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「きょ、う。何か。色々、いっぱい、あって」

「……どんな事だ?」

「……友達、っ、怒らせ、て。避けられ、て。今度こそ、ほんとに嫌われ……っ、」

「…………」

「っひ、っ。なんか、なんかせなんては思うとばってんが、ぼーってして、動っきらん、で。話せ、んで。やだな、て。思いよったら、風紀、も、辞めんねてっ、言われ、てぇ」
(「っひ、っ。なにか、何かしなきゃっては思うのに、ぼーっとして、動けなく、て。話せなく、て。やだな、て。思ってたら、風紀、も。辞めないかって、言われ、てぇ」)

「え?」

「無理するな、て。う、そぎゃん言われてもなんかようわからん、で。そっで、先輩に、も、いらんてゆわるんならっ。も、どこも、おりばん、にゃ、て、思っ、て、っ」
「無理するな、て。う、そんな事言われてもなんかよくわかんなく、て。それで、先輩に、も、要らないって言われるならっ。も、どこにも、居場所が、ない、て、思っ、て、っ」)


雰囲気から以前同様友人関係で何かあり、発熱で不安が増しているのだろうとは予想していた。しかしまさか風紀の方でも問題が起こっていたとは。あの男が一度懐に入れた者をそう易々と手放すとは思えないが後輩のこの様子から軽口で言われたとも思えない。疑問と共に怒りのようなものが沸いてくるのを抑えて頭を振る。それは後に向こうを問い質すとして。
過呼吸を起こしそうな程に息を乱しながらも感情を抑える後輩の頭を撫で、落ち着くよう気を払い声を発した。


「要らないなんて、俺は一言も言ってないだろう?」

「ばってん、何も、すんなって。それ、俺、必要なかて、ことじゃ、」
(「でも、何も、するなって。それ、俺、必要ないって、ことじゃ、」)

「そうじゃない。何もしなくても居てくれるだけで良いんだ。……何かしてくれなくても、俺にとってお前は必要な存在だよ」

「……っ、―――ぅうゔ」


遂に泣き出した後輩を抱き締め背を叩く。涙に溺れた言葉はよく聞き取れないが随分と溜め込んでいたらしく滔々とした話が肩口に吸い込まれていった。一頻りそうして吐き出させ、崩れ落ちた体を抱えて寝室へ足を進める。やはり熱が酷く高い。

シーツに下ろし布団を掛ける。脱力した後輩は呼吸も荒く息苦しそうだ。先ずは何か冷やす物を、と立ち上がる為ついた手首に熱が触れ視線を向けた。


「……直ぐ戻るよ」

「…………」


薄く開かれた瞼の中、焦点が定まらない瞳が心細げに向けられる。涙と熱で痛々しく赤らんだそこを撫でて宥めても不安な色は消えず。意識は朦朧としているようだが、だからこそ人が離れるのを恐ろしく感じるのだろう。


「……ほら」

「…………、」


屈んで寝転がる後輩に覆い被さるよう抱き締めた。幼い子供のようにしがみつく姿に苦笑する。髪を梳き、背を撫で、宥めすかし。それでも胸元から上げられた揺れた瞳はまだ涙にけぶる。その様子に溶けそうだという感想を抱く、と、気が付けばその場所に顔を近付けていた。


「大丈夫だから、お休み」

「ん……」


熱を持つ瞼に。涙の跡が残る頬に。順に唇を落とす。最後に目尻に触れ、塩辛い雫を吸い取ってやれば安心した顔で漸く穏やかな呼吸をしだした。その様子に安堵してそっと体を起こす。

服を掴んでいた手を外し、自分の指と絡め布団に落として枕元に座る。微かに力が込められた事に口を緩めながらケータイを取り出し、暫し思案。ある人物の名前を出しメールで事情を簡単に説明して薬や必需品を持ってくるよう頼む。直ぐに了承の返事が来た事に安堵し溜め息を吐いたところで不意に、脳裏に先程の自分の行動が甦った。


「……これは手を出した事になる、か?」


眠る後輩を見下ろして呟く。さっき自分がしたのは、口付けだ。何の言い訳も誤魔化しもしようなく。眼下の顔に手を伸ばし、触れた場所を指で擦ってみるがそうした所でやった事実が消える筈はない。唇を掌で覆い意味の無い声を低く漏らす。
自分にすがる姿に加護欲は覚えた。泣いている姿には慈しみを与えたいと。だからといって、何故そんな行動が出る。後輩に告げた通り必要な存在だと思っている。かけがえの無いものだと。そう思っているだけ、なんだが……。


懊脳に頭を押さえ、唸る。始めは自分の行動原理について。そして目覚めた後輩の反応を想像して、深みに嵌まった。何と言われるか。引かれるか。避けられるか。
後輩の顔を見ては逸らし考える事数刻。報せに震えたケータイの音で現実に戻り、思わず嘆息を溢してからゆっくり立ち上がった。



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