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お礼を言って返せば気恥ずかしそうに半目になって口を尖らされる。今はこれで良いやと笑い姿勢を崩すとそっぽを向かれてしまった。


「……あぁ、でも」

「?」

「吉里の事話す時のアイツ、スゴく楽しそうなのは本当なんだ。だから、これからも仲良くはしてやってくれるか?」


優しい声色につられ、勿論です、と言い掛けた口を引き結んで笑顔に誤魔化す。仲良くはしたい。でも、葵君の泣きそうな顔や抱き締めてくる腕の感触がそれを引き留める。
助けはするけどあまり深くは関わらないように。頭の中で許されるだろうギリギリのラインを引く。心苦しさで胸が痛んだが、ところで、と声を上げる事で知らぬ振りをした。


「お二人は、何かから逃げてらしたんですか?」

「…………」

「えっと、これは風紀の仕事的にも答えてもらいたいんですが……まだ話してはもらえません、」

「親衛隊」


まだ信用はしてもらえないのか。落とされた沈黙にそう訊ねようとしたら短い単語が返される。


「えっ、ちょっ、何話してんのっ」

「……情報くらいは共有しといた方が良いだろ」


驚く内に山本君は幾島君とぼそぼそ話した後他所を見て、ただドコのかは分からない、と続けて呟いた。


「態々名乗りを上げて命令してきた今までのと違って、顔隠してるし、人気な皆様に近付くなって言うだけで誰に、とか個人名言わねぇし。最近そんなのがよく来るんだよ」

「隊員とか言ってたから親衛隊なんだろーなってのは分かるんだけど。気味がわるいったらないよね」


幾島君も腕を組み眉を顰める。それは確かに不気味だ。どこの親衛隊か名乗らないのは制裁について咎められるのを逃げる為か。だとしても今までずっと気にせずやってきた事を今更変えたりするものだろうか。
うーん、と唸っているとそのまま山本君は三人で話し合ったんだろう推測を話し出す。それを東雲君と頷きながら聞いていた。が、その話に息が止まるかと思う程の衝撃を受ける。


「んな妙な事態々やるのどこだろな、って話になるよな。んで。会長のとことか怪しいんじゃないかって、」

「っ何でですか!?」

「うぉっ!?」


考える前に勢い込んで叫ぶ。
何で、どうして、その名前が出るんだ。


「え、何。どうした?」

「……あー、会長んとこの親衛隊にこいつ友達いるんだよ」

「あ……」


しまったという表情で俺を見る二対の目。それに反応を返す余裕は無い。
葵君だけじゃない。会長は先輩で、親衛隊隊長は隊長さんで。葵君から親衛隊の先輩が鬱陶しいなんて話は聞いていたけど、でも、先輩の親衛隊がそんな誰かを傷つけるような事なんて。

東雲君に背中を叩かれて我に返る。無言で見詰めてくる東雲君の瞳に、混乱を無理矢理押さえ込んだ。私情を挟んだら駄目だ。そう何度も頭の中で唱えて深呼吸。そうして一言謝り、大丈夫です、と口にする。心中の荒れは落ち着かないが話を聞かなければ。真っ直ぐ山本君の目を見据えたところで東雲君がとつり口を開いた。


「会長、皆瀬と殆ど関わってねぇのに親衛隊が動くと思うか?」

「……それに会長の親衛隊隊長は特に制裁を厳しく禁止していらっしゃいますよ」

「あー……そーなんだけどさぁ。だからこそ逆に怪しいんじゃね?って思ったり何だったり……思いつきなだけでー……」

「他にも疑ってるとこは有るんだ。……けど可能性は何でも考えなきゃいけねーだろ?」


確かに、そうだ。
頷いて応えるがその動きは緩慢になる。本当はもっと情報が欲しい。けれど頭の整理がつかなくて。そんな俺の様子を見兼ねてか、その後は二、三話すと連絡先だけ交換して別れた。気遣う二人の視線が辛い。しっかり仕事をしたいだろう東雲君に申し訳無い。


絶対何も無いと言い切れる。けれど風紀である以上、疑わしいものがあるなら小さな事でも突き詰めなくてはならない。そう、疑いを持たなければならない状況が単純に嫌だった。ただ無実を証明すれば良いんだと分かっていても。
でももし、何か関係があったらどうしよう。彼等は関与してなくても、親衛隊の一部が勝手に暴走してただとか。あの優しい人達がそれを知って傷付いたら。それに皆瀬君も。助けたいと言いながらこんな中途半端な気持ちで取り組んじゃいけないのに。早く、なんとかしてあげなきゃいけないのに。……俺、どうしたら良いんだろう。いやそもそも、俺に出来る事なんて有るのかな。


ジャリッと靴が砂を踏む音にハッと顔を上げる。考えながら歩く内にもう寮まで帰り着いたようだ。石畳に立ち夕闇に沈む寮を見上げる。


「…………いってぇ……」

「……いきなり何やってんだお前」

「あはは」


広げた掌でパンッと両頬をはる。勢い良すぎて想像以上に痛く呻くと、驚きつつ呆れた東雲君になんとか笑って見せた。
最近何だかうじうじ悩んでばっかりだ。そんなの自分の性じゃない。何が出来るかなんて分からない。それでも何かはできるかもしれない。だったら、やるしかないだろう。昨日のだってそう乗り越えたじゃないか。


気合いを入れ直し東雲君と今後について話しながら寮へと足を踏み入れた。



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