ける。食事の時間が取れない程大変だった仕事が終わったというのなら、俺は全然関係ないけど乾杯でもしようかと思って。けれどどうにも先輩の反応が鈍い。


「?どうかされましたか?」

「いや……」


首を傾げて尋ねれば先輩は少し言い淀んだ後苦笑して口を開いた。


「労いの言葉を掛けられたのは久し振りでな」

「そうなんですか」


驚いた。仕事を頑張ってやり終えたのなら相応の言葉を掛けられるものではないだろうか。文化祭終わりとか先生が差し入れだー、とか言ってジュース奢ってくれたりしたなぁ。そういやそんな大仕事終わったんなら打ち上げみたいなのとか無いのだろうか。いや、無いから来ているんだろうけど。高校生にもなったらそんなのは無くなってしまう物なのか。でも父も大きな仕事終わりにはよく飲み会あってたけどなぁ。
つらつらとそんなことを考えて首を傾げる。何にせよそれじゃ終わった気がしなくて疲れっぱなしになるよなぁ、うん。
頷いて、少し疲れているように見える先輩の顔を見る。そして飲み掛けのグラスにお茶を注ぎ足した。


「じゃあ先輩。お仕事お疲れ様でした。今日はお仕事を忘れてのんびりしていってください」

「……ありがとう」


ふっ、と先輩が穏やかな笑みを浮かべた。うぅん、さっきと違って今度は大人っぽい。
本当に格好好い人だな、とついマジマジと見詰め、いえいえと返しながらグラスを軽く掲げた。



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