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ハッキリ突き付けられた言葉と視線は葵君に向けられている。でもそれを受け取るべきなのは俺で。変な空気を打破しようとしてくれたのかと眉を寄せる怜司君を見上げる。感動しつつ、無駄にしないようにと躊躇いを振り切ろうと気合いを入れる。と、藤澤君がふむ、と頷いた。


「それもそうだ。良くやったな」

「っ悠真!イーンチョーにほめられた!」

「……あ、はは。うん、良かったねぇ」


パアッと凄く嬉しそうな輝く笑顔で振り向かれ、思わず脱力して返す。ちょっと格好良いとか思ったけど、怜司君は怜司君だなぁ。
珍しく褒められたと喜ぶ姿にほのぼのとしていると、前の方から大きな溜め息が聞こえてきた。


「気が抜ける……」

「あ、すみません」

「や。流石吉里の友達だと思った」


どういう意味だ。
ふっ、と笑いながら言われた台詞に突っ込みを入れる。けれど言った山本君の目が何やら遠くを見ていたので口には出ず、ジトリと恨めしく睨むに止めた。
そんな緩んだ空気の中。苦笑した皆瀬君が一歩前へ出て怜司君を見上げた。


「うん、俺は皆瀬昴。で、噂の転入生だった奴、って感じかな?変な感じだけど」

「ふーん。別に普通じゃん?」

「だよな?ありがと。で、こっちは山本祥守って言って俺の、と、友、達……」


怜司君の台詞に笑った皆瀬君は山本君へ掌を向けながら紹介し掛け、複雑そうに視線を落とす。何だろうと思ったけど、好きな人を『友達』と呼ぶ事にちょっとした苦味を感じているとかそんな感じだろうか。青春か……。
なんてしみじみ思いながら見ていると、たぶんそれを分かっていない山本君が不可解そうな顔で皆瀬君を小突いた。


「何でそこで照れるんだよ」

「いやこれ照れてるっつーより……。んにゃ、何でもないや。ショウは知らんでいい」

「何がだよ。……オイ、コラ!いつまで照れてんだ」

「い!な、何でもない!で!こっちは幾島春都で、友達!」

「オレはぞんざいだな!」


蹴りを入れてきた幾島君に文句を言う皆瀬君。この三人も相変わらずだと眺めていると、それじゃあ、と藤澤君が軽く手を上げた。


「俺は藤澤だ」

「藤澤?……って保健の」

「あぁ。兄が色々世話になってるみたいだな」

「いや、寧ろ助けてもらって!そっか兄弟か。えっと、マジで色々教えてもらったし、それに何か……、……お世話に、なりました……」


最初は笑みを浮かべていた顔を引き攣らせ少し草臥れた雰囲気の三人。……藤澤先輩何をしたんだ。
ちょっと引いてしまった俺と怜司君の反応とは裏腹に藤澤君は全く気にした様子無くそうか、とスッキリした表情。気になるけど聞いてはいけない。そんな気がして口を開き掛けた怜司君の袖を引いて止める。
そうして暫くして。どうにか気を取り直したらしい三人の視線が俺の後ろへ集まる。状況的に、たぶん人見知りだとか思われているんだろう。チラッと俺の方へ目が向けられ眉を下げる。名前だけは伝えて良いかと訊ねようとした時。一度強く服を掴まれたかと思ったら背中に張り付いていた体温が離れた。


「……小町、葵です」


少し顔を出して会釈した葵君は直ぐにまた背中に顔を埋める。でも、ちゃんと三人を、皆瀬君を見ながら自己紹介をした。少し驚いて後ろを見下ろす。すると背中にしがみついたまま小さな声が発せられた。


「……ぼく、てんにゅーせーのこと、キライ」

「っ」

「……だった、けど。お話して、てんにゅーせーのこと、ちゃんと知っていこうと、思う」


え?という皆瀬君の呟きが聞こえる。それを遠くに感じながら背中に埋まる髪の毛を見詰めていると、そっと目だけ覗かせた葵君がぼそぼそと小声で話し掛けてきた。


「ちゃんと話、聞くってゆった、でしょ?」

「え?」

「ゆーまが、ワルい人じゃないって言うんだから、ちゃんと、本人とも話して、どんな人か知っていこうと、思う」

「……うん」

「……ぼく、ずっとワガママばっかで。自分の気持ちばっかりゆってて。それで、ゆーま困らせたのスゴく悪かったって、思ったから。これからはゆーまが話してくれることちゃんと聞いて、よく考えていこうって」

「…………」

「お話、今までちゃんと聞いてなくて……ごめんね?」


また背中に顔を押し付けた葵君が言った台詞にうぅん、と返す。そして胸が暖かくなって、ありがとう、と言えばフルフルと首を振られた。

嬉しそうに皆瀬君が肩を下ろし、山本君達はほっとしたように笑う。そんな三人に怜司君が張り切った様子で彼等に話し掛ける。テンションの高い怜司君をたしなめながら藤澤君も質問をしていく。
話を聞く内に本当に噂と違うんだと分かった葵君が背中から少し離れた。会話に参加して、少しずつ力を抜いて、たまに笑って。良かったと目を細めながら俺も話の輪に加わった。
まだ少し皆瀬君に対して気まずさはあったけど。俺も葵君と一緒にこれからもっと皆瀬君の事を知って、もっと仲良くなれたら良いなぁ、と思った。




「吉里、敬語じゃなくなってる……?」

「あ。最近止めて……変かな?」

「いっいや!スゴく良いと思うよ!」


頭を横にブンブンと振って笑う皆瀬君を見て山本君が呆れたように目を眇める。それにハッとした顔をしたりこっちを見て赤い顔をしたり。何か忙しいな、と眺めていたら怜司君がコテリと首を傾げた。


「ん?ナニ?二股?」

「!」

「?」

「成る程」


へー、と頷く怜司君に納得顔な藤澤君。二股って何だと訊ねようとする前に、俯いてプルプル震える葵君に気付く。どうしたのかと小さな頭に手を伸ばそうとした瞬間バッと顔が上げられた。


「やっぱりキライー!!」


葵君の叫びが建物に反響する。大きな声に驚く山本君と幾島君。吹き出す怜司君と藤澤君。固まった皆瀬君。興奮する葵君を宥めながら空を仰ぐ。
けれど。嫌い、と言いつつも皆瀬君を見る目は真っ直ぐで。『転入生』というシコリは無くなったように思う。……まぁ、それでも仲良くなるまで時間は掛かるかな、と胸に埋まる頭を撫でながら小さく笑った。



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