落ち着き

風邪で潰れて暫く先輩にお世話される事が決定した次の日の朝。ちょっと早めに目を覚まし身支度を整えた頃、二人のお客さんが訪ねてきた。


「赤らんだお顔!潤んだおめめ!っ大丈夫!?なんもされなかった!?」

「まだ、熱あるみたいで……」

「しかも何そのだぶついた服!萌え袖!萌え袖か!」

「あー……ちょっと寒くて、長袖をお借りしてます」

「彼シャツか!流石ムッツリ!あざとさ好きか!イイ趣味だけど危ないよ吉里くんっ」

「危ない……確かに物掴みにくいのは危ないですかね」

「危ないね!捲っとこうね!」

「ありがとうございます」

「会話が弾んでるみたいだね」

「……成立してんのか?」


ぼーっとしている間に借り物なシャツの両袖を捲ってくれた隊長さんが満足げに鼻を鳴らした。ちょっと離れた所では先輩と藤澤先輩が何か話をしている。いつもの登校時間より早い時間、藤澤先輩と、藤澤先輩から話を聞いたと言う隊長さんが様子を見に来てくれていた。
隊長さんは額に手を当ててきたり藤澤先輩に質問したり。ちょっと咳をしただけでも大袈裟なくらい焦って背を擦ってくれたり。先輩が呆れて何か突っ込んでも言い返して世話を焼こうとしてくれる。忙しいだろうにそんな風に心配してもらって、なのにろくに応対ができていなくて申し訳無い。何事か話し合う三人から視線を逸らしてそっと目を伏せた。


昨晩に引き続き頭がグラグラして考えは纏まらないし、話も半分くらいしか聞けていない。体も怠いがそれ以上に頭の中が色々可笑しかった。特に先輩と目があったり触れられたりした時。余計に熱が上がる気がして軽くパニクるのだけど、何なんだいったい。


「タカ。ホントに何もしてないだろうね」

「しつこいぞ。看病以外していないと言っているだろう」

「ほんとかなぁ〜あ。あーもう、やっぱ心配ぃー。布団はちゃんと別にしてたみたいで安心したけどさぁ、こんな状態の吉里くんタカの側置いといて大丈夫かなぁ」

「…………」

「いーい?吉里くんが泊まる間、タカの布団はそのままずっとソファだよ。寝た子に触んな。あ、でも看病はちゃんとしてよ」

「微妙に矛盾してないか」

「してなーぁいー」


一人で考え込んでいる中聞こえてきた会話にえ、と顔を上げる。別に、ってどういう事だ?……そう言えば俺が着替える間に先輩掛け布団持って部屋出て行っていたな。その時ソファにそれ置いていたのか。一緒に寝たと隊長さんが知ったら怒ると予想して。
チラッと視線を向けると、気付いた先輩が人差し指を唇に当てて優しく微笑んだ。その仕草に、ドキッと心臓が跳ねて俯く。やっぱり、何か変だ。
胸を押さえて小さく唸る。途端気分が悪いのかと心配されて慌てて首を横に振った。動きに合わせグラリと揺らぐ思考で昨日と同じ言葉を繰り返す。熱のせいだ。風邪せいだ。


また咳き込み出した俺はもう寝るようにと促されて横になる。先輩が心配そうに頭を撫でてくるのが申し訳無くもあり嬉しくもあり苦しくもあり。布団を被って新しく変えられた氷枕に顔を埋める。早く熱下がってくれ。なんか、身が持たない。

また熱と心拍数が上がった気がしてギュッと目を閉じる。そうしている内にひんやりとした冷たさと未だ優しく撫でる手の動きに段々と眠くなってくる。せめて三人を見送るまでは起きておかねばと必死に睡魔と格闘していると、布団越しに不満そうな隊長さんの声が聞こえてきた。


「でもさぁ、いおリン。急だったから仕方無いけどせめてもっと早く教えてくんない?そしたら服とかも準備できたのに。……狼相手にこんな据え膳なカッコの羊泊まらすなんてぇ……」

「え〜?別にいいじゃん?むしろどうせならパジャマ上下半分ことかくらいすればいいのにくらい思ってたよ」

「ダメでしょそれ!更に危ないわっ!ぶっちゃけお泊まり自体も不安しかないのにっ」


服借りるの、駄目か。と途切れ途切れに拾った言葉を飲み込んで瞬く。駄目だよな。服全部借りちゃうなんて。ボーッとした頭で言われるがまま、出されるがまま着ちゃったけど下着も新しいの出してきてもらっちゃったみたいだし。洗濯じゃなくて買って返さなきゃなぁ。いや後の事は置いといて。後で服取りに戻ろうかな。あ、そのまま自室で寝てしまおうか。
そっと布団から顔を出して話す二人を見る。藤澤先輩には甘えとけ、なんて言われたけど先生に診てもらった後は帰ろう。こんなに揉めているって事はやっぱり迷惑なんだろうし。不安とか言われているし。……先輩と一緒にいられるのは嬉しいけど何故か無性に恥ずかしくて堪らないし。よし、帰ろう。
等と考えていたら不意に藤澤先輩と目があった。ジッと見てくる目に驚いて固まる。そのまま見詰めあって数秒。パチパチと瞬いた藤澤先輩は急にニッコリ笑って先輩へ顔を向けた。


「ねータッくん。吉里くん服借りるの迷惑?」

「そんな訳無いだろ」

「タカはどうでも、」

「ほらね。迷惑じゃないって。気にしなくていーよ〜。だからこのまま寝ときなさい。ここで、ね?」


近付いてきた藤澤先輩が布団を捲って優しく頭を撫でてくる。キョトンと見上げる俺に藤澤先輩は笑みを深めた。……あれ?今、心、読みました?
じわじわと状況を理解して息を飲んで固まる。蛇に睨まれたように動けないでいると、ハッとした顔をした隊長さんが慌てた様子でベッドの横に膝をついた。



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