凝りのかたまり

いつからだっただろう。もうどれくらい経つのか。始まりは曖昧だけれどもたぶん最近。たまに、ふとした瞬間に。胸の奥にシコリのようなものを感じる。





返ってきた答案を手に一息吐く。試験期間中は余所事に気を取られあまり勉強に身が入らなかったが勉強会で教えていた事が結構出ていた為そんなに困る程の問題は無かった。その手応え通りの結果に肩の力を抜く。

安心しながら結果を手にやって来た葵君と一緒に、前の席に座るクラスメイト達とも世間話。試験の結果に一喜一憂。そして目前の夏休みの計画に和気藹々と話が弾む。ホームルームも終わった和やかな時間になんだか平和だなぁ、とのんびりとした気分でいると、そういえば、とクラスメイトがペンを差し向けた。


「ずっと気になってたんだけどね。あれなの?吉里って東雲と付き合ってるの?」

「え!?」

「え、全然。何でそんな話が出るん……っ、出る、の」

「んー、ギリギリ?」

「……セーフ!」


手を水平に広げたクラスメイトを見上げほっと息を吐く。葵君達にはすんなりタメ口できたのにクラスメイトが相手だとまだ少し緊張してしまうようだ。気を付けないと……じゃなくて。


「何で東雲君と俺が付き合ってるって話が出てくるの?」


膝の上で、本当に違うの?と目で訴える葵君の頭を撫でながら訊ねると、クラスメイトは腕組をしながらうぅん、と首を捻った。


「何となく?」

「ちっちゃい奴らがたまにそんな話してはムスってしてたからよ」

「ね」


俺の態度から本当に違うようだと納得してくれたクラスメイトがツマンないのー、と口を尖らせる。ちっちゃい人達、というのが気に掛かるが取り敢えずホッとした。
葵君も気が緩んだ様子でそうだよね、と座り直す。何だ何だ、と別のクラスメイトと喋っていた怜司君までやってきたので軽く状況を話し、眉を下げた。


「まぁ、ちょくちょく間違えられてはいるんだよね。いつも一緒にいるからだろうけど」

「そーなの?」

「うん。この前のお泊まり会行く前にも、買い物付き合ってもらってたら店員さんに言われたからね」

「マジでー?」


笑う怜司君に肩を竦め、そして溜め息を吐きながらクラスメイトへ視線を戻した。


「兎に角。和彦君とは何にもないよ」

「なーんだぁー」

「じゃあ誰と付き合ってんだ?」


思わぬ返しが一瞬理解できずに瞬く。そうしてポカンと口を開けて呆けてしまったが、見上げる葵君の視線と吹き出した怜司君の反応にハッと気を取り直して掌をクラスメイトに向けた。


「待って。何で誰かと付き合ってるって前提になってるの?」

「何と無く彼氏いそうな気がするから」


とんでもない答えにはあ?と声を上げる。何だそれ。どうしてだよ。そんな意味が籠った声だったと思うのにクラスメイトは気にしない顔で答えを催促するし、怜司君に至っては腹を抱えて笑っている。何なんだ。この前の従妹に続いてクラスメイトまで。彼氏って、何だよ。
眉を顰めて口をへの字に曲げてみせても尚問いは続けられた。


「で?誰?彼氏」

「いないって……。て言うか聞くなら彼女じゃないの?」

「いるの?」


素早い返しに思わずぐっ、と押し黙る。いやまぁ、いないけどさ。
苦い気持ちに不貞腐れた顔をクラスメイトへ向けると、プッと吹き出して笑われた。


「あはは。ごめんごめん。でもまぁ外部生だもんな。先ずは彼女だったよな。彼氏とか考え付かないか〜」

「でもね〜、いそうに見えるんだよな〜。小町や清崎とベッタリだけど……二人とは何もなさそう」

「どーゆー意味」

「そのまんまの意味〜」


一人はコロコロと。もう一人はニヤリと笑って葵君を見下ろした。まぁな、と何故か誇らしげな怜司君と対照的に葵君は嬉しいけど、と言いつつ不満そうに頬を膨らませる。そうしながら、でも何で?と小首を傾げる体を抱え直し俺も疑問にうぅん、と唸った。
言われているようにこの二人との方が和彦君とよりもよくくっついたりしているに、こっちは無いと言われるのがよく分からない。クラスメイト達の付き合っていると判断する基準は何なんだ。て言うか、いそうっていうのもどこから考えられたんだ。
何故そう思うのか。思い付くまま問いをぶつけても勘だの何だののらりくらりとかわされる。その様子に、ただからかう為のネタだったのかと思い至って脱力した。
もうこの二人の話はあまり真剣に受け取り過ぎないようにしよう。そう心に決めながら半目で見返すと、笑いを引っ込めた一人がマジマジと俺の顔を見詰めて口を開いた。


「んー、でもね。ここ来て結構経つじゃん?少しくらい意識変わったりしないの?」

「意識?」

「ん。ざっくりゆーと、好きな人できたりしない?」

「し、」


ない、と言おうとした口が一瞬固まる。ヤバイと直ぐ言い直そうとしたのだけれど、その小さな間にクラスメイトの目が輝いた。


「おぉ?なに?いるの?」

「え、えっ!?そーなのっ」

「や、ちが、違うよっ」


驚愕の顔を浮かべた葵君が胸元を引っ張る手を抑え、慌てて首を横に振りまくる。嘘だろマジでしょ、とテンションの高いクラスメイトは一先ず置いて葵君を落ち着かせねば。


「……この前の仲直りの時、葵君達と好きとか色々言い合ったでしょ?それ思い出して、ちょっと恥ずかしくなっただけだよ」

「え?それ?はずかしいの?」

「何の話?」


耳元でこそこそと告げる内緒話に興奮気味のクラスメイトが身を乗り出して聞こうと息巻き出す。これは秘密の話だとソッポを向くと、眉を寄せていた葵君が途端に機嫌良く同意してクラスメイトに対応しだした。
微妙に話が逸れた事にこっそり息を吐く。そうして落ち着いてみると意識が周囲にも向き、他のクラスメイトの視線が集まっている事に気付いて非常に居心地が悪くなった。
目が合った相手へ曖昧に笑って誤魔化していると、不思議そうな顔でジッと話を聞いていた怜司君が首を傾げて口を開いた。



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