テスト前日

右に左に忙しくバタバタ走り回っている間に日は矢のように過ぎていく。晴れ間よりも曇りや雨を背景にする事が多くなった時分。妹に指摘された風邪の兆候はやはり電話越しによる聞き違いだったようで特に体調に問題は無い。ちょっと疲れが取れ難い気がするくらいか。
先輩の親衛隊の事や皆瀬君達の事は気にしてみても結局何ができる訳でもなく。いつも通り風紀の仕事を片付けてはせめてもと料理に気合いを入れてみたり。
力の無いただの身ではそれが限界で無理をしても迷惑なんだと分かっていても、どうしても心配で。時間を追う毎に不安や悩みは溜まっていった。

と、いう個人的に深刻な話は置いておいて。俺は今、我が身に起こった事態にすっかり困り果てている。


「もーやだー!」

「大丈夫ですよ」

「やーぁだーーあっ」

「あー……」


席に座る俺の膝に乗り駄々をこねる葵君の丸い背中をトントンと叩く。どうあやしてもブンブン頭を振って半泣きな声を上げる葵君は俺の首にしがみついて離れない。
午後の授業後、帰宅する生徒でざわつく教室内。珍しく出られたホームルームが終わってからこんな調子だ。チラチラこっちを見てくるクラスメイトの視線が痛い。何でこんな状態になっているのかというと。


「すーがくきらいぃぃ……」

「俺が教えますから」

「もー問題みるのもやだぁー」

「えー……」


嫌だ嫌だとぐずる葵君が兎に角拒否しているものは、明日から始まる中間テストの教科の一つ。元々苦手なのもあるらしいがそれより何より先生が恐い、と。赤点なんか取ったら……、と想像しては怯えて泣き付く。軽いからそこまで負担じゃないけれど、そろそろ膝と腕が疲れてきた。
ゆっくり頭を撫でてやりながらまた勉強をしようと言い聞かす。今日は特待生だからという事で休みにしてもらえている。一緒に頑張ろうと言えば小さく頷く感触がした。

仲直りをして以来、葵君からのスキンシップがより増えた気がする。喋る時は隙があれば引っ付いてくるようになった。抱き付かれるのは慣れているし、そんなに今までと変わらない。ちょっと大袈裟な感じなのは喧嘩の反動かと思っていた。
けど、ふざけた雰囲気の中でたまに何か言いたそうにしている事がある。今みたいに落ち込みを隠すように顔を隠してしがみつく事も。それが気になって聞いても何にも無いと言われてしまう。何か、不安を抱かせているのだろうか。
そう思うと無下にもできず根気良く機嫌が治るのを待つ。聞きたい事は俺にもある。親衛隊の事とか。でも何と無く聞けない。誰に対しても中途半端で上手く力になれない自分がもどかしくて仕方無かった。


「あ。コラ葵。悠真にワガママ言うなっていつも言ってるだろー」

「怜司君」

「だってぇ……」

「だってじゃねーの」


頭を小突かれ漸く顔を上げた葵君と呆れた様子の怜司君を見比べてほっと肩を下ろす。怜司君の人柄か幼馴染みの力か、こういった時怜司君がいてくれると葵君の復活が早い。凄いなぁ、と羨ましく思いつつ動向を見守る。
葵君の言い訳をある程度聞いた怜司君は腕を組んでうんうんと頷きその言い分を聞き入れる。その上で、でも、とお説教。そして葵君はシュンとしつつもちゃんと聞く。なんか兄弟みたいで面白い。
クスッと笑うと何を笑っているのかと怜司君が半目で口を尖らせた。そうしてお叱りの矛先が俺にも向く。


「悠真も。いつも言ってっけどあんま葵甘やかさなくていーからな」

「はーい」


ペシッと小突かれた頭を押さえてまた笑う。怜司君は俺にもお兄ちゃんっぽい。
笑いながらふと顔を向けた先、怜司君の手に持たれたプリントに目が止まる。丸められたそれは今までやってきた小テストの束のようだ。そう言えば分からない所を教えてもらいに行っていたんだったと思い出し口を開く。


「怜司君はテスト大丈夫そうですか?」

「おうっ!オレは諦め、っだ!」

「威張るんじゃない」

「いーんちょ、……、相変わらずよーしゃない……っ」



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