其々の考える事

カンカンと日の照りつけるお昼休みの中庭。もう朝と放課後以外で風紀室に詰める事は無くなったしこんな季節に外で食べる事は流石にしないけれど、庭が見える場所での昼飯というのが三人での習慣で。学習用の空き教室で椅子を窓辺に並べていつものように手を合わせようとしたのだけれど。


「…………」

「……あの」

「………………」

「……葵君?」


膝の上にガッシリ跨がった葵君が丸く澄んだ瞳でジイッとこちらの顔を凝視してくる。眉間に力を込め何かを探るような表情だが何を考えているのかは問うても唸りしか返されない。前も似たような事はあったけれどここまで離されないのは初めてだ。
登校後、教室についてから授業以外はずっとこの調子だ。よく分からないけれど何だか凄く真剣な顔で見てくるので止めさせ難いまま半日過ぎてしまったけど、どうしよう。

昨日の事について質問攻めにあうのかと思っていたのに何も聞かず。こちらから先輩とは何も無いよ、と話すとそれは分かったと返される。怜司君が言ってくれていた通り説明はして、聞き入れてはくれたみたいなんだけど……だったら、この状況は本当に何なのだろうか。困って傍らに座る怜司君に助けを求めても肩を竦められるばかり。早く飯も食べないと休み時間が終わってしまうという焦りも言い出せないまま身動ぐと、パチリと睫毛を合わせた葵君が漸く口を開いた。


「ゆーま」

「うん?何?」

「ぼくのことすき?」

「へ?う、うん」

「せんぱいは?」

「、葵君達と、同じ感じで好き、だよ」


昨日の怜司君へ送った答えと同じものを返す。そう言ったでしょう、と苦笑も滲ませて言うと、葵君は益々難しい顔で唸り首を思いっきり傾げた。何だと見詰める先で、葵君は怜司君の方を見て逆に首を倒す。


「……わかんない」

「んー、そっかー」

「?何が?」

「うーん……何だろな」


いやだからさ。何で俺に聞き返すの。
怜司君まで真剣な顔で首を傾げるのだから意味が分からない。葵君の行動から怜司君が何か言った事でこの状況になったっぽいのに。
キョトンとする怜司君をジトリと恨みがましい目で見詰めていると、またもう一度名前を呼ばれて視線を戻した。


「ねぇゆーま」

「うん」

「……せんぱいのことって、まだ何も教えたくない?」

「え、…………っと。教えたくない訳じゃない、けど。何て言うか……えー」


唐突だけど、突拍子な訳では無いその問いに視線をさ迷わせ意味の無い声を長く伸ばす。何と答えれば良い?教えたくないんじゃなくて言い難いのだと言う理由は、あまり変わりない答えだ。
必死に頭を巡らせながらあーだのそのだの口をまごつかせる。その間葵君は黙ったままジッと見詰めてきて、視線で余計に頭が回らない。進まない会話に焦る中、そんな俺等を傍観していた怜司君が不思議そうに口を開いた。


「教えたくないんじゃないなら、どーして教えてくんないんだ?」

「う、……えっと」

「相手が親衛隊持ちだから?」


怜司君の続けざまな問いにぐ、と言葉を詰まらす。ここまで答えを濁し続けていたのだからそれがバレているのは分かっていてもハッキリ指摘されると返す言葉が無い。肯定でしかないリアクションをとる俺に、葵は悲しそうに眉を下げた。


「ぼくが親衛隊の隊員やってるから言ーにくいの?」

「っそれも、ある、けど」


親衛隊が、誰かが対象に近付くのを良しとしないというのはよく分かっている。制裁とかは抜きにしても他の人を出し抜いて人気者と仲良くなるというのが嫌がられるのも何となく分かる。しかも葵君はただの親衛隊ではなく、『生徒会長』の親衛隊なのだ。それは確かに言い難い理由の一番である。伝えたとして、どう思われるか。皆瀬君の時以上に裏切られたと思われるんじゃないかと怖い。


「……確かに、親衛たいしょーの方に近づいちゃったのはよくないよ。でもそれならそれでそーだんはしてほしい、よ」

「っ、や、何かもう俺も、いっそ最初に言っておけば良かったかもな、と思うくらいなんだけどね」

「だったらどーしてゆわなかったの」


黙っていればいる程言い出し辛い。例え怒らせてしまっても、もっと早くに言っておけばまだ傷は浅く済んだんじゃないかと思う事はあった。それでも言い出せなかったのは。


「時期が来たらもう会えなくなるんだから、その後笑い話みたいにしようか、なんて思ってて。……最初はここまで長くいられるなんて思ってなかった、から」

「……それどういうこと?時期ってなぁに。一緒にいたいならずっといれば……っ」

「……うん」


ちょっと怒った声で葵君が言い募る。そうなんだけどね、と取り繕うよう笑い返すけど、顰めてしまった眉は解れずに下がっただけ。
ちょっとだけのつもりだった。それなら許されると思っていた。
ずっとというのが無理だっていうのは、葵君にも分かったんだろう。下手くそな笑顔をする俺を見詰めた葵君はクシャリと苦しそうな顔をして飛び付いてきた。


「……せんぱいのこと。ぜんぶは話さなくてもいーけど。何かあるんなら、ちゃんと教えて。絶対だよ」

「……うん」


ギュッと抱き付いた葵君が胸元でそう言ってくる。それにお礼を言って背中を撫でればより強く抱き締められた。


「つってもお前スグりょこー行くじゃん」

「!……っ、お電話あるし!くれたらすぐ飛んで帰るからっ。ちゃんとしなきゃだめだからねっ!」

「う、うん」


ハッと目を見開いた葵君が体を離して叫んだ。突然の事に目を白黒させながらも頷くと、約束、と絡めた指をブンブンと振られる。
そうして、いい加減メシくおーぜ、という怜司君の暢気な声に漸く葵君が膝から降りた。


「そーいやきのーは大丈夫だったのかよ。苦手な先輩くるって話だったろ」

「あー、うん。なんか来られなかったの」

「そうなの?良かったね」

「うんっ。いつも絶対終わりにすごーくながーいお話聞かされるからヤなんだよね……」


パリッとサンドウィッチを開けた葵君が渋い顔でボヤくのをぼんやりと聞く。普段通りの声色を努めて出してくれているのに何となく気付き、有り難さと申し訳無さを感じた。そんな風に思いながらも気持ちは次第にどこか遠く、霧掛かる。
葵君達の声も遠くなり、嫌だな、と瞬いた時。クンと袖を引っ張られた。


「あ。そうそう後ね、今日も隊長さま風紀の人たちのことほめてたよ。すごいねぇ」

「う、うん。そうなんだ?」


隊、……万里さん、何やってんだろう。
話を振られて沈みかけた思考が戻る。明るい声でゆーま頑張ってるもんね、と純粋に嬉しそうな笑顔で言われて、ほっと息を吐き出した。いけないいけない。ぼうっとしてどうする。
そう自分を叱責して、つい他所に飛びそうになる意識を二人の会話に留めながら箸をかじった。



[ 176/180 ]

[] []
[しおり]




あんたがたどこさ
一章 二章 三章 番外 番外2
top




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -