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「よしよし、話は纏まったようだね」

「あ、すみません!脱線させてしまって」

「いや、きっかけは僕だったからね。むしろ謝るのは僕かな?」


ニコニコと笑いながらこちらを見ていた絹山先輩に慌てて謝る。青春だねぇなんて言われ、何だか恥ずかしい。


「仲が良いのは良いことだよ。でも、話に入れなくて寂しかったから、僕も話に混ぜてもらっていいかな?」

「はい」

「どんどんどうぞ!」


小町君、じゃなくて葵君が息巻いて承諾する。ちょっと恐い。隣の怜司君呆れているし。絹山先輩もちょっと苦笑してからありがとうと言ってまた和やかなお茶会が始まった。


好きなお菓子やお茶の銘柄、其々の趣味なんかを話しているとふと思い付いた顔で先輩が俺を見る。


「そう言えば吉里君、外部生だよね。ここの学園、かなり特殊だけど大丈夫そう?」

「そう、ですね。お話を聞いて驚きはしましたが、慣れていこうと思います」

「じゃあ、男の子と付き合ってみたりする?」

「えっ?いや、それはちょっと、……分かんないです」


やや引き攣った声で答えると、からかってごめんね?と笑って言われた。からかわれたのか、今の。それにしてはなんかあっさりし過ぎているような。


「さっき清崎君が言ってたけど、特待生ってことは頭いいんだ?」

「いえ、それ程では。……ここはレベルが他より高いので不安ですね」

「ははっ、そう心配する程でもないよ。小町君たちは来週の課題テスト大丈夫そう?」

「うっ……」

「が、頑張ります」


言い淀んでいたら直ぐに違う話に変わった。微妙な顔をしてしまった俺に気を使ってくれたのだろうか。……違う気がする。


「みんな何か入りたい部活とか決まってたりする?清崎君は中学でバスケすごかったらしいね。また入るの?」

「はい、そのつもりです」

「ぼくは親衛隊にはいってるんで」

「……俺はまだ決めていません」

「そっかそっか〜」


……何だろう。何と無く、違和感。
普通の世間話な筈なのに、何か情報を引き摺り出されている様な品定めされている様な、そんな気分。別に聞かれて困る事では無いがそう思うとニコニコ笑顔がなんだか怖くなってきた。


「……あまり長居をし過ぎるのもなんですし、そろそろお暇させていただきましょうか」

「そう?別にいいんだけど……あぁ、もうこんな時間かぁ。ごめんね?こんな遅くまで付き合わせちゃって」

「とんでもないです!お茶もおかしもおいしかったです。ごちそうさまでした!」

「こっちこそ長々すみません。失礼しました」

「いえいえ。また変な人に絡まれない様、気を付けて帰るんですよ〜」


にこやかに手を振る先輩にお礼を言って退室する。パタン、と扉が閉まって脱力。つ、疲れた。
怜司君に絹山先輩って素敵な人だねぇ、とキャッキャと話す葵君には悪いがどうにも自分は恐いと感じてしまった。まぁ、もう関わる事は無いだろう。ていうか関わらないようにしよう。忙しいらしいし、風紀っていうからには違反でもしなければきっと大丈夫。それに美形さんだったし。美形には関わるなって言われてるし。
……結局どれくらいのレベルから関わっちゃいけない美形なんだろう。……うん。葵君がキャーキャー言っているから、きっと関わっちゃいけない方だという事にしとこう。なんかもう、この学園にいるだけで一般と価値観ずれまくりそうで怖い。

ジワジワ思考がずれてきた所で葵君達の話に加わえられる。入学初日からこんなに疲れるとは思わなかった。明日は休みだし今日はもう帰ったら飯食って寝よう。

そうしてワイワイと話す二人の話に意識を移す内に、感じたモヤッする不審さを忘れていった。



――――



三人が退室した後の風紀室。穏やかな日差しの中カップを傾ける風紀副委員長が一人。
そして、


「どうだった?」

「うん、いい子達だったね。本当に」


いつの間に戻ってきたのかその正面に掛けてゆったりと足を組む風紀委員長。手にしていた書類を机に放りソファへ体を沈める彼の顔には何やら企みの色。問われた副委員長は放られた何も書かれていない紙っきれをニコニコ見ながらさっき出て行った後輩達の姿を思い出し、感想を一つ。そして表情を引き締め一度大きく深呼吸したかと思うと、


「敬語平凡受けかな!見た目も雰囲気も好みな感じの子がキタね!他によさ気な子もいなくもないけどありゃいいね!外部生でまだ何も知らない感じで!気さくスポーツマン攻めで!とも思ったけどチワワ系元気っ子の方もなかなかかわいか……」

「絹山?」


爽やかな笑顔と声で委員長が副委員長のマシンガントークを遮った。口を開いたまま固まった副委員長が視線をそちらに向ける。副委員長は向けられた笑顔に眉を下げ、上げていた拳もノロノロと下ろした。


「……わかってますよー」

「なら良いんだが」

「ちっ、腹黒め」

「あ?」

「いえいえ」


不貞腐れながらも落ち着きを取り戻した副委員長は冷め気味の紅茶を飲み干し今度こそ真剣な顔で委員長と対峙する。


「それで?」

「僕もいいと思ったよ。顔に少し出やすいとこあるけどカンも悪くないみたいだったし」

「ああ」


満足そうに頷いた委員長へ、ふふっと副委員長が笑う。


「なんか隠してるみたいだけど」

「何かは想像付くがな」


傍らに置いていたファイルを持ち上げ委員長も笑う。笑い合っている筈なのに春の日差しとは真逆の薄ら寒さを感じる風紀室。そこへタイミング悪く戻ってきてしまった風紀委員の生徒達は引き攣った顔を逸らして各々の仕事へ手を付けた。――性質の悪い人達に目を付けられた生徒に憐れみを感じながら。



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