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駄目な事をいっそ清々しい程良い笑顔で言ってのけようとする怜司君へ突っ込む前に、鋭い手刀が彼の脇腹に勢い良く決められる。呆気に取られて怜司君の後ろを見ると、手刀の主である藤澤君はそれでは教えた立場が無いじゃないか、とムスッとした顔で怜司君を睨んでいた。そうして今度は怜司君がお説教を受け始める。
ばかだー、と呆れた顔で二人を見る葵君は未だ膝に乗りっぱなしだがいつもの様子に戻ったみたいだ。ねー、と同意を求めて小首を傾げる葵君に安心しつつ苦笑を返した。


ちょっと楽しそうに二人を観察しだした葵君を抱え直し、何と無く教室を見渡す。明日のテストに備え早く帰った人。友達に質問している人。それとは関係無く雑談している人。他のクラスの人もいるがだいぶ人は少ない。
勉強は図書館に行くつもりだったけど教室でも良いかな、なんて思ったところでクラスメイトの一人と目があった。けど、直ぐに逸らされる。
傍の友達とコソコソ話してからまたチラッと見て珍しそうな顔をしたり首を傾げたり。そしてひそひそ話。この反応はあれか。不登校者が久し振りに来た的な。登校、しているんですけどね毎日。


グッ、と苦しくなる胸を誤魔化すよう笑顔を作って無理矢理視線を逸らすが、少し俯く。隣の席とか、特別教室での班とか、積極的に話し掛けてちょっとは顔を覚えてもらってきている。それでも……正直挫けそうだ。無視や苛めのようなものが無いのは助かるけど、ああいう微妙な反応って地味に傷付く。教室来る度こんな感じだと特に。学園が元のように戻ったら普通に授業や行事に参加できるようになる。しかしそうなっても馴染めないまま過ごす事になったら、教室居辛いな。
どうすりゃ良いんだろう、と落ち込んでいると、不意に腰に回っていた腕に力がこもって意識が戻った。


「ね、ゆーま。テストおわったらあそぼ」

「え?」

「最近あそべてなかったし。たまにはね、パーっと!」

「おー!いいな。どっか行く?なんなら外とか」


ニコッと笑った葵君が抱きついたままはしゃいだ様子で提案してくる。それに怜司君も乗っかって話を広げ出した。休みはいつかと聞かれて答えればそれに合わせて自分達の予定を調節するよう考えたり、行けそうな場所の案を出しだす。楽しそうな様子にふ、と笑ったところで大きな溜め息が聞こえた。


「遊ぶのは良いが、その前にテストの事忘れるんじゃないぞ」

「やぁーん……」

「いーんちょー……ちょっとくらい現実逃避したっていーじゃーん」

「逃避で点が取れるなら好きにするが良いさ」


撃沈する怜司君と萎れる葵君。背を叩いて励ますが、テスト嫌だ、と二人揃ってさっきの葵君状態になってしまった。駄目だこれ。
困って視線を向けると、藤澤君は俺と二人を順に見て微かに微笑んだ。


「吉里の方は大丈夫か」

「……うーん。不安はありますけど、はい。なんとかなりそうです」

「それは良かった」


満足気に笑った藤澤君はクラスメイトに呼ばれ、また明日、と離れていく。今日は朝から質問攻めらしい。答えた横から別のクラスメイトにプリントを見せられる背中を見詰め、ポンと両手を二つの頭に乗せた。


「じゃあ、パーっと遊ぶ為にもテスト頑張りましょう」

「はーい……」

「うへーい……」


げんなりした顔を上げ返事をする二人に笑う。最近ヘコむ度、誰かの姿に励まされているな。
色々悩みはあるしクラスメイトとの事に不安はあるけど、今はこの二人と藤澤君が一緒にいてくれるならそれで良いかと詰まっていた息を吐き出した。



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