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不貞腐れ気味な山本君の背を擦り、俺からも幾島君へ気を付けるように話す。何かあったら必ず連絡をするように、と約束を取り付け一息吐いた。ただ話を聞くだけでも結構体力使うな。
ちょっと身動ぎして楽な体勢を探す。もう少し、できる限り話は沢山聞いておきたい。

ひっそり深呼吸して他に何か変わった事は有るかと水を向ければ暫く考え込んだ山本君が木を見上げながら口を開いた。


「後はー……何か副会長等がそろそろ何かやるとかなんとか?」

「何かって?」

「さあ?兎に角何とかするから安心しろって昴に言ってきたらしい」

「……ショウにも何か言えっつーの」

「いや要らんわメンドクセェ」


むくれた幾島君が文句を言えば山本君が顔を盛大に顰めて首を振る。何要求されるか分かったもんじゃない、と呟いた山本君は兎に角嫌そうだ。山本君は副会長さん達嫌いなんだなぁ、と苦笑しつつ聞いた話を頭の中で繰り返す。どうも副会長さん達が騒動を解決させると宣言しているようなものだが、果たしてそんな事ができるのか……。


「ま。信用できるか知らねぇけどな」

「うーん……。でも、副会長達が元の様に戻る準備はしているみたいですし、それに関連して何かはされると思います」

「あ?マジで?」

「はい。……あ、これは秘密でお願いしますね?」


風紀の先輩が言っていた話が本当なら、それと関わりは有るんじゃないだろうか。何をするのかは分からないけれど。
しかし何だとしてもそうパッと魔法のように解決する程簡単な事態ではない。あまり期待はし過ぎず、今まで通り自衛を続けていくと言う山本君の台詞に頷く。

そうして、では何から気を付けるべきか、という話になった。新聞部は言わずもがな。後は……。


「親衛隊の、事になるけど……」

「……俺は大丈夫なんで、教えてください」

「あー……じゃあ、な。……やっぱ、会長んトコのが一番ピリピリしてっか、も……?」


予想通り。言い辛そうに出された名前に覚悟はしていてもダメージはある。俺の様子を窺いながら話す山本君の手前、何とか苦笑に留めるがそれなりにショックだ。
うーん、と小さく唸った俺の隣で、東雲君は軽い調子で仕方無いさ、と肩を竦めた。


「考えてみれば一人仕事押し付けられてる状況だしな。親衛対象が割り食ってたら苛々もする」

「……まあな。そう考えると逆恨みもしゃあないっちゃしゃあない」

「でも意外と平気そうだよね、会長」

「だよなぁ。マジ超人」


そうでもないんですけど、とは言えずに口を噤んだ。仕事に加え騒動の解決、親衛隊の調査。ただでさえ忙しそうなのにどんどん仕事が増えている。隊長さんもバタバタしているみたいだったし。それを表にしないだけで部屋ではいつも疲れた顔をしている二人。それを知らずに超人だとか言われるのは、なんか悲しい。……いや、二人の事を考えるより先に今は山本君達か。ピリピリって、ストレス溜まっているって事だし。八つ当たりで被害とか……。
親衛隊、と言われて真っ先に思い浮かぶ人物との会話を手繰る。しかしどうにもしっくりこず首を傾げた。


「俺の、会長の親衛隊に入っている友人から聞く話ですけど。心配で何かしてあげたい、とか、一人でも立派で素敵、とか。そんな感じの話をしていると言っていて……。あまり深刻さは無さそうでしたけど」


それとなく親衛隊の様子を訊いた時葵君から聞かされた話は、ただ先輩を案じて小さな雑用をしたりだとか転入生への愚痴を言い合ったりとか。多少雰囲気は悪いという事だが制裁なんて話題にも出ないと言われたのだけど。そもそも禁止されているのに皆瀬君達に絡んでいる事から可笑しい話なのか。
疑問に益々考え込んでいると、横から小さな溜め息が聞こえてきた。


「そりゃ、小町だし……」

「吉里の友人じゃあなぁ……」

「えっ。どういう意味ですか」

「似た者同士でポヤッとしてそう」


更にどういう意味だ。
憮然と口を尖らせて東雲君と山本君を見るが、なぁ、とお互いに同意し合うだけで。幾島君も無言で頷いていて。少し、いじけた。ポヤッとって何だよポヤッとって。
……でも、まあ。隊の中でもグループとか派閥みたいなのがあるらしいから一番平和な所にいるのかもしれない。仲の良い隊員は何度か見た事あるけどおっとりとした人ばかりだったし。……決して、ポヤッとなんて感じではないけど。
兎に角。会長親衛隊の一部の動きが今も怪しいという事で話が付く。……そう言えば葵君、煩い先輩がいる、なんて愚痴も言っていた事があったな。その人が何か関わっていたりしたりして。
適当な推測をつらつらと組み立てていると、低く唸った東雲君が口を開いた。


「後疑わしいのは風紀、か?」

「……んー。まぁ、うん。かなぁ」

「……一応、副委員長が色々調べて何かしてるみたいです。あまり教えてもらえませんけど」

「副委員長……って、信用できんのか?」

「ちゃらんぽらんだけど、仕事には真面目だよ」


即答した東雲君を見てちょっと笑う。普段邪険にしているけど、尊敬はしているんだよね。
クスクス笑っているとムッとした顔の東雲君に小突かれた。そして何故か幾島君も山本君に叩かれた。妄想すんな、と怒られる姿に何とも言えない視線を送る。今のどこに妄想の隙があったのか。別に知りたいとは思わないけど。


二人の言い合いが落ち着いたところで出た分の不安要素其々についてもう一度話し合う。しかし今ある情報だけではどうにも検討すらし難い。暫く頭を捻っても憶測の域を出なくて。こうなったら色々知っていそうな人に任せてしまえ、と絹山先輩達に丸投げする事にした。下っ端は下っ端らしく情報を集め上司にそれを活用してもらう、と。不服そうな山本君達を何とか説き伏せて結論付ける。渋々ではあるが一応俺達を信用してくれたみたいでホッとした。東雲君がハッキリ言ったのが良かったんだろうな。


安心するとドッと重い疲れが肩に乗る。帰ったら、ちょっと寝よう。その前に纏めた情報を絹山先輩に連絡して……ん?……休む為に帰したのに何お仕事してんの、と、怒られるような気が……。
ハッと降りてきた嫌な予感に身を震わせる。……伝えるのは東雲君に頼もう。そう決めて横を見ると、顎に手を掛け考え込んでいた東雲君がポツリと呟いた。


「どうせなら皆瀬本人からも話聞きたいな」

「そう、ですね……」

「あー。じゃあ呼ぶ?」


今から話すか?と問われ動きが止まる。皆瀬君と、話す。それは話が聞けて、有難い事だ。
でも、…………。


「……いや、今日は止めとく。こいつ今病み上がりだからそろそろ休ませたい」

「え。マジ?風邪?」

「へ。……あ、はい。もう殆ど大丈夫ですけど」

「えー、ウソウソ。絶対キツイ絶対キツイ。ほら、東雲、こうなったら看病って事でお泊まりして付きっきり、っで!?」

「じゃ、明日……あー、昼休みで良いか?」

「は、はい」


突然スイッチが入ったかのように喋りだした幾島君を叩き山本君が立ち上がる。指定に返事をすれば頷いた山本君が帰るぞ、と歩き出した。……林の奥の方に。どこに行く気だ!と幾島君が蹴りを入れて舗装された道へ引っ張っていく。お大事に、と言いながら引き摺る幾島君の手を振り払う山本君。怒る幾島君。そんなやり取りをしながら去っていく二人を眺め、深く息を吐いた。


「俺等も帰るか」

「はい。……さっきは、ありがとうございました」

「いや、こっちこそ長引かせて悪い」


ヒラヒラと手を振る東雲君にお辞儀をして俺達も道へ出た。
皆瀬君は良い人だと思う。助けたいとも思う。そう思ってはいても、無理をするな、と。危ない事に突っ込むな、と。何度も言ってきた葵君の顔がちらついて、直ぐに返事ができなかった。
でも話を聞くだけなら無理じゃない。そしてこれは仕事だ。やらなければならない事だ。だから、やらなくちゃ。

何処と無く後ろめたさを感じる胸を押さえ繰り返す。早く騒動を終わらせよう、と。
部厚い雲が暗く立ち込める空を見上げながら、明日への気合いを入れて体を伸ばした。



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