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それにしても少しくらいからかわれたり嫌味を言われたりするんじゃないかと考えてしまった自分が恥ずかしい。葵君や怜司君みたいに信用できそうな人もいると思ってはいても他の人達が話すプライドの高そうな喋り方を聞いていると萎縮してしまって。金持ちの前で弱みは見せられないと気を張り見た人殆どを疑って掛かっていたが、それを出会う人全てに当て嵌めてたんじゃあんまりにも失礼だ。いや、でもやっぱ自衛の為には必要だよな?この人も肯定してくれているし。
グルグルと思考に嵌まり掛けたが、ふと先輩の発言に引っ掛かりを覚え顔を上げた。
「お仕事が増えるという事は、ひょっとして風紀委員をされているんですか?」
「……俺の事を知らないのか?」
「え?」
有名な人なのだろうか。そういえばここお坊ちゃん校だし、有名企業の息子さんとかなのかも。それに凄く格好良い人だから噂の的になったりしている可能性もある。
「あ〜……えっと、俺は今年から入ってきた一般の外部生なのであまりここの方に詳しくなくて……すみません。存じ上げません……」
「……入学式は出ていないのか?」
「はい。ちょっとトラブルに合ってしまって」
サボりではないんですよ、と先刻見た風紀委員長の笑顔を振り払いながら弁明する。挙動不審な返答にもそうか、と深く聞いてこない様子にほっとして向き直れば顎に手を当てこちらを見ながら考える仕草を取られた。
「外部生、としても俺を見て何か思う所があったりはないか?」
「思う所……ですか?」
改めて前に立つ先輩を見上げ見る。首を捻ってううんと考えるが、思う所って、なんだ?第一印象とか?だったら。
「真っ黒ですね」
「……は?」
顔立ちも良いが、何よりも真っ先に目を引いたのは艶やかな髪と深い瞳。日本人って基本褐色だから多少茶色っぽかったりするのに、髪も目も日に透けても尚真っ黒で凄い。肌の白さも相まって黒さが際立ってうっとりするくらい綺麗に見える。
古典で出てきた濡羽色ってこんななのかな、と。思ったんだけど。ポカンとこちらを見てくる顔に、今のは珍妙な返答だったと気付く。第一印象黒いって何だ。
「黒いって……。それだけか?」
「あー……すみません変な事言って。えっと、……あっ、じゃあ男前、さん。です、ね?」
これなら変じゃないだろう。しかしご機嫌取りみたいになったか。いや、ここじゃ普通なのか?美形の基準がやっぱり分からない。
首を傾げながら他に形容出来る言葉があるか先輩の顔や体を見回し考えるが、そもそも質問の意図が分からない事に思い至る。だったら何を言えば良いのか聞いてみるか、と目を合わせようとしたのだが。
「……ふっ」
「ん?」
「っく、はははっ」
あ、笑えばちゃんと高校生の年相応な雰囲気だ。
じゃなくて。俺、笑われてら。
「悪い……くくっ」
「いえ……変な回答だったのは自覚してるんで……」
「ふっ、そうか。っはは」
涙目で大笑いされれば憤りすら起きない。どう答えれば良かったのか一応聞いてみたがもう良いと返され、結局何を聞きたかったのか分からず終いになってしまった。空しく、悲しい気持ちが込み上げる。自分が悪いのだとちゃんと分かってはいても笑われるとちょっと傷付く。
いじけた気分でまだ若干笑いを引き摺る先輩の様子を見ていると、何か忘れているような気がして視線を足下へ落とした。
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