試験期間中

「なぁ、あそこにいる奴等親衛隊の奴じゃないか?」

「あ〜、ですね」

「集会か?」

「んー、ただ単に喋ってるだけかもしれないですしー」

「そうかなぁ」


雨上がり、試験二日目の午後。人気の少ない廊下の先で話す数人の生徒を見咎めた東雲君に続き足を止めた。言われてみれば親衛隊のリストにいた気がする。よく覚えているなと感心しつつ、疑う東雲君を宥めて面々の表情を観察する。笑う者、難しい顔をする者、うんざり顔で頭を掻く者。次いで手元を見やれば教科書や参考書。


「テスト勉強で集まってただけみたいですね」

「そっか。じゃあこの階は大丈夫そうだな」


一息吐いて肩を回す東雲君と並んで力を抜く。
試験期間の今、本来は委員会を含め部活も親衛隊も活動休止な期間だが現状、本当にそうしているか疑わしく。それ以外でも鬼の居ぬ間に暴れる奴がいないとも限らない。と、そんな感じでいつも通りに見回りが行われていた。俺は特待だからと免除される筈だったがどうしても手が足りないという事で東雲君と共に校内を散策。それが無事に終わり、ホッとする。普段の転入生に対する苛々した雰囲気もキツイが試験に対するピリピリ感もなかなか神経にくる。サッサと帰って休もうと東雲君を促し階段へ向かった。


「このまま試験とか行事に紛れて騒動も無くなっちゃえば良いんですけどねえ」

「ホントになぁ。でもまぁそう上手くはいかねぇだろな」

「ですよねー」


ガックリと頭を落として嘆息すれば隣からも溜め息。そんなアッサリ解決するものならこんなに苦労はしていないか。
でももういい加減飽きれば良いのにと思いながら階段の手摺を握った。何と無く足元が危うい気がする。今日は校内を回るだけだったけど結構疲れているようだ。今日は早めに寝ようと重くなってきた瞼を擦っていると、少し先を行く東雲君が俺を見上げて首を傾げた。


「なぁ。あれからやま……、彼奴等に会ったりしたか?」

「いえ、してないです。大丈夫でしょうか……」

「一応なんの連絡もないからたぶん大丈夫とは思うけど……」


思案げな表情でブツブツと呟く東雲君に追い付きこちらも考える。皆瀬君と山本君。渦中の人物達の事は噂こそ聞くけれど直接ではそうそう会う事が無い。広大な学園と言えど同じ校内でこんなに歩き回っているのに見掛けもしないのは不思議な話だ。いったい、今どうしているのだろう。


「メールとかしてみました?」

「いや。何と無くやりにくくて。あんまり関わり過ぎんのは良くねーだろうし」

「そうですね……」

「加害者か被害者かはなんとも言えないけど、どっちにしても肩入れし過ぎんのはなぁ」


風紀が公平を司る以上、どちらか片方を贔屓してはいけない。それくらいは分かっていても、彼等の状況に少しだけ触れてしまったからには多少なりとも情が沸く。そうでなくても皆瀬君達側の情報は圧倒的に少ないのだ。ちょっとくらいそちらよりに寄ってみたくなるじゃないか。
等と考えていると、足を止めた東雲君が言い辛そうに口を開いた。


「それに……何か気不味いじゃん。小町の事とか」

「……そう、ですね」


前回山本君達が話してくれた推測について言っているんだろう。葵君が所属する親衛隊に疑いを掛けられ取り乱してしまったあの時。折角得られ掛けた山本君達の信用も曖昧にしてしまった。その状態で気軽に連絡を取り合うのは東雲君の言うよう、気不味い。
それに。東雲君は知らない事だけれど。皆瀬君達を嫌っている葵君に黙って手助けを続けるのは、結構、後ろめたく感じてしまっている。
皆瀬君達を助けたいとは勿論思っている。でも、その行動は葵君を裏切る事になるのだろうかと考えてしまう。


どうすればいいんだろうな、と悩む東雲君に同意して最後の段を降りきる。あまり深入りしないまま彼等を助ける方法なんて悩んでも悩んでも浮かんでこない。そもそも学園全体を巻き込んだ騒動を解決なんて、ただの一般人ができる訳無いなんて投げ遣りな考えばかり浮かんでくる。

騒動を解決したい。関わり過ぎちゃいけない。助けたい。悲しませたくない。何とかしたい。いっそ逃げたい。
色んな欲求が脳を圧迫してきて堪らず頭を振る。そのままフラッと縺れ掛けた足がたたらを踏んだ。


「……今日、暑いですね」

「そうか?丁度良くね?」

「ちょっと、クラクラするような……」

「……大丈夫か?」


額に滲んだ汗を拭いボケーっとする頭を縦に振る。そうか。暑くは無いのか。確かに肌寒い気もする。じゃあ何でこんなに頭がぼうっとするのだろう。……予想は付くけどその答えは出したくない。
脳内の回答をはぐらかした俺を察したのかどうか。東雲君は溜め息を吐いて昇降口とは別の道を示してきた。


「保健室行くぞ」

「え。嫌です」

「嫌じゃねーの。行くの」

「えぇー、大丈夫ですよ」


顔を顰めた東雲君に向き直りちょっと睨み合う形になる。体調不良なのだというのは認めるが、保健室に行くまでのものでは無い、と思う。大丈夫。何よりテストは明日まであるのだ。それをやり終えるまでは何としても行く訳にはいかない。
そうボソボソ言い訳染みた呟きを溢せば呆れた様子で目を眇められる。それでも意思は曲げないと見詰め返せば大きく息を吐いた東雲君はジロリと睨んだ。


「……テスト終わったらちゃんと行けよ」

「はい」

「ったく……」


カクリと頭を前に傾け返事をする。益々顔を顰められてしまった。頭をガシガシと掻き足音荒く歩き始めた東雲君に続いて校舎を後にする。大丈夫。気のせい気のせい。疲れているだけだ。少し休めば大丈夫。帰りの足が重いのなんていつもの事だし。寝れば直ぐ元に戻るさ。


それでもふとした時ちょっとふらついてしまう。それを帰ってきて早々先輩に目撃されてしまった。どうかしたかという質問は勉強で単語を詰め込み過ぎたみたいだと笑って誤魔化す。釈然としない顔をする先輩の背を押して席に着かせ、どうにか普通に過ごして自室に帰った。

大丈夫大丈夫。そう頭のなかで唱え続けて今日、試験最終日。


「熱あるね」

「……ありますか」



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