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驚いて固まってしまったけどお互いこのままという訳にもいかない。気持ちを切り替え笑顔を作り話し掛ける。


「えーっと。……お久し振りです?」

「え。あ、あぁ、久し振り」


パチパチと瞬いた山本君は頭を掻きながら応えてくる。ややあって幾島君からも返事があり空気が緩んだ。それに安心すると姿勢を崩した山本君が苦笑しながら口を開いた。


「あー、何だ。何か昴が世話になったとかで。悪いな」

「いえ、俺は何も……」

「アイツ、スッキリした顔して帰ってきてさ。色々溜め込んでるみてーだったからどうしたもんか悩んでたんだけど、助かった」

「そうですか」


良かったです、と呟き視線をずらすと東雲君もほっとした顔をしていた。あれ以来東雲君もちょいちょい皆瀬君の事気にしていたからな。俺がしたのは話を少し聞いただけだけど、それで気が晴れたのなら本当に良かった。


「……何でか俺の顔見なくなったのは意味わかんねぇっつーか気に食わねーけど」

「…………」


ブスッと拗ねた表情の山本君に内心であー、と言葉に出来ない微妙な気持ちを吐く。原因は、きっと俺だ。無自覚だったんだろう山本君への好意を俺がうっかり暴いちゃったせい。それで気不味いというか気恥ずかしいというかで複雑な心境なんだろう。

そんな皆瀬君の心情を知っているのは俺と東雲君と、たぶん幾島君。山本君の発言に凄く渋い顔をしているし。気付いていないのは本人だけみたいだ。避ける姿に苛立ちを感じるのは脈があるのかとちょっとワクワクするけど……いや、単にムカついているだけだなこれ。


いきなり何なんだとキレ気味の山本君を当たり障りない言葉で宥める。恐らくいつかは分かる事だろうと皆瀬君の隠しようのない動揺っぷりを思い出しながら頑張れとエールを送り遠い目をした。


俺の話で落ち着いた山本君は罰が悪そうな顔で首を掻くと大きく息を吐き表情を引き締めて俺を見返してきた。


「……兎に角。迷惑掛けて悪かった。……ホントはアイツ関連の事、出来るだけ俺達で片付けなきゃなんねぇのにな」

「そんな!山本君達だけがやらなきゃならない事じゃないですよ。俺達だって、」

「そりゃある程度手助けとか必要だけどな。だからって他のヤツまで妙な事に巻き込むのは気分悪いんだ」

「山本君……」


自分は同室だから仕方無いけど、とカラッと笑う山本君に掛ける言葉を無くす。きっぱり言い切った山本君の目は真っ直ぐで。頼もしくも感じる。
でも、だからと言って学園全部を敵に回した状態を見過ごす訳にはいかない。風紀としても、俺個人としても。
そう伝えようと口を開く前に、ボソリと小さな呟きが静かな林に存外ハッキリ落とされた。


「……オレ的には吉里が皆瀬についてくれると嬉しいんだけどー」

「は」


振り向くと幾島君がソッポを向いたまま木に背を預けていた。視線に気付いていないっぽいからただの一人言か意識した発言じゃなかったのだろう。しかしその発言に山本君はキッと目をつり上げた。


「……何気軽に無関係なヤツ巻き込もうとしてやがる」

「え。……って、違う違う!そういう意味じゃなくてさ!」


不穏な空気を放つ山本君に焦って手を振り回す幾島君。後退りながら必死に山本君へ弁解を始めた。


「ほら!皆瀬、吉里のこと気になってるみたいだからちょーっと仲良くなるお手伝いみたいなのをさぁ」

「全力で断る」

「へ」

「えぇっ!何で!」


いや本当何で俺じゃなく東雲君が答えているの。
話題の中心である筈の俺を置いて東雲君と幾島君が言い争う。山本君は、またかアイツ、なんて気が削がれた様子で呆れた声を吐き出した。いや、なんなの。


「えー!……って、そっか。うん。そうかそうか。ゴメン。オレってばうっかりさん。吉里にはちゃんと相手がいるっての忘れてたよっ!」

「……それも違うからな。相方を変な道に引き摺り込むなって言ってんだよ……!なんなんだよ腐男子って奴は……っ」

「べっ……!?つに、……オレ腐男子なんかじゃナイデスよー。チガウチガウ。オレはただ親切心で手伝ってやろうってだけでボケっぷるナイスだとか風紀受け萌えとかそんなん考えてなんかいないんだからねっ」

「……既に語るに落ちてんぞ」


……あぁ、うん。成る程。
東雲君の静かな叫びに一時期の絹山先輩を思い出し、一連の流れを把握する。皆瀬君の『気にしている』というのを所謂腐男子的に受け取っての発言だった訳ね。
何だかなぁ、と天を仰いでいると隣に来た山本君が溜め息を吐いて俺を見る。


「何にせよ。無駄に被害者増やす真似はしねーよ」

「被害者なんて。早く解決するにも協力者は多い方が良いじゃないですか」

「……そうだけど」

「皆瀬君と、山本君と幾島君を。助けたいって思っちゃ駄目ですか?」

「…………」


微笑みながらそう言えば難しい顔をした山本君が首を掻いて目を落とす。今まで学校全体、身近な人達殆どが敵な状況だったんだ。そう簡単に誰かを信じるのは難しい心境なのかもしれない。それによる柔らかな拒絶だったんだろう。それでも、少しでも良いから頼っても大丈夫だと思えるようになってほしい。相手が俺じゃなくても良いから。
悩む様子をジッと見詰めて待てば、考えとく、とだけ返された。頭の片隅にでも置いてもらえるだけ、少しは心を開いてもらえたのかな。



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