情報交換

「もう出てきて良いのか?休んだ方が良かったんじゃねえの?」

「大丈夫ですって」


早朝風紀室に入ると直ぐに驚いた顔の東雲君に声を掛けられた。他の人達からも心配の言葉を掛けられ、お菓子のお礼と共にもう何ともないですよ、と掌を振って返す。それでもまだ疑わしく半目で睨んでくる東雲君に両手で拳を作って意気込んで見せれば呆れた視線を貰ってしまった。


昨日、結局先輩に抱き付いたまま爆睡した俺はまた先輩のベッドで目が覚めた。時計を見ればもう夜も更けた頃。昼過ぎに来たからかなりの時間寝ていた事になる。その間ずっと、先輩が面倒を見てくれていたみたいで。お礼と共に謝り倒せば笑いながら頭を撫でられた。そして注文されていた食事を温め直して食べ、部屋に帰り本日。良く眠れたのか行く前より格段に体調は良くなっていたと思う。それでも先輩は最後まで心配そうな顔をしていた。


帰り際、きつかったら休めよ、と小突かれた額を押さえ考える。熱はちゃんと下がっているし、歩けるし。うん。大丈夫。いけるいける。
そうして午前分の仕事を終え授業を受ける。心配する葵君達にお礼を言って少しだけ喋ってからまた仕事。今までやってきた事と同じスケジュール。
だけど、たった二日でも持ってしまったブランクからか、まだ本調子じゃないからか。結局放課後にはバテてしまった。まだいけると強がってみたけれど、無理させてゴメンね、と悄気返った絹山先輩から早退通告までされて。態々仕事の量減らしてくれていたのに、と申し訳無く思いながら荷物を纏めて持ち上げる。付き添いと言う名の見張り役な東雲君と風紀室を出た瞬間、溜め息が溢れ出た。早く、調子戻さないとなぁ……。

落ち込む俺を気遣ってか何も言わない東雲君と並びとぼとぼ歩いていると、少し先の方から誰かが曲がってやってきた。


「ん?あぁ、東雲と吉里か。今帰りか?」

「はい。今日は早めに上がらせてもらっています」

「そうか。吉里は風邪は大丈夫なのか?」

「はい、先日はご迷惑おかけしてすみませんでした」


片手を上げて声を掛けてきたのは里美先生だ。反対の手に有るファイルの厚みに口が引き攣るのを感じつつ、先週早退した時の事で頭を下げれば病人が気にするなと軽く笑って返される。そしてちゃんと真っ直ぐ帰れよ、と言う先生と擦れ違おうとしたところでちょっと、と引き留められた。


「吉里、明日放課後話せるか?」

「?はい」

「…………」


頷けば隣で東雲君が眉を顰めた。気にはなったが時間と場所を伝えてくる先生の言葉に意識が逸れる。約束を取り付けた後サッサと風紀室に行ってしまった先生を見送り、そうしてどうしたのか訊ねようとした。しかし早く帰るぞと速足に進まれ慌てて追い掛ける。何と無く、訊ける雰囲気じゃなくて。もやもやしながら特別棟を出た。
ちょっと気不味い沈黙。何が気に障ったのかと考え視線をあちらこちら泳がしつつ寮への道を歩いていると。


「え?」

「……あ」

「……久し振り?」

「ですね」


脇にある薄暗い林の木の下、座り込んでいる人達がいて。ビビって足を止めたら向こうもこちらに気付いて顔を上げた。誰かと思えば山本君と幾島君。
何とも微妙な再会の仕方に首を掻きながらこんな場所で何をしているのか訊くと、道に迷った山本君を探しに探して漸く見付けたところだったんだとか。そういえば方向音痴とか言われていたっけ山本君……。

疲労に黄昏る幾島君を労りつつ、折角会えたのだからとお互いの近況を話し合う事に。並ぶ二人の前に俺達も腰を下ろす。そうして話を促した。


「そうだな……。最近、嫌がらせはだいぶ減ってたかな」

「そうなんですか。良かったです。んー、テスト期間だったからでしょうか」

「テスト程度で引っ込むくらいなら最初っからすんなっつー話だけど」

「……まー、テストしんどいから仕方ないかもだけどー」


遠い目をした幾島君にそうか?と首を傾げた東雲君が二人に盛大に睨まれる。東雲君の頭と他の人を一緒に考えたらいけないよ。
肘をつつけば何か分からずとも不味い事を言ったのだと気付いた東雲君が視線を泳がし口隠る。それでも注ぐ冷たい視線に耐えられなくなった東雲君は情報交換、と手を鳴らして話題を変えてきた。


「……と、言っても俺達の方は苦情処理しかしてないんであまり情報らしい情報は無いんですけど」

「あー、俺らも確かな話ってなるとそうねぇな」

「新聞部ならなんか情報入ってんじゃないのか」

「…………」

「?どうかしましたか?」

「……部活、今、行ってない」

「え?」


驚きに口を開いて幾島君を見る。幾島君は膝の上で指を何度も組み替えながら迷うよう口を開閉させ、チラリと山本君を見た後話し出した。


「近頃の新聞部、何か怪しいってゆーか信用できないってゆーか……」

「怪しいのは元からだろ」

「失礼な!」


東雲君の突っ込みに幾島君が噛み付く。憤慨して口を曲げる幾島君は、本当に新聞部が好きらしい。東雲君と、東雲君に同意する山本君を軽く窘め幾島君を宥める。


「えぇっと……どんな風に可笑しいと?」

「んー……ミステリアスだったのがマッドっぽい感じになった、みたいな?」

「結局怪しいんじゃねーか」

「うっさいな!」


呆れ声な山本君に激しく言い返した幾島君は止める間も無く膝を叩いて捲し立てる。


「部長が珍しくいるって話なのに姿見せないし!なのに色々指示は飛ばしてくるし!記事殆ど転入生とか取り巻きの話で!しかもほぼ言い掛かりな内容で!なんか皆瀬達悪者に仕立て上げてやるぜ!みたいな感じで!スゲェ胸くそわりぃの!」

「皆瀬君と取り巻きを貶めるような記事を指示、という事ですか?」

「……ん。平たくゆーとそー」


一気に吐き出した事で疲れたのかトーンダウンした幾島君が怠そうに頷く。あぁ、それは可笑しい。確かにゴシップやトラブル関係が好きな集団だがコロコロ話題を変え、一つの話に固執しないと聞いていた。それなのに転入生と取り巻きにこんな長期間、まるで潰そうとするかのよう動いていたとは。

実際、現在出回っている記事は言われた通り転入生関連の物ばかり。それは今学園が一番注目しているからだろうと思っていた。しかしそうではなく、意図的に、しかも貶す為の記事。それを、部長が指示?何故?転入生である皆瀬君、若しくは取り巻きの誰かへ恨みがあるとか?

腕を組み、うんうんと唸ってみてもこれといって納得できる考えは浮かばない。見た事も無い相手の思考なんて推し測りようもなく見当すらつかない。この中で一番身近な幾島君が分からないのなら俺にも分かりっこないかと諦め東雲君を見ればこちらも一先ず諦めたらしく首を横に振られた。


「取り敢えず、新聞部が一枚噛んでるってのは確定だろうな」

「……えー」

「だからもう辞めろってお前」

「ヤダよ、楽しいもん」

「お前……」

「それに……辞めたら辞めたで動向わかんなくて怖いじゃんよ」


指示は部室でしかされないが、そこまで行かずとも仲間内から連絡事項は聞いて活動内容は把握しているらしい。怪しいと思っている相手が何をやっているのか分からない方が怖い。それはそうだ。
それでも危険ではないかと詰め寄る山本君に、自分はノーマークだから、と幾島君はケロリと返す。誰がどう言っても聞かなそうな様子に根負けした山本君は、不機嫌な顔でぶっきらぼうに無茶すんなよ、と呟いてそっぽを向いた。



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