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ちゃんとお薬飲んで休んだのに、どうしてこんなに悪化しちゃったかなぁ。と首を傾げる先生へ曖昧な笑みを返す。小一時間雨に打たれましたとか言ったら怒られますよね。物凄く。


お昼前、出張から戻って直ぐ来てくれた先生に診てもらった結果は、やっぱり風邪。安心し掛けた俺に肺炎ギリギリだけどね?と先生は笑顔のまま低い声で告げた。お薬にっがいのにしとくからと書類に書き込む姿にビクビクしながら謝る。そんな流れを横で見ている藤澤先輩は何だか楽しそうだった。

先生が帰った後、直ぐに藤澤先輩も学校に行くだろうと思っていたらお昼ご飯だと台所へ駆けて行った。ふらふらと追って行けば薬を飲んで寝るのを見届けるまでは居座るとの宣言。遠慮しようとしても笑顔でかわされ寝室に押し戻される。諦めて寝転んでいれば暫くしてお粥と自分の分の食事を持ってこられた。
お兄さんの方は料理できるんだな、と前回自室に来たメンバーの顔を思い出して、首を振る。今はまだ、考えたくない。

お礼を言ってお粥を口にする。ちょっと多かったがなんとか最後まで食べきって薬を飲み、さっさと寝てしまおうと横になる。そうしてもう大丈夫だと告げる前に、椅子に座った藤澤先輩から声を掛けられた。


「何か悩みごとあるみたいだね」

「え?」

「何かあるみたいだな〜と思っても知ってるっぽいタッくんはなんも話してくんないから余計気になっちゃって。お友達とケンカ中、ってのは朝来る途中小耳に挟んだんだけど。あぁ、後風紀でも何かあったんだっけ」


何か、何でも知っているんだなぁ。
色々知られている事に対して驚きと恐ろしさを感じるが同時に感心してしまう。

息を吸って、はい、と小さく返し黙り込む。相談とか、カウンセリングとか、そんな事をされるのだろうか。話さなければ、いけないのかな。向き合わなければならないっていうのは分かっている。けどできればもう少し時間が欲しいんだけど。
唾を飲み込んでどうにか平気だと流せないか考えていると、横から藤澤先輩の呑気な声が聞こえてきた。


「あ。そんな神妙にならなくていいよ。今のはただの確認だけだから」

「……は」

「いやぁ本題入る前の雑談のつもりだったんだけど、失敗だったね。ごめんごめん」


あっけらかんと言われて脱力する。緊張して損した。
ぐったりする俺の頭を撫で、藤澤先輩は話を続ける。


「その辺僕はなんもしてやれないけど、それぞれからフォローあるだろうから安心しなよ。最終的には自分でしなきゃだけどね」

「分かってます」

「ん。いー子いー子。そんないー子に一つ手助けをしてあげよう」


手助け?
逃げたい気持ちが強いがここは言い切らねばと拳を握った時に、そうサラリと言われポカンと口を開く。何もしないと言ったばかりなのに手助けって、何?
呆ける俺に笑みを深めた藤澤先輩は、どでかい爆弾を落としてきた。


「昨日タッくんと何かあった?」

「へっ」

「あったでしょ?何かした?された?」


矢継ぎ早に質問を重ねられ硬直する。何も無い、と言っても意味は無い気がする。絶対笑顔で吐かされる。……何でこの人保健委員だったんだろう。風紀に入っていたらすごく活躍……いやもっと怖くなっていたかもしれないのか。
想像にブルリと震える俺をどうしたの?と藤澤先輩が覗き込むその瞳には好奇心が詰まっていた。手助けとは何だったのか。
しかし何かあったのかと聞かれても。


「別、に。看病してもらっただけ、で。いつも通りの事しか、ない、です」

「それでなんでタッくんと話すだけであんなに真っ赤になるの?タッくんやバンくんは風邪だからだと思ってるみたいだけど、違うでしょ?」


バレてるー。てかやっぱり顔に出てたのねー。
気のせいだ熱のせいだと誤魔化していた事をズバリ言われて顔が熱くなる。そんな俺に更にテンションが上がった様子で藤澤先輩は身を乗り出してきた。


「いつも通りのって、いつも何してんの?」

「……頭撫でられたり、とか」


抱き締められたり、とか。一緒に寝たり、とか。甘やかす事言われたり、とか。その辺は胸に仕舞う。これは言わない方が良いと直感して。
でも兎に角。行動は本当にいつも通りだった、と思う。


「うん。それで?それがどうしたの?」

「それ、で……」


普通に言ったつもりだったのにそれに原因があると看破されたらしい。口籠る俺を藤澤先輩は今度は急かさない。しかし無言の視線に耐えられなくなった俺は、観念して話し出した。


「……今までは。特に何ともないっていうか、嬉しいだけだったんですけど……。……急に恥ずかしくなりまして……」

「ふぅ〜ん。恥ずかしくなったの」

「変、ですよね」


口に出して言うと、益々自覚する。変だ。
朝起きたら先輩の腕の中で。起きていた先輩に頭撫でられて。頬と首を触られてまだ熱いな、と言われて。それから何くれと世話を焼かれて。
一緒に寝るよう望んだのは俺だし、頭撫でられるのはいつもの事だし、熱測られるのはまぁ普通として。世話だって風邪引き相手だから仕方無いし。

笑い掛けたり頭を撫でられたり優しく話し掛けられたり。笑うのも、頭を撫でるのも、優しく話し掛けられるのもいつもの事だし、普通だ。
でもそれが妙に嬉しくて。ドキドキして。先輩がやけに格好良いとか思って。いや先輩が格好良いのは今に始まったことじゃ……ってそんな話じゃなくて。


ドキドキするのは、よく分からないけど恥ずかしさからきている気がする。今まで何とも思っていなかった言動に突然羞恥を感じるとは何なのか。いや、元々その行動自体一般的に男子高校生がするのは変だとも思うけど。しかも喜ぶなんて。っていう突っ込みは今は置いといて。そんな事を何で今更急に意識するようになったのかって言うか。考えては熱のせいにして枕に沈む。

そんな事を先輩を見たり話し掛けられる度に繰り返し。押し込めて。気にしないようにして。そんな行動が可笑しい思考が可笑しい。そして無性に恥ずかしい。



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