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「つうか悠真は先輩と付き合ってんじゃないのか?」

「は?」

「えー?なになに〜?」

「なにそれマジぃ〜?って先輩ってダレ?」


これまたクラスメイト以上にとんでもない爆弾を落とした怜司君へ言葉を無くす。そうして固まっている俺の耳に、震えた声が届いた。


「……あのときの、ぼくにまだ言ってないナイショってまさか……」

「え?やっ、違う違う!」

「お。修羅場?修羅場?」

「これは詳しく聞かなきゃねー」


口に手を当て呆然と呟いた葵君に必死になって否定をするがクラスメイトが囃し立てるせいで説得がきかない。何だ。今日は何なんだ。どうにもならない状態に感情のやり場が無く、少し大きく声を荒げた。


「違うって!っ、怜司君も急に何言ってんの!」

「え〜?だってなぁ」

「だってじゃないですっ」

「あ」

「え?……あ」


ニンマリ笑ったクラスメイトが手を伸ばし俺の頬を引っ張る。どこまでもマイペースな態度に気持ちのぶつけようもなく、よりムスッとした顔で睨んでいると、教室の入り口から小町!と高い声が掛かった。


「小町ー、そろそろ行くよ〜」

「ヤだ!お話聞いてからじゃなきゃいかないっ」

「でも……今日はあの人が……」

「う……」


中に入ってきた、確か同じ親衛隊の人に困った声色で言われ葵君が口籠る。でも、だって、と俯き呟いていたが、終いにもー!と声を上げビシッと俺に人差し指を突き付けた。


「あした!ちゃんと聞かせてもらうからねっ」


言ってピョイっと膝から降り、鞄を持って親衛隊の人と一緒に出口へ向かう。出る前にもう一度絶対だからね!と念を押して眉を寄せたまま手を振って出ていった。


「で。先輩って?」

「……あ。俺ももう行かなきゃなんないんで」


嵐が去り肩の力が抜けた頃。改めて差し向けられた問いを流してサカサカと道具を片付けそれじゃあ、と席を立つ。文句を言われるがこれ以上相手をしていられない。さぁ逃げようと小走りで教室を出る最中、俺も、と横に並んだ怜司君を見上げて、肘で脇腹を小突いた。











「なんか、ごめんな。適当なコトゆって」

「うぅん。……でも何で急にあんな事言ったの?」

「んー。最近、そうなったんだろーって思ったから」

「いや……だから何で」

「…………何となく?」


涼しい建物から出て直ぐの湿りを帯びた熱風に煽られながら歩く道すがら。手刀を顔の前に翳しながら申し訳無さそうに謝ってきた怜司君を見上げ、えぇ?とぼやく。俺の反応に罰が悪そうに頬を掻いた怜司君は唸りながら空を仰いだ。


「えーっとー。毎日部屋行って、ダベってメシくって。悩み話したりカゼ引いたら看病してくれて。なんかあったら助けてくれる、癒し系な先輩ってゆってたか。んでー…………?」


指折り数えていた声が止まり、首が大きく傾ぐ。手を見下ろして、また空を見上げて。そしてうーんと眉を顰めて黙り込んだ。そんな怜司君に溜め息を吐き苦笑して話し掛ける。


「確かに親しいとは思うし、お世話になったりもしてるよ?でもそれで付き合ってっていうのは、可笑しくない?」

「んー。そーだよな。オレらみたいに友達とでもあるしな。でもなぁ……なんだろな?」


俺が聞いてんだけど。
下唇を突き出しジトッと見詰める。すると怜司君は難しそうな顔をして腕を組んだ。


「兎に角な。悠真はその先輩が好きなんだよな」

「うえ?あ……う、うん」

「で、その先輩も悠真を好きだろ?」

「へぇ!?や、え?た、たぶん……嫌いじゃないとは言われ、た、けど」

「お互い好き同士で、毎日会ってて。ってーなら付き合ってるのと一緒じゃね?」


な!と晴れやかな表情をポカンと見上げる。ややあって強張りの解れと共に思考が巡るようになってから、落ち着いた頭で言葉を返した。


「……その理論だと怜司君と葵君とも付き合ってる事になるけど」

「おぉ?……マジだ」


目をパチクリと瞬かせた怜司君が驚愕した顔で俺を見返した。そんな表情に思わず脱力して笑う。


「ね?怜司君達とおんなじで先輩とだってそんな感じじゃないって」

「そうかー?」

「そーだよ。……全く。皆して何なんだよ。そんなに俺に彼氏作らせたいの?」

「や。そーじゃなくてな。……なんつーかなぁ」


口をへの字にした怜司君が顎を掻きながら唸る。歯切れ悪く何か詰まったように悩む姿に困惑し言葉を待つと、怜司君は眉を顰めたままこちらを見た。


「うーんとなぁ。とりあえず今。ちょっと考えてみてどうだ?先輩のコト、そーゆー風に考えたりしねぇ?」

「いやだから俺は、……」


ぶり返される問いにウンザリとしながら口を開いて。でも直ぐに答えが発せず唇を閉じる。そして一度瞼も閉じ、苦笑しながら怜司君を見返した。


「先輩の事は、好きだよ。けどこの前怜司君達に言ったのと同じ意味。勘繰られるみたいな事は、何にも無いよ」

「……そっか」


大きく目を見張ってパチパチと瞬きをした怜司君が、一瞬悩むよう片眉を上げる。何だと見上げる先で、うん、と溜め息を吐きながら頷いた怜司君は伸ばした手をポンと頭に乗せてきた。


「そうだな。オレの気のせいだわ。マジでごめん」

「……ん。うん、大丈夫だよ。でも急にあぁいうの止めてよね。ビックリしたよ」

「うん。後、あーゆーのは教室で言うコトじゃなかったな。それもごめん。葵と、アイツらにもちゃんと違うってゆっとくから」

「あはは。良いよ。あー、でもそれはお願いしようかな」

「おー。まぁ葵はともかく、あの二人はなかなかすぐは諦めねぇだろうけどな。オレと葵のコトも前はあぁやって聞きまくってたんだぜ?」

「そうなの?」


嫌そうに頷いて文句を言う怜司君に笑いながら雑談をして歩く。否定しても訳知り顔で信じなかっただとか、最近言われなくなったのは標的代わっただけかと言われて今度は俺が嫌な顔をしてしまったり。そうして歩いて、部活仲間に呼ばれた怜司君へ大きく手を振って別れる。そうして一息吐いて、目の前の特別棟を仰ぎ見た。


「…………」


いつの間にか胸元を握り締めていた手を下ろす。何でもない。何ともない。大丈夫大丈夫。
無意味に前向きな言葉を頭の中に数度諳じて、固い砂落としを蹴る音を耳に扉を潜った。



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