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「吉里くんがダメなんじゃないよ!タカの理性がギリギリアウトな予感がするだけでっ。吉里くんは気にしないで……あぁもうタカの服なんてじゃんっじゃん使っちゃっていいからぁ!」

「うんうん。使っちゃえ使っちゃえ〜」

「お前等な……」


隊長さんの軽い暴走と藤澤先輩のはしゃぐ声に先輩が呆れた溜め息を吐いた。なんか、何をしようとしても騒がれて迷惑掛ける気がしてきた。言われた通り大人しくしておこう。……何となく藤澤先輩怖いし。

ベッドに寝転び直し息を吐く。落ち着いてくれば寧ろ突然居なくなる方が心配掛けるよな、という考えが沸いてきた。迷惑だとか怒られるとかそういうの以前に無駄な労力使わせてどうするんだ、と。そんな事に考えが至らないくらい頭が鈍っているのだと自覚して、馬鹿な事は考えないようにせねばと頭を振る。取り敢えず三人が行ったら本当に寝ようと気を取り直していると、パンパンと手を叩く音が聞こえてきた。


「さあさあ時間がやばいよー。今日も二人とも忙しいんでしょ?早くいってらっしゃい」

「うー。やっぱ、僕も残って吉里くん看るー」

「何言ってんの。集会の打ち合わせとかあるんでしょ?ちゃんと準備してきなさい」


集会……。あぁ、そうだ。明後日スポーツ大会があるんだった。……行けないだろうなぁ。楽しみにしてたんだけど、なぁ……。
グリッと胸を抉られるような感覚を耐えて深呼吸。漏れた咳に気を削がれつつも無理矢理笑顔を作って、さぁ送りだそうと布団から顔を上げると、誰かが近付いてきた。


「は〜い。じゃあ二人ともいってらっしゃ〜い」

「…………?」


藤澤先輩が椅子を俺の枕元の方に持ってきながら二人其々へ手を振る。えー、と眉を下げる隊長さんとニコニコ顔な藤澤先輩とを見比べていると、先輩がポンと頭に手を乗せてきた。


「伊織は付き添いで残す」

「……え?」

「あ、うん、そうそう。先生来るまでね〜。鍵開けなきゃだし」

「え、でも、」

「ん〜後はー……見張り、かな?」


スイッと笑顔のまま覗きこまれ思わずすみません、と言い掛けた口を噤む。今それを言ったらさっき要らん事を考えていたのだとほぼ白状した事になる。バレているんだろうけど。肯定したら怒られる。
もう何も考えていないです。帰ろうとなんてしません。と視線だけで必死に伝える。え、なになに?と騒ぐ隊長さんは兎も角、無言の先輩も何か察している気がしてきた。これはヤバい。お説教嫌だ。マジで、大人しく寝ておきますから。どうか勘弁してください。

その想いが伝わったのかは分からないけれど、よしよしと頷いた藤澤先輩は何事か言う隊長さんの背に手をついて部屋の外へと押し出した。さー学校学校、と朗らかに登校を促す背中にさっきまでの凄みはない。どうやら危機は去ったようた。
不思議な人だとは思っていたけど、変に逆らうときっとヤバい。何か分かんないけど、怖い。
そう認識を改めつつはぁ、と詰めていた息を溢す。と、小さな笑い声が聞こえて視線を向けた。くつくつと笑う先輩を恨めしく見上げる。すると先輩は笑みを苦笑に変えて口を開いた。


「伊織はたまに……というより毎度ほぼ確実に痛い所を突きにくるから気を付けるようにしとけ」

「……はい」


それについてはよくよく実感させていただきました。
もう一度溜め息を吐いて脱力しているとポンポン頭を撫でられ少し微睡む。さっきと同様、どうしてかドキドキしてしまうけどその感触と体温が心地好い事に変わりはない。もう少しだけそうしてほしいと思ってしまう。けれど、朝の短い時間では直ぐに終わりはくるもので。


「欠席の連絡もしてあるから。ちゃんと大人しく寝てろよ」


そう言ってクシャリと髪を撫でて離れる手に目を細める。何か、胸がギュウッと痛い。寂しいから、だろうか。
側にいると言ってくれたのに、なんて無茶な我が儘が一瞬頭を過る。何を馬鹿な。子供みたいに随分甘えた過ぎるなと自嘲するが、指は勝手に袖を掴んでいたようだ。
浮いた腕の先驚いた顔の先輩を見て、先輩以上に驚き慌てて体を起こす。何やってんだよ俺、とパニクりながらも困らせてはいけないと焦って口を開いた。


「あの、ですね。えっと……」

「……どうした?」

「うあ、の……、あ。い、いってらっしゃいっ」

「……あぁ。いってきます。できるだけ早く帰るよ」


目元を緩めた先輩が最後に頬を撫でて部屋を出て行った。その背中を見送り、枕に顔を埋める。

やっぱり変だやっぱり変だやっぱり変だ。

ぐるぐると目が回るように頭がこんがらがる。笑顔だとか優しい声だとか少しかさついた指の感触だとか。色々一気に頭の中に詰め込まれ、パンクしそうだ。なんなんだなんなんだ。
そうやってうだうだとよく分からない混乱状態になり、戻ってきた藤澤先輩が声を掛けるまで矢鱈と熱くなった頬を必死に冷やしながら唸り続けた。



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