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『カゼ悪化したって大丈夫か〜?
ムリすんなって言っただろ?もー
キツかったら返信しなくていいからちゃんと寝てろよ




葵とのことイーンチョーからちょっと聞いた
よくわかんないけどまた葵がワガママ言ったかんじ?
葵も転入生とかのこといちよーはわかってると思うんだけどな
キライなだけで

でも悠真のことキライになったわけじゃないだろうから気い悪くしないでやってよ
むしろすげー後悔してるしさびしがってるよ
だから早くカゼ治して出てこい
まってるぞ〜』


絵文字やデコが散りばめられたメールはのんびりした印象だが、やっぱり心配と気苦労を掛けている事を感じさせ。間に挟ませているみたいになってしまって申し訳無い。それなのに風邪の事も葵君との事も心配という気持ちだけがメールには込められていた。
目を細めて他のメールを読もうとするとずっと探していた名前を見付けて、指が止まった。沢山あるメールの中に一つだけ。詰めていた息を飲み込み、開く。


『大丈夫?』


そこだけ読んで。ケータイを握ったままボスッとソファに寝転がる。熱くなった瞼に腕を乗せて、ゆっくり息を吐いた。
皆、優しい。藤澤君も怜司君も、葵君も。それなのに俺は、そんな人達の気持ちを軽んじていた。特に、葵君の。


ツンとする鼻を擦って今までの事を思い返す。
皆瀬君に関しては、良い人だから助けたいという気持ちもあったし、仕事だからなんとかしなければっていうのもあった。友達にもなったし。でも人好きされそうな性格だから誤解さえ解ければ他に友達できてその内関わりも無くなるだろうな、という程度の軽い気持ち。そんな感じで皆瀬君と関わる事を選んだ。それを間違いだとは思わない。けれど、後悔してしまう。
もし俺も確かな情報を何も知らないまま葵君が危ないと言われている人と付き合いがあるなんて知ったら。しかも散々注意を促しておいてこっそりと、なんて。怒るより悲しいし、辛いし、不安になると思う。そんな想いを葵君にさせたのだろうか。


ギュウッと胸の奥を握られたような痛みに目を瞑り耐える。そしてパンと頬を叩いて気合いを入れた。
今度こそちゃんと話をしよう。葵君を。そして手助けしようとしてくれる二人を裏切ったりしないように。その為に、話す事は。


「本音……」


言いたい事って、何だろう。
また話したい。仲直りしたい。今まで通りになりたい。
そんな細かな望みはある。けど、どれも纏まりが無く雑然としていて。それにさっきの風紀室でのように言葉が出てこず詰まってしまうんじゃないかと思うと難しく感じた。

一先ず状況を整理しよう。
皆瀬君との事については絶対話さなければ。聞いてもらえるか不安だけど納得してもらえるまで話そう。後他に葵君なんて言ってたっけ。皆瀬君の事以外の秘密?秘密……仕事の内容なんて話せないしそもそも葵君も興味無いだろうし。だから、……敬語か。それは俺もそろそろどうにかしようと思っていたからいい加減腹を括るとして。
後、は……。


考えながら頭を起こし、グルッと部屋を見渡す。そうして今居るこの部屋の主の顔を思い浮かべて、唸った。
生徒会長とお友達です、というのは。どうしよう。……ん?友達、で良いのか?……まぁ、兎に角仲良くしているって事。これ、話したらどうなるんだろう。下手したら皆瀬君と仲良くしていた事以上に嫌われるんじゃ……?


悩みが深まるお昼過ぎ。難解な問題は上手く解けず。そんな中軽快に鳴ったケータイに一先ず思考を中断されて一息吐いた。











「風呂、もう入って良いのか?」

「はい。もう大丈夫だろうと言われたので。すみません、お先に頂きました」


夕方、脱衣場から出たところで帰ってきた先輩と丁度鉢合わせた。悩んで悩んで悩みまくってヘトヘトになった頭を休めようと被ったお湯。汗とか髪とか汚れが気になっていたので漸く入られた事にもほっとして少しスッキリ。
温かくなって気分も浮上しながら連れ立ってリビングに行くと、荷物を置いた先輩が首を傾げた。


「髪はちゃんと乾かしたのか?」

「だいたい乾いたと思いますけど……」


毛先を摘まみながら言うとちょっと考えた様子の先輩にソファの近くで手招きされ、近寄ると座らされる。何だと思っている内に取られたタオルで頭を拭き出され苦笑した。さっき先輩の関係についてちょっと考えていたけど、こうされると兄とか父とかみたいだ。
されるがままになっていると頭上からクスッと小さく笑う声が聞こえてきた。


「良い匂いがするな」

「良い匂いって。たぶんいつもの先輩と同じ匂いですよ?」


シャンプーなんかも借りちゃいましたし、と笑いながら突っ込みつつちょっと考える。やっぱり拭くだけじゃ匂いとか駄目だったよな。この数日布団とか色々申し訳無い。後でシーツ洗濯しよう。

そんな事を考えていると先輩は髪を拭きながら今日あった事を聞いてきた。風紀の呼び出しは知られていたようだ。
優しく拭う動きに眠くなりながら順を追って話す。そうして辞めずに済んだ事へ良かったな、と軽くポスリと頭を叩かれた瞬間。ある事を思い出し、あ、と声を上げた。


「それでですね。最後、委員長に頭撫でられてビックリしました」

「…………」


あれは本当に驚いた。でも嬉しかったなぁ、なんてヘラッと口を緩める。褒められた事はあったけれどあんな風にされたのは初めてだ。東雲君もちょっと嬉しそうだったなぁ、と思い出していたら。突然頭に乗せられた手に力が込められた。


「うぉ!?えっ!?」


グリグリとさっきより強く掻き混ぜられる髪。痛くはないけれど、酔う。それに揉みくちゃにされると痛みはなくても引っ張る力に不安が過り、必死に声を上げた。


「せんっぱ、っ!ストップ!は、禿げます!」

「あ。……悪い」


直ぐ止まった事に安堵しながら回る目を先輩へ向ける。文句を言おうとしたのだがしかし、先輩自身も困惑した顔をしていて。ぐらつく頭を押さえながら首を傾げ、黙り込んだ先輩に声を掛けた。


「どうかしましたか?」

「……いや、何も」


視線を泳がせながら言い淀むように言われ首を傾げる。何か言いたそうではあるのだけれど、本当にいったいどうしたのか。何か不快にさせたのかと不安になって口を開いた。


「あの、言いたい事があるのでしたら言ってくださいね?」

「……そうだな。だが実は俺もよく分かっていないから、言いようがないんだ」

「え?」

「上手く言葉にできないと言うか……」


先輩にもそんな事があるのかと驚く。でもそうだよな、思いながら頷いて呟いた。


「自分の気持ちって、意外と難しいですよね……」

「……あぁ」


溜め息のような先輩の声を聞きつつ思い悩む。風紀室での時も難しいと思った、先輩ですら表現に困る自分のよく分からない『気持ち』というもの。これをちゃんと言葉にして相手に伝えられるのか。
昼から尚一層深まる不安に、もっとよく考えなきゃなぁ、とすっかり乾いた髪を掻き上げた。



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