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「……オレ、転入してきて直ぐは友達も直ぐに出来たし、いい奴らばっかりだったし、楽しそうだし、いい学校なんだなってわくわくしてたんだ。習慣とかよく分かんなかったけど頑張って慣れてくつもり、で、」


一度言葉を詰まらせた皆瀬君をそのまま何も言わずに待てば弱々しいながらも話を続けられた。


「仲良くなった奴らがこの学校で人気者だってのは知ってて、あんま近付くなって言われてたけど。折角仲良くなれたのに直ぐ離れるのって何かイヤって言うか相手に悪いなとか思って、さ」

「……はい」

「でもそのせいで嫌がらせとか、……制裁とかあって。それで、他にも色々大変らしいのに皆そんなんから助けてくれてたんだっての知って、……謝って離れたけどまだ終わんなくって」

「……はい」

「なんか変なイメージついてるみたいだし、話聞いてもらえないし。しかもその制裁ってやつ、同室だからって祥守にもされてたって聞いて、からっ、」


声の震えに喉を鳴らした皆瀬君はぶんぶんと頭を振る。そうして一度深呼吸をしてからまた口を開いた。


「折角出来た友達にも迷惑かけてるし……。オレ、もう学校辞めた方がいいのかなとか、思ったりした、けど、」

「…………」

「祥守は気にしないでいいから兎に角誤解解くぞって、励ましてくれて、周りにも働きかけてくれててっ」

「…………」

「ホントはオレがやんなくっちゃいけないのに、ややこしくなるからまだ大人しくしてろって。……実際親衛隊の人達と話そうとしてみたら余計に怒らせたし……」


もうどうしろって言うんだよ、と消え入りそうに息を吐いた皆瀬君は拳を額に当て俯く。力無く嘆く彼が演技をしているともまして嘘を吐いているとも思えない。
チラリと横を見れば沈痛の眼差しで東雲君が皆瀬君を見ていた。


「……分かりました。こちらに届く情報とかなり食い違っているので委員長に伝えて直ぐにでも、」

「っなあ!オレは、どうしたらいいんだ?」


ガバリと顔を上げた皆瀬君が縋るように両腕を掴んできた。ギュッと力を込められ少し痛いがそれだけ思い詰めているのだと伝わり胸が苦しい。


「……現状何も出来ない事は歯痒いでしょうが……兎に角、潰れずにしっかり立っていてください」


たぶんそれが一番辛い事だけど、と小さく付け加える。
実際気が立ち過ぎて話が成立しない人は割りとよくいる。過敏になっている親衛隊なんかは特に。だから、確かに彼はまだ下手に動かない方が良いと思う。……良い考えが浮かばなくて、こんな事しか言えない自分が情けない。
納得は出来なかったろうに、それでも、そうか、と呟いた皆瀬君は力を抜きゆっくり離れた。


「分かった。……話、聞いてもらえて、よかった。こんなの祥守達には言えなくて、さ」

「……俺も良かったです。必ず俺達も何とかしますから、また詳しくお話うかがっても良いですか?」

「っうん、オレからも頼む。……もう祥守達に迷惑掛けたくないし、頼るだけじゃなくて、もっと友達だって胸張って言えるよう頑張る」


笑って決意を口にした皆瀬君は晴れやかな様子でお礼を言ってきた。顔はよく見えないが落ち着いた表情をしているようでホッとする。
今まで周りの話ばかりで彼自身から事情を知らなかった、いやろくに調べていなかった事が悔やまれて申し訳無い。……どうして誰も知らないのだろう?これを知っているのは山本君とたぶん幾島君。その他には……?

思考に浸り掛け、ポンと肩に置かれた手にハタと顔を上げる。沈黙に不安になったらしい皆瀬君の姿に慌てて笑い掛けた。肩を叩いた東雲君に話は後で、と視線で告げて話題を探す。


「えっと……、山本君も働き掛けてくれてるんでしたっけ。凄いですね」

「あぁ!クラスで皆に引かれてても一緒にいてくれるし、色々教えてくれたり慰めてくれたり怒ったりもしてくれるし、ホントにいい奴なんだ!……なのにこんなうじうじしてたらまた怒られるな」


気の緩んだ空気にいつの間にか強張っていた肩を下ろして話を聞く。友人を自慢したり自分の事に落ち込んだりと忙しないが生き生きとしていて、やっぱり噂の『転入生像』は可笑しいと再確認した。
まぁそれは置いておいて。山本君の事を話しだした途端元気を取り戻した皆瀬君は本当に楽しそうで微笑ましい。そう感じるがままに思った事を口にした。


「…………それに、こんなんじゃなくて吉里にもカッコいいとこ見せた、」

「皆瀬君は山本君の事、凄くお好きなんですね」

「……って、へ?…………えっ!?っべ、べべべ別にす、すすすす、好き、とかそんなんじゃ!」

「え?……あ、いえ俺はただ山本君の事を本当に大事に思っていらっしゃるんだなと、」

「いやっ!?だって、えぇ!?……っでも、」


突然混乱した様子で大声を上げた皆瀬君は俯くとブツブツと何か一人言を言い出す。大丈夫かと顔を窺い見れば一瞬固まった後、見える部分全てを真っ赤にして飛びずさった。


「ーーーーっ!?あ、お、オレっ、帰る!」

「あ」


そう叫んだ皆瀬君は凄まじいスピードで駆け抜けていった。取り残された俺達は暫く動けずにそれを見送る。


「……俺、友達として、な、つもりだったんですけど……」

「……まぁ、そうだよな」

「でもあの反応って……」

「……まぁ、だよなぁ」

「ですよね……」


取り敢えず、頑張れとこっそりエールを送る。そしてごめん、と。すると東雲君がお前なぁ……、と脱力した。
何で呆れた視線を向けられているのだろう。そりゃいきなり好きな人言い当てちゃうなんてあれだけど不可抗力だし。あんな真っ赤になられるなんて思わなかったし。……あぁ、山本君の方はどうなんだろ。協力的で仲は良いんだと思うけどそれとこれとは違うし。妹の言ってた友情と愛情の違いって何だっけ……って、いやいや、そんな恋愛事情は良いから早く皆瀬君助けてあげなくちゃ。

緊張が解けてさっき以上にボーッとした頭の中色々考えるが思考があっちこっちに飛んで纏まらない。髪に手を突っ込んでガシガシと掻いていると長く息を吐き出した東雲君が空を仰いで何か呟いた。


「……まぁ半ば吉里のフラグ叩き折れたみたいな感じで、良かった……んだよ、な。余計な仕事増えなくて」

「フラグ……?あ、戦争が終わったら結婚するんだ、とかのあれですか?」

「……あーーー、うん。そんな感じそんな感じ。うん」

「へー。……えっ?俺死ぬんですかっ?」

「……もう良いからお前帰って寝ろ!」

「あうちっ!」


パーン、と頭をはたかれ衝撃にクラクラしている内に風紀室に引き摺り戻される。入室して直ぐ様書類整理をしていた先輩方に俺の早退を伝えられ、いや駄目だろと撤回しようとしたのだが。それより早く先輩達はあーやっぱり?という反応をしてあっさり許可を出した。それにポカンとしている間に報告は自分がしておくからちゃんと寝ろよ、と言った東雲君に荷物ごと追い出された俺は、唖然としたまま廊下に立ち尽くした。



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