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お金持ちのお坊ちゃんの為のこの学園は、恋愛に現を抜かさぬように男子校なのだとか。教職員まで全て男という徹底っぷり。山の上の辺鄙な場所な上、規則厳しい全寮制なので気楽に町へ遊びにも行けない。そんな世間から隔絶された世界。それがここ、魁臨(かいりん)学園。色んな意味で遊びたい盛りの子供には地獄とも言える学園である。

しかし、上記の通り上流階級出身者が主の上、文武両方共に好成績の名門らしくこの学園出身というだけでなかなかのステータスになるようで。それなりに裕福な家の親はこぞってここに入れたがるらしい。将来役に立つかもしれないけど今は親の見栄である。大変だね。
在校生なのに他人事じゃないかって?他人事です。俺はそんな特別裕福な家ではない、特待生として入学した一般庶民だ。何で態々こんな面倒そうなお坊ちゃん校に来てしまったのか。それはぶっちゃけ俺が聞きたい。ただでさえ自分はちょっとばかり気を使う生活をしなければならないのによりによって人と距離が近くなる寮生活だなんて。まぁ、押しと口の達者な従妹に負けたせいなのだけど、何かもうあんまり考えたくない。

数ヶ月前の事を思い出し、ちょっぴりげんなりとしていると訝しげに名前を呼ばれハッとする。いかん、うっかり違う世界へ行き掛けていた。

「あの、えぇと……。どんな所かというと……男子校で、全寮制で、校則が厳しくて、裕福な家の方が多くて、えー、勉学やスポーツにとても力を入れられている学校……ですよね?」

「あぁ、うん。まあそんな感じだね」

そんなもんか、と素気無い返事に首を傾げる。他に何かあるのだろうか。訝し気な様子が伝わったのか清崎君が笑いながら話し出す。

「山の上の寮生活。町にも簡単に行けない。んで、生徒も教師も全部男。女っ気ない状態がへたすっと小学生からずっとっていう環境にいたらどうなると思う?さらに高校生といえば思春期まっさかり。いろんな欲求まっさかり!」

「……?」

「……恋とか、そういう対象が、男の人になっちゃってるの」

「……えぇっ?」

驚く俺に更に苦笑を深める二人。困ったような表情に、冗談ではないのだと思い知らされる。

「ま、マジで……すか」

「マジマジ」

驚き過ぎてうっかり素が出かけた。危ねぇ。

「可愛いのとか、カッコイイのとか、とにかく容姿がいーと特に持て囃されてな。それでファンが集まって親衛隊やファンクラブが作られたりすんだよ。生徒会や風紀は特にそーいう人気が高いんだよなー」

「ぼくも生徒会長さまの親衛隊にはいってるんだよ〜。すんごくかっこいいんだ〜。入学式で挨拶されてたはずで……見れなくてざんねん!」

急にテンション高く話し出され、俺と清崎君はちょっとたじろぐ。そっか、親衛隊とかってこんな感じか。小町君の様子に納得しながらも今一実感が湧かない俺ははぁ、と生返事をする。それを見た清崎君は腕を組んで何か考え込みだした。そしてそれまでうっとり話していた小町君に何かしら内緒話。ん?何だ?
耳打ちされた小町君は顔を歪ませ暫く躊躇した後小さく頷く。また何か清崎君がこそこそ話し掛けてきたのには首を横に振って、ゆっくりこちらに顔を向けた。

「ん、で……さ。さっき助けてくれたときも実は、さ、その、殴るとかじゃなくてそういう意味で襲われてたんだよ、……ね」

「?」

「……まぁ、強姦……ってやつだな」

頭も体も一気にガチンっとフリーズする。は?マジっすか。そういう意味って、そういう?確かに小町君は女の子みたいに可愛らしい容姿だが、え?マジで?もう、声も出なかった。

だから助けてくれて、本当に本当にありがとう。そう笑う小町君にぎこちなく頷き返す。笑顔だけどギュッと握り締められた掌が、何だか痛々しく胸が辛い。そう言えばここに来てもずっと小町君の緊張は解けていなかったように思う。助けられて、本当に良かった。
強張りを無理矢理解くよう口角を上げて笑い返す。それを見てほんわりと力を抜いた小町君に安心して俺も固まっていた肩を下ろした。

「あー、だから。吉里も気を付けろよ?」

頭を掻いた清崎君が、最後の締めとばかりに声を掛けてくる。ぼんやりしてそうだし、だなんて失礼だけれど耳に痛い事を付け加えて。しかし聞く限り見目麗しい人が対象という事なので自分は大丈夫だろうと無理やり心を落ち着かせる。さっきはちょっと劣等感を抱きかけてたけど、没個性な容姿で、本当に良かった。

「顔は地味だから急におそわれたりはないだろーけどね」

意地悪く小町君が笑って言う。うん、それ今自分で言った。心の中でだけどもう言った。
続く俺の凡庸さへの突っ込みに恨めしい気分で見返すが、空元気っぽく明るい口調で話す小町君とそれを盛り上げようとしているっぽい清崎君。そんな雰囲気に気付いて眉を下げる。良いやもう。元気になってくれるなら好きなだけ弄るが良いさ。

治療も終わりその後暫く歓談。小町君が本当に落ち着いたのを見計らい、式が終わる時間になって漸く腰を上げる。長居をしてしまったが保険医の先生はニコニコとしながらお茶まで出してくれていた。


お礼を言って保健室を出、三人並んで講堂へと歩く。人波を進み貼られたクラス表を見に行けば二人とは同じクラスだった。それに顔を見合わせ運命的だねーと笑う。

初めての土地、初めての環境で、実は不安で堪らなかったのだが。切っ掛けはどうであれこうして笑い合える友人ができた事を心から嬉しく思う。ちょっと面倒な事はあるけどどうにかなるだろう。どうにかならなくてもたった三年だ。きっとどうにでもなる、と不安を振り払い、新しい友人と一緒に教室へ向かった。



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